1000文字ショート(癒やし小説)/夕日のまち」

「この電車って、どこに向かっているの?」
 ルナは聞いた。
 ルナは、小学生の女の子。
 目の中に入れても痛くない孫だ。

 北海道東部の町。
 過疎地。
 場所によっては牛や羊の方が多いとも聞く。

 横浜中華街から、はるばるここまで来た。

 ルナには時折、右足を引き摺るクセがある。
 医師は“生活に支障は無い”と言ってくれているのだが。

 足のことをクラスメートにからかわれて、泣いているルナ。
 ルナを元気づける為に、あの町へ行きたい。

 そうさ。
 俺の命が続くうちは。俺が守る。

 目的地に向かって、走る鈍行列車。
 時間はたっぷりある。

 線路は続くよドコまでも。
 こんな歌があったよな

「俺が生きているうちは、いつまでも走り続けろや。ドンコウやい」

 北海道を真横に走るローカル鉄道。
 ミチオは、齢85歳。
 今まで、大きな病気などしていない。

 遂に今年、横浜の中華料理店を引退した。
 列車旅。こうした旅を“終活”というらしい。 
 ジイジのラストランで、ルナを元気づける。

「キャッキャ」
 列車を走り回るルナ。
 ミチオの帽子を取って、ふざけている。 

 そんなルナを乗客たちは楽しそうに眺めている。
 町の住人たち。
 少々都会風な乗客は、ルナと同じで“何か”を抱えた人たちである。

 人は自然に触れると、心が勇気づけられるという。

 ここは何もない町。
 未だに、外国人観光客にも注目されていない簡素な町。 

「バナナ食べる?」
 ルナは、バナナを差し出している。
 前の座席の上から、バナナをぶら下げながら覗き込んでいる。

 釧路湿原駅。
 鈍行列車を降りると山道を登っていく。

 ルナは時折、足を引いているが、元気さがカバーしている。

(ルナやい)
 大丈夫。この山道を登り切れば、道が開かれる。

 「ここはね、ジイジの生まれ故郷。ジイジがバアバと出会った場所なんだよ」

「ジイジにも若い頃ってあったの?」

「あのね。ジイジは20歳を迎えるまでこの町で育ったんだよ」

 さっきの乗客たちも登ってくる。
 ドライブの途中、車を止めて集まってくる若者たち。

「ジイジ、ここに何しに来たの?」
 ルナは、右足をものともせずに走り回っている。

 この子に障害なんてない。絶対に障害児なんて言わせない。

「夕日を見に来たのさ」
「なんで夕日なの?」

「あのね、この町は、世界三大夕日に数えられるほど、夕日がきれいだといわれているんだ」

 雄大な釧路湿原が、燃ゆる太陽に染まっていく。

 

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