今週の相場見通し(6/29~7/2)
今週は、かなり特殊な週となる。一言で言えば、「動きづらい週であり、危険な週」ということになる。まず、6月末は海外企業の多くは中間決算となる。そして米国では独立記念日の祝日モードで、マーケットは相当に閑散となる。特に今年はバイデン大統領が「コロナからの独立記念日」と位置付けていることもあり、「お祝いムード」が強いだろう。こうした中で、中国では7/1に「共産党100周年」という中国共産党にとっては、超重要な祝典が開催される。トランプ政権が続いていたら、実はこの日は緊張感が高まっていただろう。トランプ政権の終盤では、中国ではなく、「中国共産党」を名指しで批判していた。つまり、「中国は悪くない。中国共産党が悪いんだ」というロジックを展開していたのだ。その共産党の100周年では、この式典に合わせて制裁を発動したり、中国を怒り心頭にさせるような外交を展開していた可能性があるからだ。しかし、バイデン政権は大人の対応をするだろう。そして、何より市場の注目が高いのは、米国のISM製造業指数や、雇用統計、日本では日銀短観である。特に雇用統計については、例の衝撃となったFOMC後の雇用統計であり、市場が閑散ということもあり、乱高下しやすいので要注意だ。すなわち、今週は動きづらいのだが、市場の流動性が低下しているため、何かショックが起こると一方向に動きやすい週ということになる。
さて、FOMC後のマーケットは、債券市場、株式市場、商品市場ともにやや混乱が見られたが、既に沈静化している。混乱の原因は、①FOMCにおけるFRBのタカ派姿勢が「インフレ抑制への姿勢の転換」と受け止められたこと、②クアドラプルウイッチング(6/18)、③プラート総裁発言(22年利上げの可能性示唆)と思われる。しかし、①については依然として市場では関心の中心である一方で、②はテクニカル的な要因であるし、③についても消化されている。
2014年のテーパタントラムでは、市場がFRBの金融正常化に向けた備えが出ていない状況で発生し、米金利は急上昇、株価は一時的に急落した。非常に分かりやすい動きであった。しかし、今回は既に市場が、FRBの金融正常化を十分に織り込んでいたことから、FOMC後は5年金利などの中期金利は上昇する一方で長期金利は逆に大きく低下した。特に30年金利は一時2.0%を割り込み、今年の2月の水準まで急低下するなど、ブル・フラットニングが一時急速に進行した。これは非常に面白い動きである。このような動きになったのには2つの理由がある。一つはFOMCでロンガーラン(長期見通し)が2.5%から全く変動がなかったことだ。このコラムでは何度も取り上げているので省略するが、米国30年金利はロンガーランを継続的に超えて推移しない。従ってロンガーランが2.5%に据え置かれている間は、米30年金利の上限は2.5%でキャップされる。こうなると、超長期金利の上値が抑えられ、中期ゾーンの金利が上がりフラットニングする展開のため、これと逆のポジションを張っていたプレイヤーのポジション巻き戻し(損切り)が発生する。2点目は、そうしたプレイヤーのポジションが相当に溜まっていたということだ。これで、急激に30年金利が低下したのだろう。
しかし、この金利の激しい変動は、ポジションの偏りに寄るところが大きく、このまま持続的に金利が低下するとは思わない。米国経済の好調さは持続しており、ポジション調整一巡後は、金利の低下も限定的となる見込みだ。一方で前回の金融正常化局面を参考にするなら、FRBのロンガーランが変更ない限りは、10年金利は1.5%近辺がフェアバリューであり、1.35%~1.65%程度で膠着感を強めると思われる。これからのFOMCでの注目点の一つは、ロンガーランである。
