来週の相場見通し(9/25~9/29)②
1.円金利の動向について
先週は日銀金融政策決定会合があった。読売新聞の植田日銀総裁のインタビュー記事で、市場のマイナス金利解除に対する意識が高まって以降、市場では今回の決定会合や総裁の会見に対する注目は高まっていた。
下のチャートは、円長期金利の推移であるが、ゆっくりとではあるが、1%方向に向かって金利は上昇している。
円債の売買動向を見ると、非常に明確なことが起こっている。長期債についてであるが、外国人が積極的に円債を売却、これに対してメガバンクは様子見、地銀は購入開始、国内信託銀行の積極買いという構図である。地域金融機関は、今年の前半に持ち高をかなり落として、植田新総裁就任以降の政策変更に備えてきたことが分かる。しかし、総裁は就任後はかなりハト派的な姿勢を示したことから、円金利は4月以降もなかなか上昇しない展開が継続してきた。地銀勢にとっては、なかなか円債を積めない状況で、時間だけが経過してしまい、投資計画に対してビハインドになる状況となっていた。ようやく、円金利が上昇してきたことから、7月と8月にかけて2ヵ月連続でやや積極的に購入していることが分かる。黄色の線の信託銀行はGPIF等の年金勢を含んでいるが、こちらが円債の積極的な買い手となっている。
こうした国内勢に対して、外国人の動向が下のチャートである。今年の前半は、昨年に積み上げたショートポジションの一部手仕舞いにより、円債を買い戻しているものの、7月、8月とそれぞれ1兆円を超える売りを仕掛けていることが確認できる。
この流れは継続するだろう。昨年からの累積のショートポジションは、かなり積み上がっていることが予想されるため、一時的にポジション調整が起こる可能性はあるものの、基本的には1%に向けて、持続的にショートポジションが構築されると思われる。
こうした環境で行われた日銀金融政策決定会合であるが、ほとんど取り上げるべきものはなかった。正直、記者会見もつまらない・・・
岸田首相が、NYで「資産運用特区」の創設を発表していたが、そのためには、日銀の記者会見を英語でやること、外国人記者の質問を受けること、東証上場企業が、決算短信だけでなく、IRプレゼン資料や有価証券報告書などについて、日本語と同じタイミングでの完全な開示をしなければ、無理であろう。
さて、話を戻そう。日銀金融政策決定会合では、マイナス金利解除やYCC解除の新たな情報は何もなかった。ポイントは、それでも円金利はほとんど低下しないということだ。つまり、市場は方向性として、既に日銀が遅かれ早かれ、長期金利を市場に委ねる流れにあることを認識している。大きな流れは既に始まっている。そして、外国人の目線では、10年金利が1%を下回っている状況というのは、理解不能なのである。日本のような財政状況が悪く、人口減少が進んでいる国の場合、リスクプレミアムだけでも10年金利は1%を超えると考えるが普通である。人類の歴史上、市場金利をマーケットに委ねた状況下で、10年金利が1%を恒常的に下回るという状況は、基本的にはないのである。だから、円金利は自然体で上昇圧力が継続するだろう。
もちろん、海外金利の来年以降の低下基調であるとか、国内の機関投資家の金余りや円債回帰などを鑑みれば、円金利が3%や4%になるとは思わないものの、ゆっくりと1%に向かい、やがて超えていくだろう。その際に、ややオーバーシュート的に円金利が荒々しく変動する展開も十分にあり得ると思われる。そして、円金利が1%に向かうという動きは、円高圧力にはならない。何故なら、それは自然な動きであるからだ。
円金利については、政府の経済対策と衆院解散の影響も指摘しておきたい。岸田首相は、10月の臨時国会での補正予算による経済対策を指示した。自民党の世耕氏は、「少なくとも15兆円、できれば20兆円規模が必要」と発言している。昨年も補正予算の議論で「30兆円」みたいな言葉が躍り、結局は財政支出で35兆円を超える経済対策が打たれた。それが良いか悪いかは別として、こんなことが可能なのは、世界において日本だけである。世界の主要国が、どれだけ財政を決めるのに苦労しているかは、米国の民主党と共和党のやり取りでよく分かるだろう。コロナ禍のような異常事態では、各国政府は大規模な財政出動を行える。しかし、通常モードになると、そうはいかないのだ。それは、どの国の政権も基盤が弱いからだ。米国はねじれ議会、ドイツは意見の異なる3党の連立与党、フランスも少数与党だし、韓国も少数与党だ。日本の自民党と公明党の連立政権だけが、圧倒的な議席数を保有しており、いくらでも財政を自由に使えるのだ。そういう状況が永遠と継続している。日本の景気は底堅いと言われる。内閣府のGDPギャップもプラス圏に浮上した。TOPIXは史上最高値を今年は連日更新した。そうした通常モード以上に好調な状況で、当たり前のように数十兆円の補正予算が組まれる、そのこと自体に外国人投資家の目線では異常に見えるはずであり、財政規律の悪化=リスクプレミアム上昇となるのは自然であろう。
