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世間知らずの転職活動・フリー編 その31

試験も佳境に入り連携先の確認は問題なく終わった。あとは・・・請求サブシステムの帳票の確認だけとなった。ここで問題が発生すれば、明日、再実行が必要になる状況であった。

前回はこちら

あとは待つだけ

香川:「終わりましたー!

請求サブシステムの実行が終わった。

私:『お疲れ様でした。』

香川:「いやー、最後まで実行止まらなくてよかったよ。」

ついさっき同じジョブを流したのだが・・・。

まぁ、そうは言ってもJCLも修正しているから、心配にはなるか。。。
香川さんのいつもの天然ブリに紛れながらも、処理が終わって一安心ということには間違いはなかった。

あとは、川島さんが帳票を持って帰ってきてくれればいいだけだ。
おそらく、印刷された帳票の確認までしているはずだ。

香川:「大丈夫かなぁ?心配だよ。初めて帳票に印刷するし。」

私:『え?単体レベルで本番の帳票への印刷確認ってしてないんですか?』

香川:「う、うん。最後でいいと思って。」

大川さんと顔を見合わせながら、不安な気持ちで一杯になった。

帳票は所定のフォーマットが印刷された紙である。
その紙の、たとえば氏名欄の枠の中に氏名がしっかりと印刷されないといけないのだ。

だから、帳票出力の確認は、所定の位置にしっかり印刷されるかどうか?という点が大事なのである。それを単体試験で確認せずに、本番に近い今回の試験でいきなり確認するのは、なかなか度胸のいること・・・、いや無謀なことであった。

出力結果

「ガチャ!」

ドアの開く音と共に、入り口から川島さんが入ってきた。
川島さんは、心なしか、顔色が悪い。

香川:「あ、川島さん、どうでした?確認していただけましたか?」

川島:「う、うん。確認はしたんだけど。」

香川:「よかった。大丈夫ですかね?」

川島:「それが・・・。」

香川:「え?」

川島:「ひとつだけ、枠から文字が飛び出ちゃってるんだよね・・・。」

香川:「えー。」

少し重たい空気が部屋の中に漂う。

川島さんんと香川さんが、林田さんのところへ報告に行った。

大川:「まぁ、1帳票のズレだけだったら、データ問題ないから大丈夫じゃん?」

私:『まぁ、そうだよね。お客様の確認試験までに対応すれば、問題ないだろうね。』

赤井:「いやー、あれはヤバいよね。帳票、ちゃんと出して確認しておかないと。」

いつの間にか、赤井さんが請求サブシステムの帳票の印字ミスを語りに我々の後ろに立っていた。

大川さんと私はその声を、極力、脳に届かないように、右から左へと聞き流しながら、あいづちだけをうっていた。

試験結果

しばらくして、林田さんのところから、川島さんと香川さんが、明るい表情で戻ってきた。

続いて林田さんもやってきて、部屋にいる人たちに向けて話を始めた。

林田:「みなさん、お疲れ様です。
    予定通り、全てのジョブを実行が完了しました。
    データの確認までできたので、
    今日はここまでで終わりにしたいと思います。
    一部の帳票で、文字の出力にズレがあったけど、
    それは次回までの修正で対応したいと思う。」

大川さんと話していた通り、試験を終えることができた。

林田:「じゃぁ、社員はこの後、打ち合わせするから会議室へ。
    それ以外の方は帰宅してください。
    明日明後日、ゆっくり休んで、月曜日からまたよろしくお願いします。
    それじゃぁ、解散!」

全員:「お疲れ様です!」

終電間近ではあったが、今日中に終えることができたのは良かった。
ただ、社員はこの後、打ち合わせが続く。
いつも通り、タクシーチケットが配られていた。。。

安堵?

