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黒髪スーパーロングヘアという沼に落ちて

「沼」と聞いて、真っ先に思い当たるのは、黒髪ロングヘアだ。

私は黒髪ロングヘアの女性が好きだ。
性指向的な意味合いでの「好き」ではない。
そこに、完成された美を感じるから、目が離せなくなる、無視できない、心を掴まれて逃れられなくなる。
私は、10代後半頃から、当たり前のように、美しい女性とは黒髪ロングヘアをしているものだと思っていた。
どれだけ顔が可愛くて、人気があっても、黒髪ロングヘアじゃないと、憧れを抱かなかった。
頭では「美しい人だ」と理解していても、感情が「きれい!! 好き~♡!!」とはならなかったのだ。
自分なりの美に対する変なこだわりというか、価値基準が出来上がってしまっていた。

私が化粧や洋服に興味を持ち始めたころは、ギャルファッションが流行り始め、茶髪やスカスカのシャギーヘアのモデルさんが、ファッション雑誌の表紙を飾っていた。
清楚系イメージの女優さん達は、ボブカットやショートカットが多く、なかなか重ためな黒髪ロングヘアの有名人をテレビや雑誌で目にすることは無かった。

なので、この頃の私は、自身の憧れを具現化する為に、禁断の手法を用いていた。

【沼 エピソード①】憧れの女性を、黒マジックで作り出す

雑誌に載るモデルさん達はみんな美しい。
完璧な顔だ。
でも、でも、でも……。なんで、黒髪ロングヘアじゃないのお~???
髪型だけが惜しい!

なので、私は黒いマジックペンを手に持ち、微笑む彼女たちの髪の毛部分を黒く、長く、塗りつぶした。
そして、上手く描けた雑誌の切り抜きページを大切に保管し、ファイリングしていた。

……。私、キモい?

が、当時、憧れの女優さんやモデルさんの雑誌の切り抜きを、テープやシール、カラーペンなどで、かわいらしくデコレーションしてコレクションする事が流行っていた。
なので、私自身も、流行りに乗って、自分の「憧れキラキラファイル」を、熱心に作っているつもりだった。

モデルさんとは言え、他者の肖像に勝手に手を加え、全く違う姿にすることに対して、今では罪悪感を感じる。
きっと他人がその切り抜きコレクションを見たら、悪質な落書きと思ったかもしれない。
しかし、当時は自分が考える「キラキラした美しい女性」のイメージ画像を少しでも多く手元に置くことは、自分もその憧れに近づくために必要な努力だと信じていた。

今はAIが勝手に理想の女性像を描き出してくれる。
だからもう、誰かの写真にペンで落書きをする必要はない。

【沼 エピソード②】YoutubeでシャンプーCM漁りをする

PCを買い、自宅でネットにアクセスができるようになってから、私が黒髪ロングヘアへの偏愛を満たす場所は、主にYoutubeとなった。

私はシャンプーのCMを見るのが好きだ。
シャンプーCMと言ったら、ロングヘア女性が、サラッサラ~!と、髪を揺らし、その商品を使うと、いかに髪の毛が、つややかに、美しく、豊かに育つかを思う存分動画で魅せてくれる。

が、しかし、当時の日本企業が打ち出すシャンプー広告は、私のロングヘアへの偏愛を真には満足させてはくれなかった。
モデルの髪が、「ロングヘア」と呼ぶには短すぎたのだ。
胸までの長さですら「めっちゃ長いね」と、言われてしまう。
圧倒的に「ロング」に対する認識不足である。

「へそまで伸ばしてこその、ロングヘアだろ!」と、私は叫びたかった。

しかし、インターネットは国境を超えることができる。
私は早々に日本製品に見切りをつけ、海外のシャンプーCMを探した。

スゴイのを見つけた。

Garnier(ガルニエ)は、フランス発のコスメブランドで、シャンプーも様々な種類を出している。
日本でシャンプーの種類と言ったら「ダメージケア」「艶出し」「サラサラ」「エイジングケア」「カラー」「うねり補正」がほとんどだ。
しかし、Garnierシャンプーには「Long & Strong」という種類がある。

ロング(長くて)& ストロング(強い!)なのだ!!!

「女性の髪は長い方が魅力的」という、若干保守的な考えが残っている地域でないと売れなさそうな種類のシャンプーである。
このLong & StrongのCMが、どれも、なんと言うか、本当に、長くて屈強な髪の毛を猛烈アピールしているのである。

百聞は一見に如かずなので、とりあえず見てください。

①「強い!」を前面に押し出した、スーパーヒロイン爆誕CM(Garnier)

②意地悪な男の子も度肝を抜かれる強さ(Garnier)

なお、「男子のいたずらをものともせず、その強くて長くて美しい髪の毛で、度肝を抜いてやる」ストーリーのCMは、Garnierの他にもある。

③こんなバーには二度と行かない(Sunsilk Minerals)

日本だと、アニメや漫画の影響か、黒髪ロングヘア女性のイメージは、「大人しい」「お嬢様」「清楚」といった物静かなイメージが付いているような気がするが、私はアクティブなロングヘア女性が好きなので、ちょっと反逆的なシャンプーCMに惹かれてしまう。

④ツヤツヤ髪のおかげで門限破りもなんのその(Rejoice)

⑤彼女は神出鬼没のアーティスト???(Rejoice)

