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編集後記(「1番近いイタリア」2024年夏号)

※こちらの記事は「1番近いイタリア」2024年夏号の編集後記の抜粋です。

何でもない平日の夜、何をするわけでもない。エアコンを消して、窓を開け放すと、昼間の暑さが嘘のように、夜風が気持ち良い。普段はダイニングの置物になっているテレビだが、今だけはオリンピックの歓声が聞こえる。一緒に買い物行って、洗濯して、作ったご飯を囲んで、これからゴロゴロして、映画でも見ようか。そんなたわいもない、普通の日。そんな普通の日が笑いで溢れる日常に感謝しながら、フォークをすすめる。

先日、ヴェローナのローマ劇場で、野外オペラを観に行った。演目は大好きな「カルメン」。2000年前の遺跡でこれから目の前でオペラが始まる、その事実自体に興奮しつつ、埋め尽くす観客の中で始まりを待つ。ゴーンという太いドラムの音に、観客が静まり返る。陽の光を残した薄く青い空をバックに、舞台がパッと光で照らされる。指揮者が指揮棒を振ると同時に、聞き慣れた音楽が流れる。一視に指揮者を見て、体をゆすりながら音を奏でるオーケストラ。幕が開くと華やかにスカートをゆらせて、靴で音を鳴らすダンサー。自然に揃った動きの中に1人1人の人が見えて、その人の努力が見えて、目頭が熱くなった。最高の舞台。この場に立つ彼らには、誰にも見えない舞台裏があるのだ。

今、何気なく眺めるテレビからはヨットの中継が流れている。よく知らない競技で日本選手もいないし、途中から見始めたのだけれども、面白い展開になってきたので見ていると、大逆転でイタリア選手が優勝した。日焼けした顔に全面の笑顔を浮かべるマルタ選手、その彼女の勇姿を見ながら、自分のことのように大喜びして飛び上がる陸のサポートチーム、故郷サルデーニャ島から駆け付けた両親、途中までリードしていたのに悔しくて泣き崩れる3位のイギリスの選手、そんな彼女を支えるために船から身を乗り出すコーチ。世界の頂点をめぐる1つの劇の裏にある、多くの人々の姿。想像して、不覚にも涙が出る。最近、涙もろくなった。プロフェッショナルとは、その努力自体に価値があって、それをみた私たちを強くしてくれる。

「一番近いイタリア」も十八号。皆様に支えられてここまで来ました。これからも美味しさとドラマをお裾分けして、少しでも皆様の人生を豊かにできたらという思いで頑張ります。来号もお楽しみに!

雑誌「1番近いイタリア」Vol.18 夏号のご購読はこちらより。


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