食の作り手対談:香川県三豊ナス農家の大山哲矢氏をお招きして(農家×料理家)
「食の作り手対談シリーズ」では、編集長の中小路葵が、様々な分野の第一線でユニークな活動を行う食の作り手をお招きして、対談を繰り広げます。新しい価値を創造し、世の中をさらに面白くする彼らの活動に耳を傾け、共に豊かな未来に想いをはせます。
今回は、香川県で三豊ナスを育てる大山哲矢さん。編集長とは94年生まれの同い年、大学時代からの繋がり。大山氏は島根大学大学院卒業後、就職せずに自ら農業で道を切り開いています。
農家×料理家の対談では、どのような話が聞けるのでしょうか。それでは宜しくお願い致します!
※雑誌「1番近いイタリア」より
雑誌「1番近いイタリア」とは
(写真)大学の仲間と農作業をする大山さん(真ん中)
※中小路編集長を(中)、大山哲矢氏を(大)と記載
農業の道に進むまで
(中)大山さんはそもそも、なぜ農業を始めたのでしたでしょうか?
(大)実家が農家で、祖父母は専業農家・小さい頃から畑に親しみがありました。農業関係で生きていこうと決めたのは、高校の時。大学進学を機に、どうせなら好きなものを勉強したいと思い、農業を専攻しました。
ただ、田舎は農業に対して否定的で、「農業なんて儲からないからやめた方が良い」とみんなに言われました。
(中)意外ですね。地方ほど農業と密接に繋がっていて、後継者不足の話も聞きますよね。
(大)そうですね、日本では産業の中でも農業は主要な産業になっていないところがあると思います。お金を稼ぐための仕事というとサラリーマンをイメージしますよね。その中で「農業には本当に価値がないのか?」と疑問に思った所が原点です。
大学での焼畑農業の研究
(中)それで農学部へ進学。島根大学の研究では焼畑農業を研究していましたね。
(大)はい、モンスーンアジアでの焼畑農業の可能性を模索していました。
日本では中山間地域で土地が余りつつあります。その土地に火を入れて土を潤し、有機農業を行うことで、土地を効率的に利用するという試みです。
(中)なるほど、焼畑というと、途上国で前近代的な農法として行われて、環境破壊の非難も浴びているような印象だったりするのですが。
(大)それをあえて日本に持ってくるのです。
ここモンスーンアジアでは、植物の成長速度が早い。農家は「草が生える」といって苦労しますが、裏を返すと「植物がよく育つ」ということです。人が頑張らなくても勝手にエネルギーを貯蓄してくれるのです。それを火を使って管理することで、新たな農業生産システムを構築出来るのではないか、と。
(中)すごく面白いですね。そこで出来た作物はやっぱり美味しいのです?
(大)とっても美味しい。例えばこないだ採れたカブは、普通のカブとは比べ物にならないくらい、味があって、ホクホクでした。
(中)なんでそんなに美味しいのでしょう?
(大)焼畑農業は完全に有機農業です。焼いた伐採木から、徐々に有機物が分解されて、作物に養分が入ってきます。化学肥料で一気に栄養素を入れると、成長は早いですが、味は薄まります。自然の力で時間をかけて育ったものには味があります。
(中)なるほど。時間をかけて土を育て、作物を育てる、ということですね。効率主義の中で失われつつあるものを、ある種その象徴である都市化によって余った中山間地帯の土地で、逆に復活させる、というのは面白いです。
農業には価値がないのか
大山さん、ここまで来て、今、最初の疑問に立ち戻った時に「本当に農業には価値がないのか」、これについてはどう考えますか?
(大)うーん、視野を広げた時に、農業の面白さがありました。
田舎の人たちの「農業って価値がない」というのは、経済的な意味を指していた。だけど、食料を生産する、お金を稼ぐ、ということ以上に、農業は人を喜ばせるものだと思いました。美味しいものが出来た時に感動すること、自分の作物を食べた人が幸せになること、それが農業の面白さなのではないかと。
(中)まさにまさに、「人を感動させること」が作り手の面白さですね。
料理も全く同じ感覚。自分の手を使って生み出したもので、人が幸せな気持ちになったり、人の暮らしがちょっと豊かになる、それが醍醐味だと思います。
三豊ナスへのこだわり
(中)ところで、なぜ三豊ナスを?
(大)自分が生まれ育った三豊地域で作られたナス、というところに惹かれました。三豊ナスは、第二次世界大戦中に朝鮮に出兵に行っていた人々が種を持って帰ってきたところを起源に持つ、三豊の在来種なのです。
(中)ナスが日本に入ってきたのは7世紀前後ですから、1300年くらい歴史があるわけですよね。すでにこの地にもナスが根付いていたはずですが、何が普通のナスと違うのでしょう?
(大)まず、果肉がジューシー、皮がほとんどないからとても柔らかい。それから、食味が多い。
普通、ナスは食用以外の病気に強い台木に接ぎ木して育てます。だけど、自分が育てる三豊ナスは実生栽培で、種から三豊ナスなんです。接ぎ木に比べると病気に弱かったり、収量が落ちたりしますが、それでも実生の三豊ナスにこだわっています。
(中)それでもこだわりたいのはなぜ?
(大)効率化以上に大事なものがあると思うのです。農業においても産業の効率化が進み、接ぎ木などの技術もその流れで来ています。だけど、生産性よりも、ストーリーのあるものを育てたい。
(中)ポスト資本主義時代と言われる現代では、大量生産、大量消費の時代は終わりが見えていますよね。すると、社会は本質的な豊かさやストーリーに価値を置く方向に向かっていくと、私もそう思います。何より、その方が世界は面白いですから!
(大)そうですね、正解は分かりませんが、その中の試行錯誤をしている感じでしょうか。
もともと農家は、普通はみんな接ぎ木でずっとやってきたから接ぎ木でやっているけれど、「美味しいから」という理由で家庭菜園で実生栽培をやっている人がいました。実生栽培すると収穫後は土地を5年くらい休ませないといけないのですが、土地は余ってきているのだから、休ませながら、美味しいもの作った方が良いのでは、と思ったのです。
常識を疑いながら、試行錯誤して、そしてそこで見つけた知見を次の世代に残していけたらと思います。
(中)まさにその姿勢がイノベーティブな作り手であるための心構えなのかと思いました。
↑大山氏のナス料理
これからの挑戦
(中)将来的に挑戦してみたいことなど何か具体的にあったりしますか?
(大)今のところはワンマンプレーなので、最近は、もう少し周りの人とやっていくことが重要なのではと思っています。例えば、土壌を分析出来る人と組んでデータにして美味しさを証明したり。
(中)料理の人はここにいますからね。
(大)そうそう!笑
あとはこうして発信して、ストーリーを楽しんで食べて頂けたら、と思います。
(中)そうですね。消費者が安さばかり求めて、農家も効率的に多く作ることばかりを求めていると、物余りの今の時代では、社会は疲弊してしまいますね。
本物の価値を理解できる機会、「安いだけでは面白くないよね」と思う人を増やしていく、そうして作り手をエンパワしていく、その循環を作るための仕掛けをしていけたらと思っています。
そして、その循環に「料理の作り手」として貢献出来たら良いなと思っています。いつでもお声がけ下さいね。
今回はどうもありがとうございました!
引き続きお互い頑張りましょう!
※この記事は自費刊行する雑誌「1番近いイタリア2021Estate」からの抜粋です
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