赤井さんと、大川さんと、3人で下北沢駅へ歩いていた。

赤井:「いやー、請求サブシステムは、危なかったねー。」

大川:「でも、無事、終わって良かったですよ。」

赤井:「でもね。全部ちゃんと動く予定だったから。帳票ちゃんと出力されないと!」

赤井さんは、請求サブシステムの帳票出力をやり直ししたいのだろうか?と思うほど、帳票の文字ずれにこだわって話続けていた。

そうか・・・

もともと、赤井さんが帳票の漢字の出力を文字コードで調整できる方法を教えたんだった。香川さんが帳票の文字がズレて、正しく表示できない、ということで、最終的に私がH社特有の日本語の2バイト文字の出力方法を教えたことがあった。

赤井さんは、もともと日本語の指定が難しいI社の汎用機を使用していたため、文字コードで調整する方法を香川さんに教えていた。そこへ私がH社の日本語の指定の方法を香川さんに教えたため・・・。

「まだ根に持っているのか?」

もう忘れていたことを、思い出させるほどの赤井さんの熱弁であった。

大川:「あ、じゃぁ、お疲れ様。月曜日の件、週末よく考えなよ?」

駅に着いて別れ際、大川さんが声をかけてくれた。

私:『う、うん。ありがとう。考えるよ、ちゃんと。』

赤井:「え?なに?月曜日って?」

大川・私:「おつかれさまー!」

また話が長くなりだった赤井さんを気にせず、終電に飛び乗った。
電車に乗ると今日の試験が無事に終わったことへの安堵感とともに、月曜日の契約の話のことで頭が一杯になった。

Z社と契約しているから、契約をしなければこの仕事はなくなるだろう。。。
そうなったら来月から仕事どうしたらいいのだろうか?
そんな自分自身の心配と、現場を抜けることになれば、プロジェクトにも迷惑をかけてしまうのは明白だった。

仕事を続けつつ、Z社と契約をしない方法・・・
疲れた頭の中で月曜日のことを考えながら、電車に揺れながら眠りに落ちていった。

契約の行方

週明けの月曜日。
試験も無事に終わったこともあり、プロジェクトの雰囲気は明るかった。

夕方、契約で木本さんと待ち合わせがあるため、定時で上がろうとしていたところで、大川さんから声をかけられた。

大川:「今日、大丈夫?契約?土日で何か考えた?」

私:『そうだね。いちおう、手は打ったんだけどね。木本さんが納得してくれれば、いいんだけど。』

大川:「ああいう人たちは、話がうまいからね。口車に乗せられないようにしないとね。」

私:『そうなんだよね。気をつけるよ。』

小森:「なになに?なんの話?飲みに行くの?」

また、リーダーが面白そうな話だと思って、首を突っ込んでくる。

大川:「金曜日、リーダーと飲み行きたかったって、話してだんだよ。」

小森:「なーんだ。素直に言ってくれれば待ってたのに。今日行く?」

私:『ごめん!用事あるからまたね!』

小森:「えー、なんだ。ずるいなぁ。」

ニコニコ嬉しそうに話すリーダー。
結局、リーダーは金曜日、誰にも相手にされなかったらしい。

私はビルを出て、前回と同じ待ち合わせ場所ほ下北沢駅へ向かった。

木本:「おー、佐藤さん!お疲れ様。」

ニヤニヤ笑うその油ぎった顔の目の奥は、やはりホントに笑っているのかどうか分からない。

私:『お疲れ様です。今日はありがとうございます。』

木本:「この前の焼肉屋でいいかな?」

私:『はい。もちろん大丈夫です。』

前回と同じ席に座りビールを頼む。

挨拶代わりの乾杯と軽い世間話をしたあと、プロジェクトの状況を共有した。
新しい体制でプロジェクトが立て直りつつあり、今週か来週のお客様向けの試験が終われば、納品も問題ないだろう、ということも伝えた。

木本:「じゃぁ、来月からは安定してプロジェクトが進むね。」

木本さんが身を乗り出し、今日の本題、契約の話を始めた。

木本:「佐藤さんは、1月以降も続けるでいいんだよね?プロジェクトを。」

私:『はい。お客様が問題なければ続けたいと思っています。』

木本:「じゃぁ、うちと契約を進めて、社員?契約社員?どっちがいい?肩書きもいいのつけてあげるよ。」

当然の話だが、木本さんは、私が今日、契約するつもりで来ていると思っているようだった。
Z社としか、契約するしかない、と思っているのもうかがえた。

私:『いえ。すみません。御社とは契約ができないんです。』

木本:「え?

木本さんが驚きの声とともに、見開いた目で私のことを凝視した。

つづく

※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。

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