衆院解散については、内閣改造がほとんど支持されていないが、市場では年内に解散が実施されると見込む向きが増えている。11月はAPECなど国際的な重要イベントが多いため、日程的には微妙なのだが、解散風は吹いているようだ。自民党の政党支持率は低下しているものの、それでも野党全部を足し合わせた支持率の2倍くらいはあることから、政権交代になるような可能性は限りなくゼロである。さて、これを円金利の観点だけで捉えると、やはり円金利上昇要因となるだろう。すなわち、衆院解散時期には、日銀は政策変更を見送るというのが慣行である。年内に解散イベントが消化されてしまえば、日銀は来年のいつでも自由に政策変更が可能になるということだ。少なくとも政治的な縛りから解放される。ゆえに、市場ではマイナス金利解除が早まったと解釈されるかもしれない。
2.その他の話題
① 米国年末商戦
米国の年末商戦が意識される季節になってきた。下のチャートは、棒グラフが年末商戦のために米国小売企業が10月~12月に臨時採用してきた雇用者数の推移であり、オレンジ色が前年比の変化率である。赤い点線の65万人くらいが、過去の平均値である。今年については、チャレンジャー社の予測では41万人程度となり、2008年以来の低水準に落ち込むと見られている。インフレ鈍化で、小売企業は人件費増加を価格転嫁することが難しくなっており、基調的な人員削減も継続すると予想されている。
② バイデン政権
来週は9月の最終週となる。米国では来年度の予算が成立する見込みはない。従って、短期~中期に暫定予算が来週中に成立させることができるかどうかがポイントとなる。できなければ、10月より政府閉鎖となる。ぎりぎりまで交渉は継続するだろうが、債務上限問題とは異なり、こちらは頻繁に起こることから、米国の政治家にも大きな危機感はない。ゆえに、政府閉鎖になる可能性は相応に高いだろう。
こうした中、UAWとビッグ3の労使交渉も継続中だ。UAWによれば、フォードとは交渉が進展しているため、フォードの工場での新たなストは見送るものの、GMとストランティスについては全ての部品工場がストライキの対象になるとして、合計38の施設にストライキは拡大した。来週はトランプ前大統領が、UAWの組合員の前でスピーチを行うようだ。UAW自体はこれまで民主党政権を支持してきた経緯を踏まえると、トランプ氏は企業側を相当に批判し、労働者を鼓舞して、支持を獲得しようとするだろう。おまけにバイデン政権への批判も強めそうだ。
そのバイデン大統領であるが、本当に2期目を目指すのだろうか?私は、2024年の大統領選については、バイデン大統領は2期目を諦めると予想してきた。そして、バイデン大統領が出馬を断念した瞬間、民主党から若手の候補が一斉に手を挙げる展開となり、その中からヒーロー的な人物が担ぎ出される。そうなると、共和党サイドもトランプ氏では勝てないため、若手を押し上げてくる。その結果、24年の大統領選は、ここ最近の「老人による大統領選挙」から、いっきに見栄えのする「若手同士の大統領選挙」になり、そのこと自体が「新しい米国の再出発」への期待を高め、米国株等には強い追い風になると見込んできた。これを「米国のルネサンス」と勝手に命名した。しかし、この予想は外れ、24年の大統領選は米国民の大半が望んでいない前回のリターンマッチになりそうである。しかし、私はまだ諦めていない。大どんでん返しを期待している。しかし、時間がない。米国では各州で大統領選への出馬申請期限があるのだ。一番早いのがネバダ州であり、10月に締め切られる。この期限を過ぎると、公式にその州の投票用紙に名前を載せることができなくなる。裏技として、「ライトイン・キャンペーン」という仕組みがあり、投票者が投票日に投票用紙に名前のない候補者の名前を自ら書き込むことで、有効票となるシステムがあるのだが、これも各州でも色々と異なるだろう。すなわち、バイデン大統領が出馬を断念するか、あるいか他の民主党候補者がバイデンを見限って対抗馬として出馬を決めるなら、実質的には来月がその期限となる。米国のルネサンス実現にとっては、来月はけっこう重要なのだ。
3.来週のマーケット
米国では月前半に起債はほとんど出尽くしており、あまりないだろう。需給的には月末、四半期のリバランスにより、債券買い、株売りのフローが見込まれている。米金利については、ちょっと一息つける展開となるかもしれない。日本株は中間期末の配当取りや、足元の円安による業績の上方修正期待がサポートになりやすい。米国株、中国株が不安であるものの、底堅い展開を見込んでいる。ラガルド総裁やパウエル議長の発言も予定されており、注目される。為替がじりじりと円安進行しているが、スピード的には非常に揺やかであるため、政府としても介入は困難だと思われる。円金利上昇と為替の円安が同時進行しており、政府としては口先介入を継続せざるを得ないのだろうが、こういう口先介入はやればやるほど、効果が消えていく。そして実弾介入に追い込まれるものだ。10月はどこかの段階で為替介入に追い込まれる展開を見込んでいる。