【子育てエッセイ】母の筆箱
小学校3年生の時のこと、家庭科の授業で、フェルトなどを使って自主制作をする課題がありました。
小学生男子なのでいろいろ工作するのが楽しく、手芸店でフェルトを購入し、家庭科の授業時間のみではなく、家でも合間時間にいくつか制作していました。
課題提出には筆箱を出したいと考え、フェルトを縫い合わせ、ジッパー部分を縫い付け、自分なりに満足して、ランドセルに入れ、提出の用意ができていました。
課題提出日。学校でランドセルを開けると、自分で作成したものとは似ても似つかないものが入っていました。え?。私の不器用さはずば抜けていました。鉛筆や消しゴムが落ちない程度の荒い縫い合わせのはずであったものが、きっちりと細かい縫い目で縫い合わせてありました。
え?え? そのまま課題提出。でも、先生はしっかりと分かっており、返却の際に「誰かに手伝ってもらったんでしょ? 不合格です。」のお達し。
私とは逆に手先がずば抜けて器用な母が縫い直していたのです。恥ずかしいやら悔しいやら。課題が返ってきた後、母に怒りをぶつけました。罵倒しました。母は困った顔をして、「だってあんなのみっともないでしょ?」。
わたしの怒りが沸点に達し、目の前で筆箱をぐちゃぐちゃにしてやりました。母は「ごめんね」と言ったのを覚えています。やりすぎたかな?とも思いましたが後の祭り。
共働きの多忙の中、愛する子供のために、夜中に、人知れず縫い直しをしてくれたのです。「ごめんね。あなたの気持ちを考えていなかった。」ちょっとずるい気もしますが、そんなことを母に言われると、返す言葉もありません。「僕もごめんなさい」とも言えず。結局、その筆箱を小学校卒業まで使い続けました。
色も汚くなり、母も忘れたかとも思いましたが、忘れてはいなかったはずです。何度か母に「もう捨てたら?」と言われたり、流行のキャラクター物でなかったので、友達にも馬鹿にされたりしましたが、使い続けました。家庭科の先生に「あの筆箱まだ使ってるんだ?」と驚かれもしました。
そんな母とのできごとを、悔みつつも懐かしく思い出す今日この頃です。