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■研修医同士のカップル


私の後輩に研修医同士のカップルがいました。同じ内科医局でのおつきあい。医局内で仲がいいのはいいことです。

でも、時代でしょうか?
今から20年も前にもなりますと、そんな噂があれば快く思わない人もいました。

◯◯先生と◎◎先生つきあっているんだってー。

そんな噂が出れば少なくとも病院内には知れ渡るし、なんだかややこしいことになる時代。「医局内恋愛禁止」とは言わずともそんな雰囲気がありありでした。だからみんな隠れて付き合う。職場では、付き合っていることを隠さなければなりません。そんな時代があったのです。

ではなぜ私はそのカップルを知っていたのかというと、私は当時、医学生時代からおつきあいしていた彼女がいました。彼女は短大を卒業して、地元の病院事務として働いていました。私も研修医として勉強する毎日。何かあればオンコール。だから、2人で会う場所や時間は限られていました。その限られた時間と場所が、たまたま後輩の彼らと同じだったのです。

プライベートだから、お互い見て見ぬふりをすればいいのに。バカ正直な我々は、気づいたら挨拶。そしてなぜか何度かダブルデートをしました。ただ、職場ではお互いにそんな話はしません。私は職場内での恋愛ではなかったので関係ありませんでしたが、彼らの場合は職場内での恋愛。慎重に扱う必要があります。だから頑なに触れないようにしていたのに、なぜかお酒の席でポロッと自ら話してしまう二人。今言うかー!と心の中で叫びましたが、翌日、病院内では二人の話でもちきりになってしまいました。

■突然の出来事が若い二人を分かつ


ただ医局内で仲がいいのはいいこと。陰口もありましたが、わりと受け入れられて、仲良く節度を保ったカップルが成立しました。しかし残念ながら、それは長く続きませんでした。

後輩の彼女のお父様が病気で倒れてしまったのです。彼女は若いうちにお母様を亡くされ、男手一つで育てられていました。
「お父さんがいなくなったら、私一人になってしまう。私はこの大学病院にいたいけど地元に帰ります」
後輩の彼女からそう聞かされ、私も涙しましたが、どうすることもできません。
「そうだよ。お父様のとこに行くのがいい。後悔することになる」
なるべく彼女の気持ちに寄り添って、そう伝えました。それからすぐ彼女は地元に帰って行きました。

残された後輩はすっかり落ちこみ、みるみる痩せていきました。何度か後輩を見かけて声をかけようとしたのですが、彼の顔を見ると言葉を飲んでしまう。そんなことが何度も何度もありました。周りはみんな腫れ物に触るように、あからさまに彼を仕事以外では避けていました。

ですが私は、後輩の彼らとはダブルデートをした仲でもあります。私は意を決して彼に話し掛けました。

「一緒に飲みに行かないか?」

彼は私と二人になると、ぽつりぽつりと話してくれました。彼は自分の地元である、この大学病院で研修医としてキャリアを積むのか、それとも彼女の地元に行くのかを悩んでいました。その後も私は彼の話を聞き続けていたのですが、ある時、彼に「もう決まりました」と言われました。どうやら彼女の方から別れを告げられたそうです。彼女は一時の感情で医師人生を棒にするのではなく、彼に地元でちゃんとキャリアを積んでほしいと願ったのでしょう。そして、彼もそれを受け入れました。

ですが話を聞いていた私は、きっと彼の本心は違うだろうなと思っていました。

やがて大学病院での研修を終えて彼は関連病院へと派遣され、私は専門とする小児神経学を極めるため、東京へと旅立ちました。

■再会した後輩カップルたち


数年して、ある学会の懇親会。無理矢理連れ出されたホテルの立食パーティーで、若手の私は居場所もなく、学会の強者先生がロビー活動するなか、何となく疲れて壁際に行こうと移動したところ、そこに彼がいたのです。同じく上司に連れて来られたのでしょう。気まずい若手同士。連れだって懇親会を抜け出して、上の階のバーで飲むことにしました。

数年ぶりだから話すことは沢山。やがて、彼からあの彼女の話が出てきます。

「本当にあんな彼女いなかったよ。彼女のこと本当に好きだったんですよ‥」

私は彼の話を聞いて、前々から伝えたかった言葉を口にしました。
「恋はほとんど成就しないまま終わるんだよ。好きな人ができた。それだけで一生の宝物なのだ」
「そうですよね。本当に最高の彼女でした‥」
と彼が呟いたところに、なんと彼女が現れたのでした。

「えっ??」
「先生、私たち結婚したんです!だから、彼女じゃなくなって、妻なんですよ」

格好つけて恋愛を後輩に語ってしまったあとに、ネタ晴らし。何と恥ずかしいことでしょうか。
「先生と話しているうちに、やっぱり彼女が大切だからって、彼女の地元に行ったんですよ。結局、お義父さんは亡くなってしまって。でも、結婚式に来てもらえたし。医師免許があれば、どこでも医師は仕事できますから」

今は彼女の地元で2人仲良く働いているそうです。仲のよかった2人が結ばれた。医師の世界は狭い。こうして、医師は出会いと別れを繰り返す。みんなが医師として頑張っている。そんな思いで私は医師人生を歩んでいます。

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