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世間知らずの転職活動・フリー編 その32

試験も無事に終わり、納品まであともう少しというところまできた。一方、来月以降の契約について、Z社の木本さんと下北沢の焼肉屋で話をしていた。そして、私はZ社とは契約をしないことを伝えたのだった。

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週末の相談

金曜日の夜、家に着いてからZ社との契約をどうするか、頭を悩ましていた。
自分のためにも、プロジェクトのためにも、このまま今の仕事を続けたい。しかし、Z社との契約は続けたくない・・・。

「飯田専務に連絡しよう。」

もう夜は遅かったから、翌日、土曜日に飯田専務に相談することにした。
どうなるかは分からないが、Z社の2人よりも信用はできそうだと感じていた。
実際に会ったのも、連絡をしてたのも、Z社の木本さんよりも、飯田専務の方が多かった。

「よし。」

まずは連絡して、相談をしよう。
この仕事の長い飯田専務であれば、なにかアドバイスでももらえるかもしれない。
もしだめでも、今後のために何か役立つ情報も得られるはずだ。

翌日、飯田専務に電話をかけた。

飯田:「はいはーい。佐藤さん、どうしたの?お休みなのに。」

私:『あ、すみません。お休みのところ。ちょっとご相談があって、ご連絡したのですが。。。』

飯田:「なに?どうしたの?休みなのはいいんだけど。何かあったの?」

私:「はい。じつは・・・。」

Z社と契約が月曜日にあること、ただ契約はZ社としたくないこと、しかし今のプロジェクトは続けたい。こんなようなことを伝えた。

飯田:「はいはいはい・・・。なんだ、もっと早く言ってくれればよかったのに。」

私:『そうですよね。すみません。』

飯田:「じゃあさ、急だけど、今日、夕方、神田まで来れるかな?うちの会社。内容も内容だから、会って話そうよ。」

私:「あ、はい。ありがとうございます。時間ありますので伺います。』

こうして、飯田専務と会うために、夕方、神田の事務所に向かうこととなった。

雪の日の訪問

この日はとても寒く、外に出ると雪がふり始めていた。

神田まで約1時間。

会社を辞めてから2ヶ月ちょっと経っていた。
前職の3年半を超えるくらい、濃い経験をした2ヶ月半のように感じていた。
面白い人たちに会えたなぁと思いながら、電車の窓から雪を眺めていた。

神田駅の西口を降りて7、8分歩いて、飯田専務から聞いた住所についた。
小さなビルの5階だという。
エレベーターは4階までしかなく、5階へは階段を登って行った。

「コンコン!」

スチール製の扉をノックした。

「はいよー!入ってー!」

中から声がした。

ドアを開けると、そこには飯田専務と、相原さんが迎えてくれた。
町田さんとの忘年会にも来ていた、I社の営業の人だ。

相原:「お!雪の中よく来てくれたね。会えて嬉しいよ。」

満面の笑みで迎えてくれた。

飯田:「まぁ、座って座って。」

応接セット用のソファーだけが置いてある殺風景な部屋だった。

飯田:「ちょうどね、今月から借りてね。いまオフィスデスクを手配してるところなんだよ。綺麗でしょ?」

1月からこの事務所を拠点に本格的に営業を始めるということだった。

飯田:「エレベータないし、トイレも4階だけど、十分十分。」

飯田専務がそう言いながら暖かい缶コーヒーを渡してくれた。

相談の行方

相原:「あ、町田さんは元気なの?忘年会では結構ね、飲んでて気分良く終わったと思うけど。」

私:『そうですね。やはり、今月末で終わりみたいです。町田さん。』

飯田:「あー、やっぱりそうか。いやー、残念だねぇ」

相原:「そうなんだ。まぁ仕方ないよな。それは」

私:『プロジェクトも問題なさそうなので、オフィスにもほとんど来てないですね。』

町田さんは、人員管理PJの納品が終われば去っていくことになっていた。
人員管理PJ自体は、大きなシステムではなかったから問題もほぼ起きず、納品もできる状況になっていたのだ。

