#261【劇評・賛】 カラーパープル(2/2)
今日もお読みくださってありがとうございます!
だいぶ間が開いてしまいましたが、カラーパープル評続きです!
カラーパープル評
姉妹の、のびのびとしたかわいらしさ
主人公のセリーは、黒人女性。
若いころのセリーと妹のネティの仲良し姉妹が、若草物語的でとってもかわいかったです!
だから一層、セリーが実の父親から性的虐待を受け、実の父親の子どもを2回も産まされ、二束三文で黒人男性の元に嫁に出されてしまう展開が信じられない。
勉強好きで賢い妹のネティは実写版『リトルマーメイド』でアリエルを演じたハリーベイリー。
くらたは、ディズニー版人魚姫のラスト改変には懐疑的ですが(いちおう図書館の児童書担当者だったので)、実写版のリトルマーメイドはとっても好きでした。ハリーベイリーの歌唱すばらしかった。
人魚姫なんて架空の存在なんだから、肌の色が何色でもおかしくないと思う。
黒人男性の女性差別感情
セリーは黒人男性である夫から「お前は黒人で、貧しく、女だ」と言われ、前妻の子どもの面倒を見させられ、こき使われ、ここでも性的虐待を受けます。
黒人男性が「お前は黒人で」と言ういびつさがすごい。
トランプ大統領の再選で思い出したのはまさにこのシーンでした。
(でも差別を他人事と思うのは早計で、ちょうどこの映画を観たあとに、りんかい線のけっこう混んだ車内で、外国人の人の隣の席が空いてたんですよね……。自分たちの社会に確かにある、見慣れない相手をなんとなく遠巻きにしてしまう気持ちに、自覚的でなければならないと思ったのでした。)
それにしてもセリーの状況は悲惨すぎる。
フィクションであっても、こういう状況に置かれた人間がいたのだと思うと辛い。
第二次世界大戦前の女性の悲惨さを描いた映画には、フランス映画の『パリタクシー』もありました。
これは白人女性が戦前家庭内でどれだけ凄惨な暴力にさらされていたかが描かれています。
フランス映画らしいウィットと愛にあふれた人生賛歌でした。こちらもオススメ。
わたしは美しい、わたしは愛されている
セリーは、シュグという華やかな歌手の女性との出会いで変わってゆきます。
それはまさに、「わたしは美しい」「わたしは愛されている」という感覚の獲得。
映画のタイトルはシュグの名台詞「きっと神は怒ると思う。もし紫色に気づかずに通り過ぎたらね」から。素敵なシーンでした。
シュグがいる間はセリーは夫から救われていられるので、こちらも安心して見ていられました。
打ち負かされて再び立ち上がるソフィア
ソフィアは、黒人女性でありがながら、おかしいことはおかしいと表現する自立した女性。
そのために逮捕され、次第に生気を失ってゆきます。
この人が死んだ目になっていくのは本当につらかった。
なぜ黒人で女性であるということでここまで苛烈な人生を強いられるのか。
ゆるし=トラウマからの解放
セリーは父親の死後、父親の残した家を手に入れ、夫の元を離れて洋品店として成功をおさめます。
セリーの夫ミスターは、暴力は振るうし、銃で脅すし、とにかくとんでもない野郎でしたが、改心して最後にはいい奴になります。
彼を許すことがセリーのトラウマからの解放につながった表現は、それはそれでとてもよかったです。
(実際には、許せないものは許さなくていいと思うが)
同時期に公開されていた『哀れなるものたち』では、主人公ベラを銃で脅した元夫は、最後ヤギにされちゃいました。
それと比べればとんでもなく寛容なラストです。
ミュージカルで良かった
とにかく黒人女性を取り巻く環境が悲惨すぎて、観ていて苦しかったので、ミュージカルで歌があって良かったです。
特にラストはミュージカルらしい大団円でした。
セリーと、セリーの実の子どもたちとネティが、再び巡り合うまでに時間を要しすぎたけれども、でも今日が一番若い自分なんだ、という結論はとてもよかったです。
でも過去の話じゃなかった
この映画を観た時点では、「女性たちが暴力を受けたり、差別的に扱われたりする描写はあまりに悲惨だったけれど、これは昔の話」と思っていました。
そこへ、ここへきて、トランプの再選で浮き上がってきた、今なお残る黒人女性、有色人種の女性への差別的感情……。
『虎に翼』にも通底することですが、今年発表された数々の、「少し前の時代を舞台にした上質なフィクション」で描かれた社会課題が、まだまだ現代の私たちの直面している課題であることは、世界のどこでも変わらないのだなと嘆息したのでした。