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ASDの方の無職率80%は本当なのか調べてみた

こんにちは精神科医のはぐりんです。
※この投稿は3.4分で読めます、最後までご覧いただけたら嬉しいです。

今回はSNSで、ASDの方の無職率が8割、というかなり衝撃的な情報を目にしたので、私なりに調べ考察してみました。

調べてみると、2019年のアメリカの就労支援に関するコラムの中で、『世界全体で推定7000万人とも言われるASDを抱える人々のうち、約8割が無職もしくは著しく能力以下の仕事に従事している』とありました。

さらにこの7000万、8割、という数値に関しては、どうやら2017年以前のアメリカ疾病管理予防センター(以下CDC)による統計データのよう。CDC発なので信頼できるデータと言っていいでしょう。

ただこれは少し古いデータで、CDCの2023年のデータで8歳児を対象に調べたらASD児は2.76%、日本では諸説ありますが大体3%、世界的には約1%だそう。

ASDの有病率が年々上がっているのは、ASD自体が徐々に増えているというよりは、診断の精度が上がってきているというのが理由のようです。

まとめると
・ASDの有病率は世界全体では約1%も、地域差が大きくアメリカや日本では約3%
・ASDの8割が無職(もしくは著しく能力以下の仕事に従事)はCDC発で、どうやら信頼できるデータ

ということになります。もう一つ付け加えると、私の推測ですがアメリカや日本で有病率が高い理由としては、診断精度が高いことの他に社会への適応能力がより高い水準で求められる、ことからと予測しています。

冒頭にも述べましたが、ASDの8割が無職、というのはかなりの衝撃でした。自身の特性を生かして専門職に就いて活躍しているようなASDの方たちは一部なんですね。ただこのASD、再三これまでの私の投稿でも述べてきましたが、スペクトラム/連続体で、無職率8割は特性の濃い方を対象にとったデータと思われます

発達障害グレーゾーンの方まで含めると有病率は約10%弱まで上がりますが、おそらく就労率の方もかなり上がるのではないかと予想します。ただ一方で就労にあたってなんらかの苦悩を抱えている、パワハラを受けていたり、休職中だったり、転職を繰り返している方だったり、もちろんグレーゾーンの方でも無職の方は少なくないでしょう。

診断する側の視点からも少し。ASDの8割が無職ということは、裏を返せば就労している方であればASDの可能性はかなり低いということになります。大人の方で発達障害かどうか診てほしい、と来院された方の場合、こういった統計は診断にあたって一つの指標になると思っています。

私の感覚ですが、ASDの診断をつけるかどうかは医師によって少なからずバラつきがあると思っていて、昨今診断精度が上がっている反面、過剰診断(over diagnosis)も問題になっています。ASDの診断は一生ついて回るものだし、診断はしっかりとした根拠を持って、その後の治療も含めて医療者も患者さんも納得した形で行っていく必要があると言えます。

ASDの方々をどう就労につなげていくのか、非常に難しい問題だとは思うのですが、安心できる環境で自身の好きなこと、得意な分野であればものすごい集中力を発揮できる(過集中)という側面があります。

そういった部分を発揮するには、同僚間での縦や横のつながり、チームワーク等が求められないような環境が望ましいのかもしれません。

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