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■関西弁アレルギーになった理由

私は関西弁アレルギーです。
東京生まれ横浜育ち。大学は石川県の私立医科大学。地方医科大学ですので、全国から学生集まっていたため、その中には関西弁を話す学生もいました。私としては、初めての関西弁です。

関西出身の友人たちは、明るくて楽しくて元気。失敗しても、それを笑いのネタにするような友人ばかりでした。いろいろな友人と出会えたことは、世界が広がるので幸せな経験です。

ただそれが研修医となり、関西弁を話す上司から、「あかーん」「辞めてまえ」「何考えとんねん」と怒られることにより、私の関西弁アレルギーが発症してしまいました。

学会発表の予演会。予演会ですから、失敗するんです。完成品じゃないものを医局員に磨かれて、本番の学会発表に挑めばいいのですから。ただ、その予演会でも発表途中で、「あかーん」と大きな声で指摘されると、全否定された感じになり、心折れてしまいます。「ちょっとそれは‥」とか、「ダメだな」ぐらいのほうが精神衛生上は良いのですが、こういった関西弁での否定が、私をすっかり関西弁アレルギーにしたのです。

■超ド級の新人君

研修医時代を終えて、私は埼玉県へと拠点を変え、医師として働いていました。そこには関西弁の医師はいません。これでようやく、平穏な時間が流れると思った時、新人の医師が挨拶に来ました。
「⚪︎⚪︎です。大阪それから奈良でやってました。埼玉県は初めてです。よろしゅうたのんます」
ボケーっと医局会に出席していた私の心臓が、ドキっとしました。忘れかけていた関西弁アレルギーです。

ただその新人は内科医。私は小児科医ですので、関わることはないはずと思っていたのですが、医局の机が向かい合わせ。とはいえ幸いにも医局の机はパーティションがあるので、向かい合わせに座っていても目が合うことはありません。私は極力、彼と会わないようにコソコソする日々を過ごしました。

例えば廊下を歩いている時に、「大阪は回転寿司、オムライスに自動改札機の発祥地なんですわ」と誰かと話す声が聞こえると、ダッシュで逃げるというような感じです。
しかし、医局会で回避することはできません。そんな彼が話しかけてきました。
「先生のとこ、家賃なんぼでっか?」
家賃聞くんだ。TVで見た通りだなと思ったのですが、あけっぴろげに見えて、質問返しすると、それには答えてくれません。私の聞き方が悪いのか、そういうものなのかの判断は尽きませんでしたが、何となく話しづらいというのはありました。

だいたい埼玉県で関西弁を聞くことなどありません。声音も大きいので、医局で彼の存在は浮いていました。

また、こんなこともありました。
「先生、今度飲み会いつにします?」
小児科看護師が医局で聞いてきます。
「うーん。納涼会だよね。3週間後みんなあいてるかな?」
と話していると、彼が割り込んできました。
「ワテもよろしいか?」
「あー。先生も来ます?」
社交辞令で看護師が言ったにも関わらず、彼はすっかり行く気に……。酷いかもしれませんが、私は何かトラブルに巻き込まれろと、本気で願っていたのですが、彼は小児科の飲み会にちゃっかり参加。しかも、なぜか席は私の隣り。大人ですからあからさまには嫌とは言えません。

「先生、日本で一番小さい都道府県はわかります?」
「大阪府かな?」
「あかん。そんな言ったら大阪おったら、どつかれますで。香川県ですわ。大阪は埋め立てて大きなったんですわ」
と、言われました。私は思わず、ハァーとため息が出ました。すると彼から思わぬ言葉が……。

■驚きの新人の出身は実は……

「ボクって先生にもハマってないですか?」
「あー。昔、厳しい上司が関西弁だったんだよ。それもあって関西弁が苦手なんだよ」
「そうですか」
さすがに私にハッキリ言われたせいか、彼もおとなしくなりました。ですがその結果、すごいスピードで酒を飲み始め、彼はベロンベロンで悪がらみを始めたのです。

「実はボク、大学が大阪だったんですけど、大阪行ったら、おもろないなとかくそつまんねーなって言われて頑張って自分変えたんですけど。何だかボク、埼玉ハマってないですわ」
看護師たちは彼の大声に驚き、目で私に訴えてきます。こうなったら私が話を聞くしかありません。

「埼玉あわないの?」
「だって、みんなボクのこと避けているじゃないですか?」
(うーん。確かに)
「こんな媚び売りしているのにさー」
「ちょっと声でかいよ。先生も自分の話するばっかりじゃなくて、媚び売るなら誰かの話聞きなよ」
「そしたら仲良くしてくれます?」
彼は上目遣いで私を見てきましたが、私はその質問には答えられません。
「君は大阪出身じゃないの?」
「えぇ。横浜出身です」
「横浜のどこなの?」
詳しく聞けば、彼は私の高校の後輩でした。
「お前、だったら、横浜弁で話せよー」

飲み会でぶちまけた彼は、すっかり関西弁を忘れたようでした。埼玉に馴染もうとしたみたいです。もともと大阪に馴染もうと努力して自分を変えたのですから。それぐらい容易いのでしょう。郷に行っては郷にしたがえ。彼もすっかり埼玉で目立たない存在となりました。

しかし、この新人。高校の後輩とはびっくり。すっかり飲み仲間となりました。後輩なので基本は私が驕りますが、たまに今回は支払いしてほしいときも会計で「えーやん」と言って、支払いを逃れようとするのには困りものですが……。

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