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モザイク 



遥かなる太古より
存在する「未来」は
まだ東の空にある

動いてないようでもあり
動いているようでもあり

それは微かに震える
風を感じる君の前髪


怯えているのかい?


僕は怯えているよ


モザイク画のように
美しい世界などない


僕らが生きているのは
無限に不安な泥沼の中

信じてはもらえない
信じてあげられない

不穏な心のモザイク
広がる闇のモザイク


死への願いが嵩を増し
愉快な人間が世界から
また1人また1人…
君の中から消えていく


懐かしい冬景色を描く
氷の粒の光のモザイク


白濁とした記憶の一片


君は僕をまだ覚えてる
病んだ海馬で覚えてる



でも


僕は君に疑われ罵られ
最後まで愛することを
誓えない自分を知った



死を待つ君より

僕の死のほうが

先かもしれない


君の記憶のモザイクが
壊れていく「未来」は
僕の知らない君の顔で


ああ、愛なんか


どうやって守れば
良かったのかもう
忘れてしまいそう


愛する君は
壊れた記憶で
僕を憎むんだ



遥かなる太古より
東の空に浮かぶ月

あのときの「未来」は

春夏の光に満ちていた


明るい太陽の下
薔薇のモザイク



今、僕らの50年目の冬

既に「未来」など消えて



北風の騒ぐ日陰
寒空のモザイク


ああ白い雪よ
冷たい接吻で

僕の目を塞いで

君の海の底へと
落ちていく愛を


ほんの少しだけ

静かに癒やして


過去の僕たちの
その幸せの中に
奥深く沈ませて


バラバラになった
モザイクの欠片は
夢の灯火のように



ゆっくりと
ただゆっくりと



燻りながら



鎮火、していく…。








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