道に咲く花と雑草 EP.田
「馬鹿言ってんじゃねぇぇ!!」酒癖の悪い中年男が叫ぶ。時刻は深夜0時20分。
飲屋街の居酒屋が軒並み並ぶ道を肩組をする中年男2組が右往左往しながら歩く。
「俺はなにやったって駄目なんだぁぁよぉ」また中年男が嘆く。
この男の名は田 正雄(でん まさお)、一見田んぼのように広い心を持つ男と思う人が大半だと思うがこの男は違う。冒頭でわかるように酒癖は悪く、新しいものを受け入れようとしない、昔の古臭い考えをずっと信じているような人間だ。
例えばテレビで漫才を見れば、トムブラウンやランジャタイが出ると「こんなのは漫才じゃねぇぇ」と言う。
仕事は小学校の清掃員をしている。去年の7月に嫁と別れ、今は小学4年生になる息子と二人暮らしだ。
なんでお母さんではなくこんな奴について行ったんだと思う方が多いと思う。
嫁の名は末村 京子(すえむら きょうこ)性格は冷たく、子供に愛情は持たない女だ。子育ては主に田がやっていた。不器用ながらなんとか笑顔でこなしてたいた。
田は「ヤスコとケンジ」というドラマが大好きだった。「娘ができたらヤスコって名前にする!」と自信げに話していたがあいにく男の子が誕生した。
息子の名は健二(ケンジ)結局ヤスコとケンジに影響されている。
健二は正雄という最強の反面教師を持っているためいつも落ち着きがあり、小学4年生ながら物事を広く考えられる男だ。
正雄(田)は健二のことを誇らしく思っている。
そんなやつと肩を組んでいるのが梶村 晃(かじむら あきら)田とは裏腹に酒は一滴も飲めない。飲めたとしてもほろ酔いのみだ。ただあんなのは酒とは呼べないただのジュースだ。
田がウーロンハイを頼む中、梶村は烏龍茶を頼んでいる。
仕事は建設会社の事務の仕事をしている。
この日は仕事が2人とも早く終わり、夕方18時半から飲んでいた。
梶村は酒が飲めない為、1.2時間程度で満足はしていたが、田のおかげで長引き、今に至る。
「ったくお前は酒が入るといつもこうだなぁ」「お前は酒も飲めねぇくせにぃmgj+842*〆1<」後半はなに言ってるのか分からない。
すでに道の途中で倒れ寝込んでる人も多数いる。
「ほらー俺たちもあんな感じになっちゃいますよー、明日ってか今日か、仕事でしょ?はやく帰んないと」そーは言ってももう終電はなく長い距離を歩いて帰るしかなかった。
田と梶村の最寄りは西大宮という最近できた新しい駅だ。指扇と川越の間にある。大宮の飲屋街で飲んでいた田たちは、歩いて西大宮方面まで行くしかなかった。普通に歩けば1時間半程度ほどで行けるが、この酔い具合だと3時間はかかりそうだ。
「もぉー歩いて帰るのめんどくさいなー、田、息子は今どうしてんの?まさか1人にしてるわけじゃないよね?」「あたりめぇだろ、叔母に見てもらってるわ」「お前の場合あたりめぇじゃねぇんだよ」
2人は千鳥足で前に進む。田が倒れた。「おい!田!起きろ!仕事あんだろ!小学校がお前を求めてるぞ!」喝を入れるように起こすが、田はびくともしない。梶村は自分を優先し、田を電柱の下に移動させ、すぐさま帰った。
田はぐっすりと寝ている。
7時間後...
ツンツン、ツンツン。
眉間の辺りを少し伸びた爪が生えている指で、バスの降りますボタンを押すくらいの微かな力で突いてくる。
パッと目を開けると目に前には警察官が屈んで、顔を覗き込むように見てくる。
「起きてくださーい。田さぁーんまたこんなとこで寝てんの〜」
大宮駅周辺の電柱の下でソファによりかかるように寝ていた。西大宮には程遠い場所で寝落ちしていた。
「あれぇぇ晃(梶村)わぁー?」まだ少し酔っている状態で言う。
「梶村はもうとっくに帰って仕事の準備してますよ!」
警官の名は原田 三洋(はらだ みつひろ)
田や梶村とは高校の時からの仲だ。
「なんだぁーまた三洋かぁーお前はいいなー警官なんていう立ってるだけで頼りにされる仕事で」
「なに言ってんだよー早く起きて!まだギリギリ仕事間に合うんじゃない?」
「もう今日は無理だ!無理無理、このまま寝る!」
「起きなさい!小学校がお前を求めてるぞ!」
梶村と同じセリフを口にする。
なくなく原田が田を担ぎ上げ無理やり歩かせた。
「ほら、そのまままっすぐ帰りな」「うぃぃ」
酒がまだ回っておりとぼとぼと歩いて自宅まで向かっていた。
通りすがる人には何度かぶつかり、自転車を漕いでいる人からも「邪魔だろぉコラぁ」とバンカラ口調で罵られる。
そんなことは気にせず歩いて行く。
2時間程度歩くとやっと自宅に着いた。
息子の健二はとっくに学校に行き、叔母もテーブルの上に手紙を置いて帰っていた。
手紙を見ると、「もうちょっと早く帰ってきなさい。」と明朝方寄りの文字でそれだけが書かれていた。
テーブルの上には2つのおにぎりが置いてあり、まだ少しの温もりが感じられる。
テーブル脇にある椅子に座り。テレビをつけ、1つおにぎりを齧る。具は梅干しという質素なものでありながら、齧った瞬間、色んな感情が頭の中に浮き出てくる。
途端に眼から雫が垂れる。気づくと片手におにぎりを握りしめ泣いていた。
「なんで俺はこんな、こんな駄目な大人になってしまったんだ。」
「続いてのニュースです。銀座での強盗。警視庁によりますと犯行は20代〜30代の男性4人組とされております。犯人らはまだ捕まっておらず未だ捜索中です。」
「まぁーこいつらよりはましか」と2つめのおにぎりを頬張りながら言う。
「でもバレずにやれば大金持ちになれる可能性があるってことだもんなぁ」心の声がつい漏れてしまう。
「まさか銀行強盗しようと思ってるんじゃないでしょーね」電話の向こう側で気強い女性の声がはしる。
女性の名は二瓶 夢奈(にへい ゆな)田と同級生であり、幼稚園からの幼馴染。
無意識に夢奈に電話していた田。「俺が強盗なんてする勇気があると思うか?」「勇気はないと思うけどやりそー」「なんだそれ」
夢奈とは何でも語り合える、気の使わない親友に近いの関係にあった。梶村も夢奈とは仲が良い。
田は少し夢奈のことが好きな時期があったくらいだ。
「とにかく変な気起こさないでね。あんたはあんたのままで良いんだから。健二くんのことだけ考えてなさい!」
「はいはい」ピロリン、通話が切れた。
「強盗ねぇぇー、夢あるなぁー。」と心の声が漏れつつ亜空間を見つめていた。
スマホを手に取り、おじさんながら最近始めたインスタグラムを開いた。おすすめに出てきたパンケーキ屋とその定員が写っている写真を目にする。パンケーキより女性定員に目が行き、「よし昼飯はパンケーキを食うか」と女性定員目的でパンケーキを食べに行く。端から端まで情けない男だ。
自分でそう思ってる時にはもう遅く、すでに財布とスマホ、使い古された革ジャンを手に取り、玄関のドアに手をつけていた。
つづく