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私の選択 『メアリーの総て』

2017年製作/121分/PG12/イギリス・ルクセンブルク・アメリカ合作
原題:Mary Shelley
配給:ギャガ
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:エル・ファニング、ダグラス・ブース、トム・スターリッジ、クレア・クレモント

19世紀、イギリス。作家を夢見るメアリーは、折り合いの悪い継母と離れ、父の友人のもとで暮らし始める。ある夜、屋敷で読書会が開かれ、メアリーは“異端の天才詩人”と噂されるパーシー・シェリーと出会う。互いの才能に強く惹かれ合う二人だったが、パーシーには妻子がいた。情熱に身を任せた二人は駆け落ちし、やがてメアリーは女の子を産むが、借金の取り立てから逃げる途中で娘は呆気なく命を落とす。失意のメアリーはある日、夫と共に滞在していた、悪名高い詩人・バイロン卿の別荘で「皆で一つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ちかけられる。深い哀しみと喪失に打ちひしがれる彼女の中で、何かが生まれようとしていた──。
(公式サイトより)

19世紀イギリスのゴシック小説『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・シェリーが、『フランケンシュタイン』を書くまでの物語。

まず、宣伝ポスターのビジュアルが素晴らしくて惹きつけられた。 しかし、この墓場で夢想するかのようなメアリーの様子に、ほわっとしたラブリーな少女のお話を期待すると、よい意味で裏切られる。

メアリー(エル・ファニング)は、母親の命と引き換えに生まれた子だった。長じて父の営む書店を手伝う合間に小説を書き、仲の良い義妹にせがまれて自作を読んで聞かせるが、折り合いの悪い継母から仕事をサボっていると咎められる…というような日々を送っていた。

ある日、“異端の天才詩人”パーシー・シェリー(ダグラス・ブース)と出逢う。パーシーには妻子がいたが、二人は互いに惹かれ合い、ついに駆け落ちする事となる。

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パーシーは身勝手で弱い男だ(まあ、パーシーに限らず、妻子を残して出奔するような男は皆そうだが)。けれども、鬱屈した日々を送る年頃の女の子にとっては抗えない魅力があることは容易に想像できる。何しろ詩人である。日常や家業に縛り付けられるような生活とは無縁の軽やかな魂が目の前に現れたら、ついて行きたくなるのも無理はない。その軽やかさがただの軽さになり、生活の重さと釣り合いが取れなくなることなど、想像だにしないし、たとえ想像できたとしても、恋(と自由へ)の衝動は、そんなネガティブな想像を簡単にかき消してしまう。

ところでここで驚くのは、駆け落ちに際しメアリーが義妹ベル・パウリー(クレア・クレモント)を連れて家を出ることだ。ここにメアリーの面倒見の良さが現れている。連れて出ることを約束していたということもあるが、退屈な生活の中で自分の書く小説だけを楽しみにしている妹を、この陰気な家に置いて行ったらどうなることだろう、という思いもあったに違いない。

「連れてって。約束でしょ」と言う妹の手を、一瞬の躊躇の後、掴んで走り出すメアリーの表情はそれを物語っているように見えた。

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駆け落ち当初三人は、パーシーの親からの援助で贅沢な暮らしをしていた。そんな中メアリーは出産する。やがて援助を絶たれ困窮し、逃亡生活のうちに生後間もないわが子を失う。

話が進むに連れ、パーシーは情けない男っぷりをどんどん露呈していくが、それに反比例するようにメアリーは強くなっていく。

苦しい生活の中、二人は争うことが多くなっていくが、ある時メアリーはパーシーに言う。

私の選択で私が出来ている、少しも後悔はない、と。

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表情に可愛らしさと力強さを併せ持つエル・ファニングはまさにメアリー役に最適だ。パーシー役のダグラス・ブースの、チャラさやダメっぷりも悪くない。個人的には、話の筋には関係ない(いや、メアリーが『フランケンシュタイン』を生むきっかけとなったのだからおおいにあるのか)、トム・スターリッジ演じるバイロン卿のキャラクターが出色である。あんなイカれた感じだったのね。

全体的に暗めのトーンの映像は時代背景や物語とよく調和している。衣装や美術も素敵だが、街並みや墓場もいい(ホラーは苦手だが墓場は好き)。

本作は、夢見る18歳の女の子が運命に翻弄される話ではなく、自分で選択して行動し、自分の人生を形作って行く物語であり、そのことの意味を良く知る監督によって作られた作品だ。

この作品に元気付けられる人はたくさんいるだろう。

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