どのCMも、髪の強さだけでなく、ロングヘア女性の強さと美しさを前面に押し出していて、何度でも観たくなってしまう。

そうだ。
ロングヘア女性は、美しいだけではない。行動的で、強いのだ。

【沼 エピソード③】ネットのオフ会で仲間に巡り合う

YoutubeでシャンプーCMを検索しまくっていた頃、ロングヘアを愛して止まない人達とネット上で交流できる同好会サイトに参加した。
そこは、ロングヘアの人はもちろん、ロングヘアが好きな人、ロングヘアキャラクターが好きな人など、「ロングヘア」をテーマにありとあらゆる情報交換が行われていた。
ロングヘア女性が登場するアニメや漫画、小説の情報交換だけでなく、メンバー同士が、理想のスーパーロングヘア女性を主人公とした創作小説や、イラストを作成し、提供し合ったりもしていた。
私もかつて、ロングヘアの女子高生を巡るドタバタ学園物語を創作した。

このコミュニティーでは、ロングヘアの定義に関しても、当然、厳しかった。
胸までの長さでは足りず、腰までの長さに到ってはじめて「ロング」と認識される。
また、「長ければ長いほどいい」という暗黙のルールがあったように思う。
髪が太ももにかかる人、膝の位置まである人、自分の身長よりも長い人、幼少の頃から一度も髪を切っていない人などが、存在していた。
黒髪ロングヘアの有名人があまり居なかった時代なので、「憧れの美しいモデル」の自給自足がコミュニティー内で行われていた。
コミュニティーの管理人さんが、ボランティアでモデルを務めてくれる女性の元に行き、その美しい姿を写真に収め、次々に公開してくれた。

私も一度だけこのモデルをしたことがある。
当時、私は自分自身の髪もへそくらいの長さまで伸ばしていた。
コミュニティー内では短いほうだが、ワンレングスで、毛量が多いまま、刷毛のように切り揃えたヘアスタイルを絶賛してくれた人達が居て、嬉しかった。
顔は出さなかったが、「美しいです」「きれいです」と、褒めて貰えて、自分が超絶美人になれたような気になれた。
私もそうなのでわかるのだが、顔の造形よりも、髪のツヤ感と長さが、美しさには絶対に必要なのだ。
仲間に会えて安心し、楽しかった。

オフ会にも参加し、一緒にご飯を食べながら、おしゃべりし、その後街中を散歩したりした。
私一人では注目されることはほぼ無いのだが、へそ、腰、ヒップライン、太ももまでのロングヘアを下ろした女性が5~6人で固まって歩いていたらさすがに人目を引く。
当時はまだスマホは無く、ガラケーが主流の時代ではあったが、無遠慮に携帯電話やデジタルカメラを構える人達の姿を目の端に確認しながら、私は気にしなかった。
むしろ、誇らしかった。

自分でロングヘアをやってみるとわかるのだが、ロングヘアをおろしたまま(ダウンスタイル)で生活をするのは、とても困難だ。

・肩にバッグを下げると、髪の毛が絡む。
・ちょっと風が吹くと、前方が見えづらくなる。
・冬場は静電気で広がりやすい。
・コートや服の下に髪の毛が入って、こそばゆい。
・椅子の背もたれと背中に髪の毛が挟まれて、首がつらい。
・振り向くと、隣の人の顔を髪ビンタしちゃう。
・髪の重みで、首の後ろが痛い。
・家族に、床に落ちている髪の毛の犯人は全て私だと言われる。

等々、トラップがたくさんある。

私は、黒髪ロングヘア女性が好きだ。
だが、私が黒髪ロングヘア女性になるのは、無理があった。
私はロングヘアを美しく維持できる程、忍耐強くはなかったのだ。

このコミュニティに入会してみてはじめて、私は「自分がロングヘアの美しい女性になりたい」というよりも、「黒髪ロングヘアの女性を見るのが好き」という事実に気がついてしまった。
自分も髪を伸ばしていたのは、ロングヘア女性達に仲間だと思ってもらいやすい為だった。

以来、自分の髪の長さは常に胸下からへそまでの長さを行ったり来たりする程度に収まるようになった。

【沼 エピソード④】髪こそ全て(憧れの女優さんに対する眼差し)

笑顔が可愛く「魔性」と呼ばれるほど魅力的な一人の女優さんのことが好きでした。
和装が似合う(和装だと髪の毛を結ってしまうのが残念)彼女が、飾らない、ラフな服装で、髪の毛を無造作に下ろしたままの姿を撮られたオフショットは最高でした。

しかし、彼女はある日突然、髪をベリーショートにしてしまいました。

彼女への情熱や関心が、私の中で嘘みたいに消えました。

消えたことがすごくショックでした。
自分が彼女のことを、女優さんとしての熱意や、一人の女性としての人格など、どうでもよく、ただただ「黒髪ロングヘアだから」好きであったという事に気が付かされてしまったからです。

私って、変態だな……。

と、自覚しました。

紛れもなく、これは偏愛だ。
有り余るほどの情熱を持って「好き!!」と叫びたいのに、伝えることに後ろ暗ささえ感じる……。
まさに、「沼」だった。

一時期、自分の「ロングヘアが好き」という気持ちを、友人達にも恥ずかしがることなく話していたが、この頃から少しずつ罪悪感と後ろめたさを感じるようになってきた。

他人の身体の一部に対する、異常なまでの執着心、
フェティシズム(フェチ)かもしれない。

既に沼に落ちている。
這い上がろうとしても、やわらかな黒髪が心地よく足に絡まって、抜け出せそうにもない。

だから、今回のエッセイのテーマが「沼」であることに感謝したい。
後ろ暗い気持ちを持ちつつも、心の底から、自分の好きを叫んでも良いという、千載一遇のチャンスなのだ!

私は、黒髪ロングヘア女性が、大大だあああい好き!!! である!!!


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