女装する男性が非難される謎:ミソジニーとミサンドリーのダブルパンチ
現代において、男性の服装をしている女性(男装女性)は、あまり非難されることが無く、自分の学生時代を振り返ってみても、クラスに2~3人はボーイッシュな女の子という印象の子が居たように思います。
対して、女性の服装をしている男性(女装男性)は、普段の生活では出会うことが少なく、時々、女装趣味に対して、誹謗中傷に近いネガティブな意見を聞くことがまだあります。
なぜなんだろう、とモヤモヤ考えていたところ、「ミソジニー」と「ミサンドリー」という言葉を知り、何となく腑に落ちたような気がしました。
ミソジニー(英: Misogyny)は、「女性嫌悪」「女性蔑視」と訳されることが多く、女嫌いという意味だと捉えられています。
ただ、女嫌いというと、「僕は女の子が大好きだから、女性蔑視もしていないし、ミソジニーじゃないよ。」という反論が一部の男性から返ってくるかもしれません。
蔑視とは「見さげること。さげすむこと。ばかにすること。」です。
なので、ミソジニーとは、女性や女性らしさを、男性や男性らしさよりも劣るものとして扱うものと理解できるかと思います。
「女の子が大好き」と豪語する男性が、女性を自分と対等な人間として扱わず、自分よりも下の存在として、まるで所有物やアクセサリーのように扱うことはありえますので、「女の子が大好きだから、ミソジニーでは無い」とは言えません。
一方、ミサンドリー(英:Misandry)とは、男性への嫌悪感や憎悪から男性を差別することです。例えば、「男性は性欲をコントロールできないのだから、男が性暴力に走るのは仕方がない。」などの考え方は、無根拠に全ての男性が生まれながらに暴力的だとする考え方が根底にあるので、ミサンドリーな考え方と言えます。
ミソジニーもミサンドリーも、フェミニズムやジェンダー関連の本の中によく出てくるワードです。
私はシンプルに下記のように理解しています。
ミソジニー(女性嫌悪):女性や女性らしさに対して、男性や男らしさより劣ったものとして蔑む考え方。
ミサンドリー(男性嫌悪):男性に対して、ステレオタイプ的に有害であると決めつけ、危険視する考え方。
女装男性に対して浴びせられるネガティブな意見の多くは、このミソジニーとミサンドリーが複雑に絡み合って生まれるように思います。
まず、ミソジニー(女性嫌悪)には、女性自身に対してだけでなく「女性らしさ」や女性達が長年培ってきた文化に対する蔑みも含まれます。ミソジニー的価値観を持った人達からすると、女性らしい物事は、大して価値のない物事として、馬鹿にしたり切り捨てても問題のない物事と見なされます。
なので、男性が女性らしい振る舞いや見た目をすることに対して、ミソジニー的な価値観を持つ人達は、無遠慮にからかい、馬鹿にし、こき下ろすのだと思います。
また、ミサンドリー(男性嫌悪)的な価値観を持つ人達は、男性の行動原理には性的な欲求や、他者への支配欲が深く関わっているに違いないという決めつけをすることが多いと思います。
「性的な興奮を得たいから、女性用の下着や服を身につけるのだろう。」
「性欲が抑えられないから、性的パートナーを探すために女装をするのだろう。」
「女性を油断させるために、女性のふりをするのだろう。」
「SNSでエッチな服装で『いいね』を集めて自己顕示欲を満たしたいに違いない。」
「女性らしくしない女性に対して『正しい女性』の在り方を示すために女装をするのだろう。」
このような決めつけは、
「女性よりも特権をもっているはずの男性が、わざわざ準備が大変なメイクや、機能的でない女性の服装などを真似る合理的な理由が無い。きっと、何か良からぬことを考えているからに違いない。」というミソジニーとミサンドリーが織り交ざった考えから生まれるのだと思います。
カラフルなメイクをして、お気に入りの華やかな服を着るだけで、気持ちが上がる。
好きなものを身にまとって、好きな自分になる。
別に不思議でも何でもないことだと思います。
けれども、ミソジニーとミサンドリーが深く身に染みついてしまっていると、そのシンプルなことが理解できず、「わからない」という不安から、猜疑心が強くなり、勝手に悪意を見出してしまうことがあるのだと思います。
男性が女装する理由は千差万別です。100人の女装さんが居たら、100通りの女装する理由があると思います。だから、それぞれの女装さん達の女装する理由は本当のところはわかりません。でも、別にそれは問題にはならないと思います。
(尚、性的な興奮を得たい為に女装をする場合も、適切な場でその欲求を解消させる分には全く問題ないと思います。性行為をするための女装も、お相手との間に同意があれば問題ないし、SNSで得る承認欲求も割と健全な欲求だと私は思います。)
女性のメイクも、女性の服装も、女性らしい振る舞いも、「すごくいい!」「かっこいい!」「すてき!」「自分も真似したい!」と男性達が思うのに十分なほど魅力的なはずです。
また私が実際にお会いした女装さん達は、親しみやすく、女性の私に対しても敬意を払って接してくれていると感じました。
誰しもが無意識にミソジニーとミサンドリーを抱えていると言われています。
私も女性だけれどもミソジニー(女性嫌悪)をしっかりと抱えていて、女性らしい服装や趣味に抵抗感を感じていた時期がありました。(今はむしろメイクやスカートが好き。)フェミニンな女性に対して嫉妬と蔑視が混ざった感情を持っていたりと、黒歴史は尽きません。きっと、完璧にミソジニーとミサンドリーを洗い流すことは出来ないかもしれませんが自分の中にある良くない価値観に気が付いたら、学び直しをしていきたいと思います。