米国株式相場について最も重要なポイントは、ナスダックが5/12を底値として、FOMC後も史上最高値を更新していることだ。市場が、利上げの前倒しや利上げペースの加速を本当に懸念しているなら、ナスダックが下落するはず。高値を追っているのは、FRBの金融正常化を既に株式市場は最大限まで織り込んだ証左と思われる。今後も想定通りに米金利が膠着感を強めるなら、米国株は一段高となる見込みだ。米国株式市場だけでなく、新興国スプレッドも2019年12月の水準で低位安定しているほか、ハイイールド市場も堅調であり、FRBの金融正常化プロセスへの動揺は全く見られていない。よく、グロースが良いのか、バリューが良いのかという議論があるが、結論から言えば、どちらも上昇するだろう。今年前半の株式市場で起こったことは、グロースからバリューへのグレートローテーションではなく、株式市場の「健全化」が起こったのだ。グロースの中でもビジネスモデルが強い企業は、しっかりと上昇している。売られているのは期待だけで昨年大きく上昇した銘柄だ。この健全化の動きで、米国株式市場は今や全体で見れば、バブルとは程遠い状態にある。FRBの金融正常化という不透明要因もその大半が払拭された(織り込んだ)中では、とりあえず大きく下落する材料は少ない。
原油価格が73ドル台へと2018年以来の高値まで上昇している。イラン核合意交渉が合意できないまま一時休止となったことや、バカンスシーズン到来に伴う需要増を織り込んでいる。原油価格の上昇は、バイデン政権のインフラ投資の財源としてのガソリン税を一段と難しくさせると思われる。インフラ投資といえば、新聞ではあたかも超党派のインフラ投資案に対して、バイデン大統領が合意し、順調に進んでいるように書かれている。しかし、実際にはまだスタート地点にいる。あくまで超党派の数十名の限定メンバーとバイデン大統領の合意であり、民主党の中にも共和党の中にも、猛烈に反対している議員はいる。米国では7月30日で2年間停止していた債務上限の停止期限が切れて、この債務上限問題が復活する。この問題を両党で合意しない限り、米国は新規の債務調達ができなくなる。米国という豊かな国が、テクニカル上デフォルトするリスクがあるのだ。イエレン財務長官は、「8月中にもデフォルトのリスクがある」と警鐘を鳴らしているが、実際には10月くらいまでは、資金のやりくりはできるだろう。この債務上限の合意は上院で60票が必要であり、バイデン政権はどうしても共和党の協力を得なければならない。従って、最近ではこの債務上限問題は、本来の法律の目的と離れて、政争の具になっている。共和党は、例えばインフラ投資案での妥協がなければ、債務上限問題を通さないという交渉ができてしまうのだ。従ってインフラ投資案は、長引くと民主党が不利になる可能性があるだろう。
イランの大統領選挙では、強硬派のライシ氏が圧勝した。しかし、投票率は48.8%とこれまでの70-80%から大きく低下し、信認という意味では不安の残る勝利となった。最高宗教指導者のハメネイ師が健在の間は、イランの混乱は収拾できると思うが、ハメネイ師はかなり高齢であり、あの地域の平均寿命を大きく超えている。ハメネイ師は1989年からイランを率いており、同師に代わる指導者はいないだろう。中東においては、イスラエルとイランで強硬な政権が誕生したことは、今後のリスク要因だ。アフガニスタンでは、米軍が9月までの撤退を決めた5月以降、急速に治安が悪化している。既に首都カブールに向かう幹線道路は全てタリバーンに支配された。米軍撤退後もトルコが空軍基地の防衛に当たるようだが、こうした状況ではアフガニスタンは、再びタリバーンに実権を奪われるだろう。中東が混乱すると、米国は中国に真正面から向き合えず、リソースを割かれることになる。一方で、中国にとっては、米国が中東や北朝鮮などの小さな石にたくさん躓いてくれることが望ましい。そういう意味でも中東情勢は重要だ。
