見出し画像

クラリネットのこと6♪ベートーヴェン 交響曲第8番のソロ

ベートーヴェンの交響曲第8番第3楽章にある、クラリネットのソロ。このことを書いてくれている人が意外と少ない。私がレッスンで教えていただいたときは、オーケストラのオーディションに使われるぐらい、重要なソロだと記憶している。今度また確認しておくが。

まずは譜面を。

このソロ、まったく一人ではない。ホルンの2重奏のメロディが主人公で、そのメロディラインに絡む、オブリガート的とも言える。また、チェロの3連符の細かい動きがあり、これもソロまたは少ないプルトで演奏される。コントラバスがそれにピッツィカートを添える。そんな環境の中での、ソロだ。

また、トリオとも書いていない。トリオ的だが、トリオではないのかもしれない。書き忘れただけかも。しかし、このホルンのメロディはその後のベートーヴェンの楽曲でいたるところに使われており、その重要性を指摘されている。「カールスバートの郵便馬車」というスケッチが残っているが、ベートーヴェンが滞在した保養地カールスバートの郵便御者のポストホルンの譜面を記したものだ。このスケッチが書かれた年が1812年で、まさしくその年にこの交響曲8番が作曲された。

ホルンのメロディはとても長閑で、優雅で、美しい。このメロディがベートーヴェン にとって、「不滅の恋人」との思い出トリガーだと言われると、その通り!と言いたくなるぐらいだ。
そのホルンのメロディに、チェロの細かい動き。これは何だろうか。多少忙しい。いや、めっちゃ忙しい。難易度も高いらしい。この緩急の極端な配置(コントラバスはみんなの支えだとして)の中で、クラリネットの高めの音域でのソロ、である。

音域でいうならフルートに振っても良さそうな音域だ。オケのクラリネットソロで実音F(三点へ、クラリネットで上の上のソ)が出てくるのはこの曲が初めてではないか。それも2回も。高い音域というよりは、跳躍が多く、アルペジオな感じ。ホルンのデュオに彩りを与える。あくまで従。これまた渋い。この渋さを、この高音を含んだアルペジオでこなす。これが、難しいし、やりがいがある。

ダイナミクスとフレージングも、かなり高い要求をされる。楽譜に細かく表記をするのはロマン派以降はよくあることだが、ベートーヴェン のソロの中でも、とくに指示が細かい。クレッシェンドからの急なピアノ。subito表記がないが、それも意図があるかも。上記の譜面はブライトコプフだが、ベーレンライター版はさらに細かくダイナミクス表記がある。ちなみにカイル(スタッカート)の表記も一部違う。70小節目はベーレンライター版はカイルになっていない。

演奏のバランスでいうと、ホルンとの距離の遠さと、チェロの少人数故の聞こえにくさが課題だ。とくに昨今のソーシャルディスタンス確保の要求は、さらにハードルを上げている。間違いない。どうしても遅れがちになるし、マエストロをよく見ていても、耳が引っ張られることしばしば。

高音のコントロール、テンポの維持、歌い込み過ぎず、ダイナミクスは分かるように、かつ優雅にアンサンブル。何とも盛り沢山。なるほど、オーディション曲にもなる訳だ。

音源もたくさん聴いた。バランスは語れないとして、クラリネットだけの評価になってしまうが、私はやはりウィーンフィルが好きだ。音色なのだろうか、雰囲気なのだろうか、はたまた、単純にブランド?そうでないといいけど。優雅さや典雅さに重きを置いて、聴いてしまう。そうしたときに、どうしても古き良き演奏、に共感が行ってしまう。
ただ21世紀なオーケストラ(ウィーンフィルも含めて)も好きだ。ラトルのベルリンフィルの全集は想像以上に良かった。やはり美学というか、指揮者による。指揮者のビジョンが明確で、コンセプトをメンバーと共有できていれば、説得力があるのだ。好き嫌いは別にしても。

いろいろ書いたが、この第8番という異色の交響曲の中でも、一際美しいところ。重要で聴きどころであるのは百も承知。だからこそ、本番が楽しみ。さて、優雅に魅せられるかどうか。

#ベートーヴェン  #交響曲 #第8番 #250周年  #アンサンブル #ホルン #クラリネット #チェロ #コントラバス #優雅な音楽 #スコアの違い #ブライトコプフ #ベーレンライター


ちょっとサポートしてあげようかな、と思っていただいたそこのあなた!本当に嬉しいです。 そのお気持ちにお応えできるように、良いものを書いていきたいと思います。ありがとうございます!