世間知らずの転職活動・フリー編 その33
目を大きく見開き驚いた表情の木本さんに「I社と契約をした」と説明をした。もちろん、木本さんにとっては想定外の出来事であっただろう。しかし、私にとってみると、それが今とれる最善の手段であった。
前回はこちら
契約はどうするの???
木本:「契約したの???」
何度も繰り返し尋ねる木本さん。
私:『はい。契約社員ということで、契約させていただきました。』
木本:「え?ほんとに?契約したの?」
私:『はい。すみません。』
木本さんは、下を向いてうな垂れ「ちょっと、待ってて」と外に出て行った。
どうやら、どこかへ電話をしているようだった。
焼肉屋の席で一人、ビールを飲みつつ、木本さんが戻るのを待っていた。
飯田専務と話して、契約の件がひっくり返ったらどうしよう?と心配しつつ、いや、そのために昨日契約書にハンコまで押したんだから・・・と、自分の気持ちを落ち着かせつつ、木本さんが戻ってくるのを待っていた。
20分くらい経っただろうか、木本さんが電話から戻ってきた。
木本:「契約のことは本当みたいだね・・・」
私:『はい。』
木本:「飯田専務と話して、川原にも伝えたから・・・。」
私:『はい。』
木本:「残念だけど・・・。仕方ないな。」
木本さんとの間の空気が少し重かったが、これでZ社ではなくI社と契約ができると思うと、少し気持ちが軽くなった。
木本:「よし、肉食べよう。」
契約社員のみち
木本さんと、少し思い空気感で焼肉を食べ終わり、下北駅で木本さんを見送った。そして、すぐ飯田専務へ電話をした。
私:『お疲れ様です。佐藤です。』
飯田:「はいはーい。木本から電話来たぞ?大丈夫だったか?」
私:『はい。飯田専務とお話しされて、契約したことが分かったので、仕方ないと言っていました。』
飯田:「な?よかっただろ?契約しておいて。きっと、契約なかったら、お前、まだ木本からしつこく誘われていたぞ。」
私:『はい。それはホントにそうだと思います。ありがとうございました。』
飯田:「ま、とりあえず、契約の件がカタがついただろうから、まずは今のプロジェクト頑張ってよ。年内な。納品できたら、年明けからは忙しくないだろうし。」
私:『はい。まずは年内に納品できるようにがんばります。』
飯田:「それ終わって、春ぐらいなったら、うちのソリューションのプロジェクトマネージャーをやってもらうから。いくらでもやることあるから、期待しててよ。」
私:『あ、ありがとうございます!』
飯田専務との電話を切り、小田急線に乗って家へ向かった。
木本さんと初めてあったときのことを思い出していた。そういえば、あのときに「事業部長やってくれって」言われたけど、あれが怪しくてZ社が嫌になったんだよな。
飯田専務もさっき「プロジェクトマネージャーやってもらうから」って言ってたけど、木本さんとあんまり変わらないじゃん・・・。
I社と契約したのは、飯田専務の人柄なんだろうな、と、飯田専務の顔とハゲ頭を思い出し、ニヤけながら窓の外を眺めていた。
この川原社長、木本常務のZ社はこの数年後にはなくなっている。
この時点では、ある意味正しい選択だったと言えるだろう。
同僚
次の日、会社に行くとそうそう大川さんから話かけられた。
大川:「昨日、大丈夫だったみたいじゃん?」
私:『え?なんで知ってるの?』
大川:「いや、飯田専務から電話きてさ、夜。佐藤さんがうちに来るって(笑)
きっと、誰かに話したかっただけだと思うけど。」
私:『うん。飯田専務っぽいな(笑)』
大川:「まぁ、とりあえずはよかった。同じ会社の同僚として、1月からよろしく頼むよ。」
私:『おお!こちらこそ、引き続きよろしく!』
大川:「あ、そうだ。薩田さんもだ。」
と、薩田さんを呼んで、これまでの経緯を説明した。
薩田:「あ、じゃぁ、1月から3人同僚ってことになるね。しばらくは、ここで仕事を一緒にすると思うけど、よろしくお願いします。」
私:『もちろん!同僚として一緒に頑張ろう。』
こうして、私の個人事業主としての契約は今月末までとなり、来月、年明けの1月からは、I社の契約社員として働くこととなった。
正直、このプロジェクトの後の仕事としては、まだこの時点で何をやるかなんて決まっていなかった。ただ、飯田専務のプロジェクトマネージャーをやって欲しいという言葉を信じて、I社と契約社員として働くことにしたのだった。
新卒で3年半働き、COBOLだけの経験から、何か新しいことを、当時で言うオープン系のシステム開発に挑戦できると信じていたのだった。
お客様試験
契約の件が一旦は収束し、今月中の納品に向けて、プロジェクトへ集中しなければならなかった。
先週のプロジェクト内の試験は無事に終わった。
お客様への結果報告で、問題がないことの確認もとれたそうだ。
そして、その次にお客様が最終チェクするための試験を実施するのだ。当然であるが、今までよりも、試験データの量も多く、範囲も広く、全てのケースで問題ないことを証明しなければならない。
来週、お客様へ結果を報告するためには、お客様から実データをベースにした試験データを提供してもらい、来週の頭までには、問題なく実行できることを確認しなければならない。件数が多いため、なかなかハードなスケジュールではある。
プロジェクトマネージャーの林田さんから、試験のスケジュールが展開され、それぞれサブシステムで準備をしていた。水曜日から来週の火曜日まで。ちょうど1週間のスケジュールであった。
大川:「これはなかなか厳しいスケジュールだね。」
私:『なにか、問題があったら、それを修正して対応する時間がないな。』
そのスケジュールは、バグなどで処理が止まらなければ、ちょうど終わるようなスケジュールとなっていた。
つまり、処理が止まったり、出力結果がおかしい場合は、その修正の時間を別に確保しなければならないのだ。それは、徹夜や土日の出勤を意味していた。
私:『まぁ、何もない、ということはないだろうからね。久しぶりに徹夜になるかな?』
大川:「そう言われると、確かに随分久しぶりだな。徹夜は。』
また、あのときの徹夜続きの日々が繰り返されるのか?と頭をかすめたが、体制立て直しで品質があがってきたのも実感していた。
私:『まぁ、そうならないことを望もう。』
そしてプロジェクトは、最終局面とも言える試験に挑むのであった。
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
次回はこちら
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