戦う戦士たちへ愛を込めて(休日診療所と福島原発事故で見た光景)
休日診療所の待合室には患者が溢れていた。みな一様にうなだれて、生気を失くし、苦しそうな咳だけが、沈黙の空気の中に響いていた。
1月5日、日曜日。世間では正月休みの最後の日。翌日からは仕事始めの日。
働き盛りの男の人がたくさん目に付いた。恐らく、今のこの日本の厳しい状況の中で、文句も言わずに、黙々と働いている人たち。
『強くあらねばならない。家族を養わないといけない』と教えられて
自らにそれを課してきた昭和の男たち。
私は膀胱炎を拗らせて、血尿が出たので、発熱した彼らとは別の待合室に居た。それでも、区切られたパーテーションの向こうにいる彼らの横顔が見えた。
“モラハラ”や“パワハラ”と騒がれている社会の中で、これから変わっていくだろう社会風土に自分たちは間に合わないことを、彼らはよく知っている。
彼らにとって、仕事始めの日に、自分の体調不良で欠勤するなど、考えられないことだ。解熱剤を飲んででも出勤するだろう。
『戦う武士(もののふ)たち』
そんな言葉が心をよぎった。
その精神が今の若者たちに受け入れられないことを、彼らはよく理解している。若者たちにはそんな自己犠牲を強いてはいけないことも‥。
病んでいる彼らを尊いと思った。かなりしんどい状況で来院しているはずなのに、彼らは呟きやため息さえ漏らさなかった。
武士の遺伝子がどこかに流れている。それはもう“風前の灯”みたいな灯りであるが、私は彼らの横顔を見ながら、自分のしんどさも忘れて、その耐える姿に感銘を覚えて、彼らの快癒を祈った。
<日本を救った男 吉田昌郎(福島第一原発元所長)>
*花の写真はwallpaperより