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おためし教育移住 in 新潟県妙高市①

こんにちは。ミライ研研究員の阿部です。 本投稿ではミライ研がこれから実証実験を計画している「おためし教育移住」に関して、その背景にある想いを、私の自己紹介も兼ねて綴らせていただきます。


教育移住を実践してみて

私は現在、長野県長野市の標高1100mの山の中に住んでいます。よく「なんでそんなところに?」と聞かれますが、「自然豊かな環境で子育てをしたかったから」というのがその答えになります。

自然豊かな環境だけなら他にも選択肢はあったのですが、なぜ長野を選んだのか。それは、そこに息子に合いそうで、面白そうな学校があったからです。幼少期、個性が強すぎて、発達障害のグレーゾーンを疑われた子だったこともあり、おそらく公立の小学校は合わないだろう。もっと自由な校風の学校はないだろうか。と色々探した結果、直感的に「ここだ」と思ったのがたまたま長野だったというわけです。

これは約14年前の話で、今思えば我ながら思い切ったことをしたものですが、結果として本当に良い選択だったと感じています。移住先での生活や仕事面での苦労は数多くありましたが、家族にとっても、自分自身にとっても、良かったことの方が今となっては圧倒的に多いと感じています。

移住のきっかけとなった長男は、周囲の人にも恵まれたということもありますが、野球にスキー、鉱物採集に野鳥撮影と、豊かな環境の中で、興味の赴くままに探究を重ね今はもう大学生。長野で生まれた長女(今中学生)も、とても健やかに朗らかに成長しています。特段取り柄も自慢できる実績もない私ですが、二人の子どもたちが幸せに、自分大好きで育っている、というのが数少ない自慢だったりします。

オルタナティブスクールとは

長男が通った学校は、いわゆるオルタナティブスクールです。オルタナティブスクールという言葉に馴染みのない方もいらっしゃるかと思いますので、以下に家庭教育研究家の田宮 由美様のAll Aboutの記事を紹介しておきます。

オルタナティブスクールは、画一的な教育ではなく、個人を尊重して、その子が本来持っている探求心に基づいて、自律的・主体的に学習や行事が展開されるようにカリキュラムが組まれていることが多いのが特徴で、聖心女子大の永田佳之教授も、朝日新聞EduAの記事にて、オルタナティブスクールの学びは、未来志向であり、時代を先取りした存在と言及しております。 


当時、私たちは一条校(学校教育法第1条に定められた学校として認定されている学校)に絞って学校を探しました。オルタナティブスクールには認可外の学校が多く、無認可の学校に通う場合、小学校の卒業資格を得るために通っていない地元の小学校ともやりとりをしなければならないなど、煩わしい手続きが発生してしまうのです。 

最近では、一条校のオルタナティブスクールも少しずつ増えてきましたが、14年前にはほとんど選択肢がありませんでした。けれども、選択肢が限られていたからこそ、私たちは長野まで足を運び、そして移住に至るという道を選ぶことになったのです。

イエナプラン教育

オルタナティブスクールの多くは、ヨーロッパやアメリカの哲学的思想を教育方針の基礎としています。その代表的な教育法として、ドイツで始まりオランダで普及した「イエナプラン」があります。


日本イエナプラン教育協会によると、イエナプランの特徴は、異なる学年の子どもたちを同じグループとして構成する「根幹グループ(ファミリー・グループ)」単位のクラス編成と、「ワールドオリエンテーション」と呼ばれる科目の枠を超えた総合的な探究学習にあります。自分自身の内発的な問いに基づいた探究学習を、時に子ども同士で教え合いながら展開することで、自律と共生を育むことを重視しています。

同じ年齢の子どもたちを横割りで括り、みんなに同じことをさせる。みんなと同じことができないと協調性が無いなどと問題児扱いする。こうした全国の小学校で当たり前に展開されている公教育のあり方に、何らかの違和感を抱いている人は多いのかもしれません。

2019年4月に、日本初のイエナプラン認定校として長野県佐久穂町に「学校法人 茂来学園 大日向小学校」が開校しました。以降、佐久穂町には新しい教育の形を求める移住者が続々と集まっています。

公立校でのイエナプラン教育

画一的な教育ではなく、子どもが本来持っている探求心を尊重し、自律的・主体的に学習に取り組めるようにして欲しい。そのような親たちの意識変化を受けて、イエナプラン的な教育方法を公立学校でも導入する自治体も現れてきております。

