【映画感想】アンダーカバーもの2本+1
『新しき世界』(2014)は、『ただ悪より救いたまえ』(2020)の感想で、「あの『新しき世界』の二人が!」のような言葉を目にして、ぜひ見たいと思って探しましたが、現在配信サービスでは見られないため、TSUTAYAでDVDを借りて見ました。
ちなみに私の地元のTSUTAYAでは以前よりDVDのスペースが減ってしまったのですが、それでも韓国映画には棚の二面を使っています。これは結構な広さです。
ちょうど『新しき世界』と同じアンダーカバーものの『インファナル・アフェア』(2002)を見たばかりなので、合わせて感想を書きます。
『インファナル・アフェア』
2002年製作/102分/香港
原題:Infernal Affairs
配給:コムストック
監督:アンドリュー・ラウ、 アラン・マック
製作:アンドリュー・ラウ
製作総指揮:ナンサン・シー ジョン・チョン
脚本:アラン・マック、フェリックス・チョン
撮影:アンドリュー・ラウ、ライ・イウファイ
出演:アンディ・ラウ(ラウ)、トニー・レオン(ヤン)、アンソニー・ウォン(ウォン警視)、エリック・ツァン(サム)、ケリー・チャン(ドクター・リー)
警察とマフィアにそれぞれ潜入した2人の男の生き様を描いた香港ノワール。1991年、香港。黒社会に入った青年ラウはマフィアのボスであるサムに目をかけられ、スパイとして警察学校へ送り込まれる。一方、警察学校で優秀な成績を収めていた青年ヤンは、警視ウォンからマフィアへの潜入捜査を命じられる。ラウとヤンは正体を隠したまま、それぞれの組織で頭角を現していく。潜入開始から10年後、警察はヤンから大規模な麻薬取引の情報を得るが… (映画.comより)
アンダーカバーものの傑作と言われる本作。マーティン・スコセッシ監督がリメイクした『ディパーテッド』(2006)もアカデミー賞で複数の賞を受賞している。
私は『ディパーテッド』の方を先に見ていて、今回ようやくオリジナルを見た次第。『ディパーテッド』もおもしろかった(と思う)が、どこがどう、というのはすっかり忘れてしまっている。ただ、ちゃんとヒヤヒヤしたり苦い思いをしたな、という記憶があるのみ。レオナルド・ディカプリオさんもマット・デイモンさんもよかった(と思う)
潜入というと、当局側が犯罪組織に潜るのが常のところ、本作では双方から、つまり犯罪組織の方から警察へも潜入する。それがまず斬新。しかも活動フィールドが同じ、というのはちょっと出来過ぎだけれども、それはまあしょうがない。
しかし、ラウ(アンディ・ラウ)のように、前科がなく優秀な刑事になるようなヤツが、そもそもなぜ犯罪組織の下っ端だったのか、というところが疑問といえば疑問だ。何れにせよ真っ当で生きられるならもう真っ当でいいじゃないか、と思ってしまう。ここら辺は、前段として、ラウが親分を裏切らないのが全く自然なことのように観客が信じられる程度の、ちょっとした挿話があってもいいのではないかと思った。
また、双方が潜った先での仕事(=当人たちにとっては不本意な仕事)の様子のシーンがもっとあると、当人たちの心の葛藤が増している様子をより多く描写でき、それを見ている私たちのジリジリ感も増すと思う。潜入開始から10年経っているのだから、そこで積み上げたものをもう少し見せてくれた方が、現在の状況の重みが増す。それによって後から起こる事態や結末の重みも当然増すはずだ。
本作は、総じてコンパクトに、最低限のエピソードで作り切っているので、これらの点で幾分物足りなさを感じる。しかしその分スピード感があるのも事実で、これはこれでいいのかなという気もする。潔いといえば潔いのかも。
(『ディパーテッド』は本作より50分長いので、その分ジリジリ感を演出するエピソードが多かったかもしれない… どうだったろう?)
結末の苦さも含めて、よくできたおもしろい作品だと思う。トニー・レオンさんもよかった。
続編が2本あるので、いずれ見ようと思っている。
『新しき世界』
2013年製作/134分/PG12/韓国
原題:新世界 New World
配給:彩プロ
監督・脚本:パク・フンジョン
出演:イ・ジョンジェ(ジャソン)、チェ・ミンシク(カン)、ファン・ジョンミン(チョン・チョン)、パク・ソンウン、ソン・ジヒョ
韓国最大の犯罪組織に潜入捜査して8年がたつ警察官ジャソンは、自分と同じ中国系韓国人で組織のナンバー2であるチョン・チョンが自分に対して信頼を寄せていることを知り、組織を裏切っていることに複雑な思いを抱く。しかし、警察の上司カン課長の命令には従うしかなく、葛藤する日々を送っていたある日、組織のリーダーが急死。後継者争いが起こる。カン課長はその機に乗じて組織の壊滅を狙った「新世界」作戦をジョンソンに命じるが……。 (映画.comより)
何も知らずに見て、アンダーカバーものだと知った。韓国版『インファナル・アフェア』などと言われたりもしているらしいが、それはちょっと違う。ヤクザから警察へは潜っていないからだ。
ファン・ジョンミンさん演じるチョン・チョン兄貴の、下品で人たらしっぽいキャラクターが最高で、ヘラヘラと軽いおじさんが平然とひどい暴力を振るうギャップが怖い。人たらしだからこそ、の結末で、観客の納得感も高まる。
イ・ジョンジェさん演じる潜入警官ジャソンは、真面目ゆえに倫理的に苦悩するが、やがて変化する。このキャラクターは、ドラマ『補佐官』での役柄とどこか通じる面がある。
モグラは、洗脳されるところまで行っていないと、任務を貫き通すのは難しい。潜入期間が長ければ長いほど難しくなる。単なる正義感や倫理観だけでは到底乗り切れない。人の行いの善悪より、自分がどう扱われるかの方が、心理的に重要になってくるからだ。孤独な戦い=任務のなかで、自分にとって優しく、よくしてくれる人であれば、気持ちがなびくのは当然だろう。
過不足ないエピソードでハラハラさせながら、観客をうまくジャソンに感情移入させ、ストーリーを納得の行くところに着地させていて大変良くできているし、ジャソンとチョン・チョンの関係性の描き方は、さすが「情」を重んじる韓国の映画らしい、と思う。
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この二作品を一緒に紹介したかったのは、ともにアンダーカバーを扱った良作でありつつ、対照的であるからです。
まず『インファナル・アフェア』で描かれる世界は非情で、『新しき世界』では非情な世界の中の情が描かれています。また、結末は、形としてはちょうど対照をなしています。さらに結末の意味としては、前者では「無間地獄」と位置づけ、後者では一種のカタルシスをもたらすようなものになっています。
それぞれの作品を見て、どういうエピソードを拾ってどれを拾わないのか、そのためにどういう効果が生まれたり生まれなかったりしているのか、など、比較をするのもおもしろいのではないでしょうか。
(記事タイトルにある+1はタイトルだけ出した『ディパーテッド』のことです)