飯田:「あ、あれ聞いてる?T社の薩田。あいつうちに来ることになったんだよ。」

私:「はい、聞きました。喜んでましたよ?薩田さん。」

相原:「そうかぁ。薩田って、会ったことないけど、どんな感じなの?」

私:『彼はフットワークもよく、コミュニケーション力も高いので、働きぶりは悪くないと思いますよ!』

プログラムはやったことはないですよ。とは言えなかった。。。

延長契約?

飯田:「で、本題だけど。」

私:『はい。』

飯田:「いちおうね、いま、上の会社のS社から、1月以降も3月までかな?大川と佐藤さんの延長の依頼が来てんだよ。」

私:『あ、そうなんですね。』

確かに経費サブシステムの角川さんが、林田さんは2人は延長すると言っていた、と、聞いていたけど、本当にそうだったんだと、このとき初めてしったのだった。

飯田:「そ!けどな、こんなこともあろうかと思って、Z社にはまだ何も言っていないんだよ。」

私:『?』

意味がよく分からなかった。

それを察しつつ、飯田専務が話を続けた。

飯田:「だから、木本はさ、佐藤さんに契約しようとしたところで、この仕事が1月以降あるかどうかは知らないし、もしかしたら、ないかもしれない、って状況なんだよ。」

私:「は、はい。」

相原:「そう。Z社としては、佐藤さんにこのままプロジェクト続けられるって、確約できない状態なんだよ。」

飯田:「明日、会って、確実にプロジェクト続けられるか聞いてごらん?確実に続けられるなんて言えないから。」

たしかにその通りである。
I社まで延長依頼が来ていても、Z社はそれを知らない。

飯田:「確約がなければ、契約できない、って言ったらそこまでだよ。」

私:「なるほど・・・」

そして契約へ

飯田:「まぁ、そんなまどろっこしいことはしないけどさ。今の状況って、そういうことだから。」

私:「は、はい。」

飯田:「Z社と契約はしたくないんだよね?」

私:『はい。』

飯田:「うちとはどう?」

私:『あ、もし可能であれば、飯田専務のところでしたお願いしたいです。ただ、今のプロジェクトを抜けるとご迷惑をかけるので、今回の延長はしていただきたいです。』

飯田:「わかってる、わかってる。」

相原:「延長はもちろん大丈夫だよ。心配しないで。」

私:『ありがとうございます。』

飯田:「でな。こんなこともあろうかと思って用意してたよ。ジャーン!」

今どき「ジャーン!」って言うなんて、と思いながら目をやるとそこには契約書がった。

飯田:「佐藤さんの契約書、準備しておいたから。まずは契約社員で、もし内容に問題がなければ、今日、契約しちゃおう。」

飯田:「木本には、現場で大川に誘われてうちと契約した、って言えば、あとは俺がうまくやってやるから、心配することないよ。」

急な展開に少し驚き、どうしたものか?と呆気に取られていたが、いまこの時点での選択肢としては悪いものではないと思っていた。

相原:「契約書、よく目を通して、おかしなところあったら言ってよ。うちもスタートしたばかりだけど、面白いこと一緒にやろうよ!」

契約書に一通り目を通し、内容に問題がないことを確認し印鑑を押した。

相原:「ありがとう!一緒にがんばろう!」

私:『はい。ありがとうございます!』

相原さんが思っていた以上に喜びを表してくれたことは嬉しかった。

・・・ 月曜日 下北沢 駅前の焼肉屋 ・・・

木本:「え?うちと契約しないの?」

私:『はい、すみません。I社と既に契約をさせていただいています。』

木本:「え?え? 契約したの? I社と!?」

驚く木本さんに契約したことを伝えると、更に目を見開いて私を凝視した。

つづく

※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。

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