2022年、広島県福山市に公立で初となるイエナプランスクール「常石ともに学園」が開校しました。開校前の説明会には200名以上が参加し、入学者の約半分は市外からの応募だったとのことで、その関心と期待の高さがうかがえます。

また同じ年、新潟県妙高市でも「妙高型イエナプラン教育」を開始しました。現在は新井南小学校をモデル校として取り組んでいますが、将来的には市内の小中学校全校への展開を予定しています。


近年、教育の多様化が進んでおりますが、都市圏よりもむしろ地方の方に選択肢が増えてきているのではと感じています。


日本の子どもたちの現状


教育の多様化は少しずつ進んでいますが、現在の子どもたちはその恩恵を十分に受けているのでしょうか? 残念ながらそうはなっていないようです。

私が生まれた1970年代半ばをピークに、出生率はひたすら低下を続けており、2023年はわずか1.2人でした。しかし、少子化傾向が加速する一方で、不登校児の数は毎年過去最大を更新し続けています。また、通学はしているものの、殆どの時間を保健室等で過ごす「隠れ不登校」や、実は学校に行きたくないと考えている「不登校予備軍」も多く存在するようです。

認定NPO法人カタリバの調査によると、子どもの5人に1人は「不登校予備軍」と考えられ、現代の多くの子どもたちが何らかの違和感を抱えながら学校生活を送っていることがうかがえます。

また、2020年度のユニセフの調査によると日本の子どもたちの精神的裕福度は先進国の中でほぼ最下位の38カ国中37位(最下位はニュージーランド)です。本調査は15歳時点の生活満足度と15~19歳の自殺率を指標としており、生活満足度が10段階中6以上と答えた子どもが62%で37位、自殺率も12番目の高いという結果でした。

ユニセフの同調査によると、日本の子どもたちは身体的健康度(死亡率の低さ、肥満の割合を指標とする)では1位となっており、安全面や食生活の面においては非常に恵まれた環境にあると言えます。しかし、精神的には十分に満たされていない子どもも多いようです。その原因はいくつか考えられますが、ほとんどの小学生が公立校に通い、同じような教育を受けていることも、ある種の同調圧力を助長し、それが一部の繊細な子どもたちの息苦しさや生きにくさにも繋がっているのかもしれません。

2020年のユニセフによる「先進国の子どもの幸福度」の調査より

ミライ研が妙高で取り組んでいること

現在、ミライ研では持続可能な地域社会の在り方について検討を進めています。特に、人口減少が避けられない中で、どのようにして都市圏在住の人々を関係人口として取り込み、地域社会に根付かせるかが重要な課題です。

では、どうすれば関係人口化を促すことができるのでしょうか? 私は、その動機付けの最も大きな要素は「子どもの幸せを願う気持ち」にあるのではないかと考えています。

私自身、長男の教育環境を求めて移住を決意した経験がありますが、「子どものため」という理由があるだけで、新しい挑戦への心理的ハードルは大きく下がるものです。

多くの子どもたちが学校というフィルター越しに見える世界に違和感を感じ、それが不登校や精神的な幸福度の低下に繋がっているのではないでしょうか。今見えている世界だけが全てではなく、他にも選択肢(オルタナティブ)があることを示していくことで、未来に希望を見出す子どもたちが増え、その子どもたちのために行動を起こす大人たちも増えていくのではないかと考えています。

地方に新しい学びの選択肢(オルタナティブ)を増やすことが、今後の関係人口創出や地方創生の鍵になると考えています。そうした仮説のもと、私たちは現在、新潟県妙高市で不登校児の家庭を対象とした実証実験を計画しています。

実証実験にご協力いただけるご家庭を若干名募集しております。もし現在、お子様の不登校にお悩みで、10月~11月に数日間、妙高市のクラインガルデンにご家族で滞在しながらの学校見学や収穫体験にご参加できる方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。 


(出典・参考)

予測困難な時代にこそ求められる「オルタナティブ教育」とは 永田佳之教授に聞く|多様化する学びの場|朝日新聞EduA (asahi.com)
https://www.asahi.com/edua/article/15136319?p=1

認定NPO法人カタリバ 不登校に関する子どもと保護者向け実態調査
https://www.katariba.or.jp/wp-content/uploads/2023/12/67c7fad3a1d8c72e953dced9e156976b-1.pdf

日本ユニセフ協会 子どもたちに影響する世界
https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc16j.pdf

東洋経済education×ICT 公立小が98%の日本で「オルタナティブスクール」が増える本当の価値「モンテッソーリやシュタイナー」日本でも脚光
https://toyokeizai.net/articles/-/625760



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