ゆっくり歩くまち
コラム:フェスティバルディレクター 三浦宏之
Center line art festival Tokyo 2023の開催地として、本祭会期にプログラムが開催される国立エリア。昨年の4月と、今年の5月には2年連続でフェスティバルのスタートアップイベント「Hello ART!」が国立で催されていますが、本祭でのエリア開催は今年が初めてとなります。
今回の開催地探訪「Clap!」は、そんな国立駅周辺。
国立にはギャラリーが多く、個人的にお気に入りの店も多いので、日頃から頻繁に足を運ぶ街です。今年のフェスティバル会場となる旧国立駅舎の待合室では、お昼と夕方には市民によるピアノの生演奏が行われていて、ほんのひととき日常の時間から離れてピアノの音色に耳を傾けるのもなかなか気持ちのよいものです。
国立駅南口に隣接する旧国立駅舎から南に向けて一直線に敷かれた大きな通り「大学通り」をてくてくと歩き始めます。
歩き始めて間もなく、以前から気になっていた蕎麦屋「じねんじょ庵」さんに即入店。こちらのお店は蕎麦ダイニングということで、お蕎麦をメインに色々な創作料理もあってお酒の種類も豊富。内装もお洒落な感じです。日曜日のお昼時ということもあって、店内はカップルやご家族連れで賑わっていました。
美味しい蕎麦でお腹を満たして、改めて国立の街を歩きます。
学園都市を形成する中心になる一橋大学。こちらにはかれこれ30年近く前のことになりますが、とある団体の創作活動に参加していた頃によく通っていました。敷地内には有形文化財に登録されている荘厳な建築があって、広い敷地に緑も多く残されているせいか、どこか時間の流れ方がゆっくりとしているような感覚をおぼえます。実際、早いスピードで目まぐるしく変化してゆく街の景色に対して、学園内の景色は非常にゆっくりと変化しているのではないかと思います。
「ゆっくり進む」という考え方や行為って、現代社会においてはどんどん貴重なものになっていってしまっているような気もします。「目まぐるしく、忙しい」ということに慣れてゆくことも必要なのかもしれないけれど、そんな中でも「ゆっくり」という体感を忘れずに持ち続けることも大切なのかもしれないなと、学園内の池で遊ぶ鴨や亀たちが教えてくれているようです。
国立の街を歩いていると、どの道も真っ直ぐであることに気づきます。おそらくはこの街が作られた時の都市計画によって形作られたものだと思うのですが、その直線距離には驚かされるものがあります。個人的に街歩きをしていると、曲がりくねった路地や、区画整理のされていない道路を行き来しながら迷ってしまうところが好きだったりするので、この直線で組まれた街づくりは別の視点からとても興味深いものがありました。見通しの良さと、見通しの悪さ。そのどちらにも街を眺める面白さがあるものです。
冒頭でお話ししたように、国立にはお気に入りの店が沢山あるのですが、今日はその中の一つとして「コレノナ」さんをご紹介したいと思って来店してみたのですが、残念ながらお休みでした。こちらのお店では、主に大正や昭和の美術専攻の学生さんや一般の方(無名の画家たち)によって描かれた絵やスケッチなどを沢山扱っていて、それはそれはとても居心地のよいお店です。
一橋大学敷地内で感じたものと同様に、このお店の空間内は「ゆっくり」とした時間が流れているように感じます。
もし国立を訪れた際には、是非お店を覗いてみてくださいね。
「コレノナ」さんは、国立駅から高架下を西に向けて少し歩いたところにあるのですが、その高架下には兼ねてより「いつかフェスティバルで展示が出来ればいいな」と思っている場所もあったりします。
国立をぐるりと歩いて駅周辺に戻ってくると、一際高いクレーンを発見しました。国立駅に隣接した商業施設と集合住宅の建設が予定されているようです。
中央線沿線地域の街の風景は目まぐるしく変化していっているようです。そんな変化を楽しみながら、これからもそのスピード感を「ゆっくり」と眺めてゆきたいなと思います。
国立で拾ったアートの種
Center line art festival Tokyo(中央線芸術祭)2023 は「The time to sense.」をテーマとし中央線沿線地域で美術展示やパフォーマンス、ワークショップ、トークイベントなどのプログラムを開催します。
市民生活へと深く浸透する芸術創造の場を創出し、東京中心部における文化圏を西東京地域に緩やかに拡大してゆくためのプラットフォームとして継続することによって、地域コミュニティ、民間を主体とした文化創造を促進してゆくことを目標におきながら、西東京地域から全国に向けた発信を市民とともに行ってゆきます。