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産褥アマさんのこと

妻の出産予定日が固まって来たころから、出産直後の過ごし方の話題が自然と増えてきた。
というのもシンガポールは日本とは違って入院期間は3泊4日程度で終わってしまって、その後は自宅で新生児の世話をすることになる。
「親初心者の2人が、生まれたばかりの子どもを自宅に持ち帰って世話などできるのだろうか」という言いようのない不安が押し寄せるのだ。

シンガポールに親が来ることは叶わず

新型コロナウイルスのパンデミックによって、シンガポールは国境を封鎖。そのため、親がシンガポールに来て面倒をみてもらうという世界規模の計画が叶わなくなった。
夫婦だけで生まれた直後のモモタ(仮名)の世話をして、生活しなくてはならない。どうしたものか。そこで頼ったのが産褥アマさんである。

初耳の「産褥」

産褥という言葉に馴染みがある人は多くはないはずだ。特に男性は。駐在夫の私は、これまでの人生で聞いたことがなかった。産褥とは「さんじょく」と読み、

「妊娠および分娩によってもたらされた母体や生殖器の変化が、分娩の終了(医学的には分娩第3期、いわゆる後産期終了)から妊娠前の状態に戻るまでの期間のこと」
wikipedia

だそうだ。
産褥アマさんとは、その期間に子育てのお手伝いに来てくれるベビーシッターのような存在だ。新生児の扱いにも慣れているし、出産後の女性の身体のケアを意識した料理も作ってくれる。

里帰り出産の偉大さ

里帰り出産をする女性もいるだろう。安心して一時的にでも子どもを預けられる親という存在は心強い。
「それに子育てをしたことがある」という経験値は他のものには変え難く、未経験の夫婦だけでは、非常に心もとない。
冒頭にも書いたように、シンガポールでは入院期間が3日間程度しかない。それはつまり生後3日の赤ちゃんが自宅に来ることを意味している。

ここでも妻と夫との違い

私は楽観的に考えていた。「みんなやっているんだから、なんとかるでしょ」、と。
妻は違った。「やばいお世話の仕方が分からなくて、モモタ(仮名)を死なせてしまったらどうしよう」と悲観的。
前回の記事で書いたように、ここでも妻と私との間に二項対立が生じた。

救世主をブログで見つける

妻がシンガポールで出産もしくは子育て経験のある駐在妻のブログを読み漁って見つけたのが、産褥アマさんのシャーリーさん。
シャーリーさんはシンガポール人で、姉妹で産褥アマさんを生業としている。日本語も多少話せる。
連絡してみると、運よく1週間だけ空きがあったようで「もう予約したから」と妻から連絡があった。仕事が早い。

1週間で800シンガポールドル

ここにも新型コロナが影響しているようだった。
私たちと同じようにシンガポールで出産し、親に来て手伝ってもらおうと考えていた多くの夫婦。親がシンガポールに来られなくなったために、産褥アマさんを探しては予約を入れているようだった。
2020年9月の時点で、シャーリーさんに予約状況を聞いてみると「2021年2月まで予約でいっぱい」とのことだった。
シャーリーさんは、月〜金の5日間、9時〜17時のお世話をしてくれて、800ドル。モモタの沐浴やオムツ替えといったお世話のほか、昼食と夕食の用意もしてくれた。

まるで魔法使いのようだった

沐浴のときに、世界の終わりが訪れたのかと思うほどギャン泣きしていたモモタでも、シャーリーさんの手にかかれば泣くことなく大人しくしている。恐るべき経験値だ。育児経験値はおそらく53万は超えているだろう。私たち夫婦は、2ぐらいか。
シャーリーさんが滞在してくれている日中は、ほとんど泣かずに過ごしているモモタ。一体どんな魔法を使っているのだろうか。

日本沈没ぐらいの泣き方

世の中のみんながシャーリーさんのように子どもを扱えたら、なんと平和なことか。シャーリーさんが去ってからもモモタはスクスクと育ってはいるが、生後3カ月を過ぎても相変わらずお風呂で泣きまくる。
ただ、その泣き声には変化が見られる。
世界の終わりから、日本の終わりぐらいまでにスケールダウンはしているのだ。ただ、毎日の夕方バスルームには泣き声が響いていることには変わりない。平和を希求している。

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