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恋は陽炎。|映画『君の名前で僕を呼んで』

※本記事は2018年5月8日公開の記事を追記したものとなります

 ”初恋”を思い浮かべるとき、季節は夏だ。燦々ときらめく日差しと反射する水面のまぶしさ、若者たちが放つ持て余したエネルギー。淡々と過ぎ行く時間の経過が、「永遠は短い」というメッセージを散りばめているように思う。汗ばんだ下着。視界を揺らす陽炎。耳の奥で響き続ける蝉の鳴き声。僕らの身体には「夏」が染み込んでいて、思考よりも早いスピードで身体はそのサインを受け取っている。それは、生々しくて、痛々しくて、それでいてどこか心地いい手触りを持って僕らに迫ってくる。その夏の手触りを「初恋」というきっかけを通じて描いた名作があるので紹介したい。

 映画『君の名前で僕を呼んで(2018)』監督は『サスペリア(19)』でも話題を集めたルカ・グァダニーノ。原作はアンドレ・アシマン。

君の名前で僕を呼んで

 1983年夏。17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)と24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)。北イタリアの美しい自然と街並み。眩しすぎる太陽の中で、出会い、惹かれ合い、激しく恋に落ちるふたり。

 初恋は甘酸っぱいなんて言葉で語られがちだけど、本当はとても脆くて危うくて情けないほど一方的な感情で胸がいっぱいになる。頭で分かっていても抗えない感情と葛藤。歳を重ねて、季節が巡る度にふと初恋を思い起こしても、いつのまにか美化してしまっている記憶が殆どではないか。

 初恋は年齢や立場や性別を軽く超えてしまうくらいの力を持ってる。だからこそ、傷付く。傷付けてしまう。それなのに、一緒に過ごすとき、どうしようもなく願ってしまう。「この瞬間が、永遠に続いてほしい」と。

 個人差はあれど、初恋というものは、言葉にするのも憚(はばか)れるほどのもどかしさや喜びや後悔や高揚がいつまでも残っていて、時折、胸焼けのように僕らの奥側から湧き出てくる。その度に、僕らは気付いてしまう。たとえ日焼けの後が消えてしまっても、誰かを激しく想った心の火照(ほて)りは簡単には消えてくれないことを。この映画はそれを教えてくれる。

 80年代感満載のファッション。劇中でほぼ流れ続けるピアノの音色。そして、エンディングのあの“音”。こんなに胸を締め付けられて、それでいてやさしく包み込んでくれる映画にはそうそう出会えない。できるなら、劇場で観ることをオススメしたいが、部屋でひとり、静かに本作と向き合ってみるのも至福の時間だろう。そして、鑑賞後に大切な人の顔が浮かんだなら、その人のしあわせを願わずには居られない。そんな素晴らしい映画だと思うのだ。

ひとこと)
『君の名前で僕を呼んで』続編映画が、原作小説の続編「Find Me」を元に準備中とのこと。監督、キャストもほぼ続行。続報が楽しみですね!

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