見出し画像

アブダビ出身のアーティストNidaa Badwanの展示「RINASCITA(再生)」を鑑賞する

先日、初めて行くギャラリーで、イタリア国籍を持つパレスチナ人アーティスト、Nidaa Badwan(1987~)の展示を鑑賞した。
展示案内の作品がダンサブルで少し気になったのだ。

正直、作品の配置が好みではなかったが、一緒に流されていたドキュメンタリー映画や、ギャラリーの方の補足説明が興味深かったので、あまり多くの写真は撮っていないが(どれも似ているので)、Noteに記録として残したいと思う。

まずは展示の説明から行こう。

本展のタイトルは、未発表の写真作品群『Rinascita』から取られている。このプロジェクトは、覚醒と再生の状態に到達するために、芸術的かつ個人的な旅における一連の閾値を越える必要性から生まれたものである。
プロジェクトを締めくくるのは、同題のドキュメンタリー映画だ。映画『In Nidaa Badwan's room』内で、彼女はアラブの出自からイタリアへの移住、そして新たな芸術プロジェクトの発端までを語っている。
彼女は、アラブの伝統的な信仰に照らしてヒンズー教の哲学的思想を借用している。それによれば、生まれてくる子供はみな、母系7代にわたる感情的な過去に起因する重い遺伝を背負っている。この遺産には、妊娠期間中に母親から子供に直接伝わる感情や気分も混じっている。こうした状況に反抗し、苦しみの闇から解放され、遺伝の連鎖を断ち切るために、彼女は自らの再生を志す。
この写真シリーズは、1986年の受胎から1987年の出生までの作家の親密な体験をたどるもので、普遍的な再生のメタファーとして機能している。

展示会案内より

ビデオの中でアーティスト本人が語っていたことだが、アブダビに9年いた後、ガザに18年住み、その後イタリアに9年住んで現在に至るため、彼女の住まいは9年周期、あるいはその倍数で変わっているそうだ。
中でもガザに住んでいた期間が長いので、本人自体はその生活、文化、社会的背景により影響を受けているそうだ。

作品①

彼女のインスタも載せておくので、今回紹介されていなかった作品も含め、気になる方はご覧いただければ、と思う。

さて、ダンサブルな動きも含めた、一連の「再生」作品を紹介しよう。
実際にはこの4倍ほどの作品が展示されていたが、どれもここで紹介する写真に似たポーズ、似た白い風船と共に、ほぼどの作品にも同じ衣装のアーティストが写っていた。
ただ、1つ気になったのが、この風船らしきものがある時は地べたに、ある時は空に浮いているので、これには確実にメタファーが含まれているに違いないと思い、ギャラリーの方に補足説明をお願いした。
それによると、地べたにあるものには、水を入れて、ガザ地区で暮らした辛く苦しい時代を表現しており、空中にあるものにはガスを入れ、心も体も晴れやかな自由と再生を表現すべく、動きのあるポーズを取っている、とのことだった。

地べたにある白い小さい風船
下向きの白い風船①
下向きの白い風船②
空中に上りつつある白い風船
あたかもアーティストを持ち上げるような白い風船

「私の意図は、イメージを通して自分自身と他者を癒すことです。アートは深い思考の表現であり、避難所であると同時にカタルシスでもある。それは、本質的に個人主義に傾倒した生活の残虐性を否定することを可能にするセラピーなのです」と作家は説明する。
彼女の芸術的研究は、ハマス政権が実施した女性差別と迫害の風土の中で、パレスチナ自治区(ガザ地区南部のDeir Al-Balah)で育った経験に深く影響を受けている。

2013年、街頭でスカーフを被っていないことを理由に民兵に襲撃されたことをきっかけに、彼女はガザの3×3メートルの部屋に数カ月間閉じこもることを選んだ。強制的な閉じこもりを通じ、絶え間ない暴力的な抑圧に対する芸術的自由、抵抗、平和的反抗の経験を追求するためだった。自らに課した監禁により、彼女は自分自身に集中し、深い瞑想に没頭し、女性性を自由に表現することができた。これが、2016年にニューヨーク・タイムズ紙の一面などに掲載された一連のショット『百日の孤独』を生むきっかけとなった。

展示会案内より

「百日の孤独」と聞いて真っ先に頭をよぎるのは、Garcia Marquezの代表作「百年の孤独」ではないかと思う。この小説と彼女の一連の作品には共通点はなさそうなので、恐らくはたまたま、自主隔離の期間が100日ほどであり、この小説のタイトルの小気味良い音がしっくりきて付けられたのではないかと想像する。
下で紹介する作品たちがその一部なのだが、作品自体にはどれも温もりが溢れており、孤独よりも充実感や素朴なおかしみが垣間見えるように私には見える。

鶏に静かにするように人差し指を立てている作家
ストレッチをするような格好で林檎が溢れる箱に手を伸ばす作家
色とりどりの生地に囲まれている作家

ドキュメンタリーのビデオの中では、「再生」の撮影をしたロケ地の様子も映っていた。場所は、UrbinoというMarche州にあるユネスコの世界遺産に登録されている街で、ルネッサンスの巨匠Raffaelloの生地でもあるところだ。
そして、いつかは行ってみよう、と思いつつもなかなか行く機会のない街である。ミラノからは遠いので1泊では堪能しきれない、という思いから週末に行くことを避け、3連休だと遠出をする気力を失い、4連休だと海外に目も足も向いてしまうシマ子にとっては、これくらいの距離感が難関で、実は、【いつか日本に完全帰国する日の前に訪れておきたいリスト】に長らく居座っている街でもある。
しかし来年の初冬に現在の10年用の滞在許可証の更新があるので、年末には国外へは出られないであろうと見越している身としては、いよいよこの町に滞在する日が訪れるかもしれない、とまだ1年以上も先のことを思い浮かべてこっそり笑みを浮かべてみたりしている。

折角なので、Urbinoの観光サイトを載せておこう(英語あり)。
きっと皆さんも行きたくなること間違いなしだと思う。


いいなと思ったら応援しよう!

シマ子
宜しければ応援お願いします。いただいたチップはマイナーな食材購入&皆さんへのご紹介に使わせていただきます🤚