さて、新型コロナについては、新種のデルタ株が拡大している。英国でもデルタ株の感染拡大により、ロックダウンの完全解除を7月中旬まで1ヶ月延長する事態。新興国でも感染の拡大が心配される。新興国の状況は、FRBの金融政策にも影響する。前回のFRBの金融正常化局面では最初の利上げが2015年12月に実施されたが、2回目の利上げは1年後の2016年12月だった。この2016年は市場では4回の利上げが実施されると予想されていたが、実際には1回しかできなかった。米国の経済が悪かったのか?いや好調だった。失業率は当時の完全失業率と目された4%台まで右肩下がりで低下していた。コアCPIは2.3%と2012年以来の高水準だった。ISM製造業もISMサービス業も右肩上がりの上昇を継続し、S&P500は最高値を更新していた。これでも利上げができなかったのは、新興国経済にFRBが配慮したからだ。当時の新興国はFRBの1回目の利上げ後に株価は一段と下落し、経済は厳しい状態だったのだ。しかし、本来FRBは米国内の「物価の安定」と「雇用の最大化」というミッションを持っており、世界経済や新興国経済にコミットしているわけではない。しかし、当時のイエレン議長のもとでのFRBは新興国経済に配慮したのだ。そして、今のパウエル議長は当時、FRB理事としてイエレン議長をサポートしていたことは忘れてならないことだろう。現在は「世界が協力してコロナに打ち勝とう」という大義名分がある。こんなときに、FRBは新興国を犠牲にして利上げできるだろうか?そう簡単ではない気がする。
日本のワクチン接種は政府目標の1日当たり100万回は難なく達成したようだ。この国は一方向に動き出すと、何事も急速に進む。しかし、本来は明るいムードになるはずが、デルタ株やデルタプラス株などの新種のコロナや、やはり東京オリンピックというリスク要因が警戒されている。いきなり、選手団の中から陽性者が確認されているのだから、やはり心配になるのは当然だ。この大会が無事終了するまでは、日本株の最大の重しとなりそうだ。東京都議会選挙は見どころが少ないが、実は重要な選挙である。東京都議会選が普通の地方選挙と異なるのは、まず有権者が1000万人もあり、国全体の有権者の1割を占めることから、国政選挙の前哨戦となることだ。しかも、面白いことに選挙の争点も「東京オリンピック開催の是非」とか、国政選挙と同じテーマで戦われる。東京都はつくづく変な地域だ。今回は都民ファーストが議席を大幅に減らすと予想されている。頼みの綱の小池都知事(都民ファーストの特別顧問)が体調不良で、この選挙戦が開始される直前から静養に入ってしまっている。体調不良を疑うつもりはないが、小池氏が今回の選挙で都民ファーストを積極的にサポートしていないのは間違いない。何故なら今年の1月の千代田区選挙では、小池都知事は都民ファーストの候補者を応援して当選させている。そのおかげで自民党の候補者は落選した。小池氏にはこれだけの力が今もあるのだ。ところが、この都議会選挙においては、体調不良の前から都民ファーストの支持を一度も表明していないのだ。これは政治的保険であろう。今回の都議会選挙では、公明党が都民ファーストを見限り、自民党と組んだ。これにより、選挙後は自民党と公明党で過半数を取る可能性は高いだろう。小池氏が都民ファーストを応援して、この状況になれば、都知事はレームダックに陥る。小池都知事は、この状況を回避した。また、東京オリンピック後は、衆院解散も睨み、国政に戻るのではとの思惑も噂されている。そうした都議会選挙であるが、私の注目としては公明党が23議席を死守できるかである。公明党は、東京都議会選を最重要選挙と位置づけ、これまで負けたことがない。この歴史に終止符がうたれるとしたら、それは公明党の弱体化として象徴的な選挙となる。それは、今後の国政における自民党の連立パートナーとしての存在感にも関係してくるので注目しておきたい。
さて、これからの市場の見通しであるが、私は米金利はどんどん膠着感を強めると予想している。そして、その金利の膠着は株式市場やリスク市場にとっては非常にサポート要因となる。従って、当面は債券も株式も買われる「適温相場」的な時間帯に突入していくと考えている。しかし、今週について言えば、冒頭に書いたようにかなり特殊な状況であり、とりわけ日経平均株価は、上値を追ってリスクを取る必要がないだろう。むしろ、米株の休暇前の調整に押されそうな雰囲気だ。レンジとしては、28,400円から29,300円程度を想定しておきたい。