世間知らずの転職活動・フリー編 その35
お客様向けの最後の試験。正常系の試験は無事終わり、異常系の試験に入った。課金サブシステムが終わったところで、一旦、確認作業となったが、その重苦しい空気が緊張感を更に高めた。
前回はこちら
試験結果
私:『大川さん、お疲れ!』
課金サブシステムの実行が終わった大川さんと私は喫煙スペースでタバコを吸っていた。服部さん、赤井さんが実行結果の確認をしているところだ。大川さんの顔はいまいち晴れない。
大川:「ちょっと、微妙かも?」
私:『え?処理結果?』
大川:「うん。最後、データみたけど、なんか微妙にいつもと違うように見えた。想定外のデータが入ってきてたら・・・。」
きっと、大川さんが出力結果を見ておかしいと感じたのであれば、おかしいのだろう。すぐ対処できる内容だったらいいんだけど・・・。
そんな話をしていると赤井さんが焦った表情でやってきた。
赤井:「大川くん!ちょっと、きてきて。なんかおかしいんだよ。」
大川:「あ、行きます。行きます。」
大川さんが「やっぱりな」という雰囲気を醸し出しつつ、部屋に戻っていった。
想定外
二人のあとを追って部屋に戻ると課金サブシステムの3人が試験データと設計書と、そしてプログラムを見ながら、問題点を探していた。
角川:「どうも想定外のデータがあるみたいっすね。判定が足らないようなことを赤井さんが言ってたですね。」
私:『あ、そうですよね。このタイミングだと、もうそれくらいしか思い当たらないですね。』
角川:「まぁ2ヶ月前だと、普通に起こってたんで成長しましたね。プロジェクトも(笑)」
自虐気味にそう話す角川さんであったが、確かにそうである。
私が参画した直後の試験ではF社のお偉方に囲まれ、何度もABENDを繰り返していたのだ。
成長したと言うのか、正常に戻ったと言うのか・・・と、あの冷や汗をかきながらのJCLの実行を懐かしく思い出した。
林田さん、山崎さん、田中さん、そして、課金サブシステムの3人、服部さん、赤井さん、大川さんが打ち合わせをしていた。原因は究明できたので、その対応方法を検討しているようだった。
小森:「うちは終わったちゃったからね〜。大川さんは大変だなぁ。」
相変わらず、能天気なリーダー・・・。
私:『いや、もしかしたら、経費サブシステムの出力結果がおかしくて、課金サブシステムに影響が出ているのかもしれないですよ?リーダー!』
小森:「え!?そんなことあるの???」
少しはビビらせとかないと、リーダーは。と話していると打ち合わせをしていたメンバーが会議室から出てきた。
対応方法
林田:「みんな、ちょっと聞いてください。」
林田さんから、今後の進め方について共有が始まった。
林田:「ご存知の通り、課金サブシステムの出力で不具合が見つかりました。不幸中の幸いというか、いくつかのプログラムを修正することで対処が可能です。」
林田:「しかし、今日、金曜日ですが、月曜日まで待っていると納品のタイミングには間に合いません。そのため、課金サブシステムとJCLチームで、明日、土曜日の午前中までに不具合の対応をして、その後、午後から請求サブシステム、支払サブシステムの処理を継続したいと思います。」
たしかに、来週の火曜日までに終わらすには、月曜日まで待っていたら間に合わなくなるのは誰の目から見ても明白であった。
林田:「最後の山です。みなさん、ご協力ください。」
課金サブシステムとJCLチームはこのまま対応を進めることとなった。おそらく徹夜で修正をして、午前中に実行することとなるだろう。
大川:「佐藤さん、JCLもちょっと修正が必要かも?」
私:「あぁ、もちろん。対応するよ。」
大川:「赤井さん、超落ち込んでたよ(笑)」
私:「まぁ、そうだろうね(笑)」
大川さんと他愛もない会話を交わしながら、修正の手を進めた。
最後の追い込み
夜になると、課金サブシステム、JCLチーム以外のメンバーは帰宅してもういなかった。もちろんF社の社員はみんな残っている。
終電がなくなる頃、プログラムの修正はほぼ終わり、この後の実行スケジュールを検討していた。
大川:「ふぅ〜。久しぶりの徹夜は身体にこたえるね(笑)」
私:『いや、ほんと久しぶりだな。』
久しぶりと言っても、ほんの1、2ヶ月前は徹夜続きの毎日であったけど。大川さんとタバコを吸いながら話をしていると、林田さんと田中さんもタバコを吸いにやってきた。
大川・私:「あ、お疲れ様です!」
田中:「あ、お疲れ様!」
林田:「あぁ、二人とも徹夜してまでありがとう。」
深夜の疲れが溜まった身体で、くだらない話を喫煙スペースでする。時間がない状況で、緊急な対応を迫られる中、気を落ち着かせられる一瞬であった。
林田:「そういえば、佐藤さんって、個人事業主なだよね?」
私:『あ、はい。』
林田:「これ終わった後とか、どうなの?仕事は決まってるの?」
私:『いえ、まだ、このプロジェクトまでしか考えてないです。』
林田:「そんなんで大丈夫なの?(笑)
まぁ、いいんだけど・・・。
でもさ、次、決まっていないなら
うちとかどう?
もし、その気があるなら
僕が ちゃんと手配するよ?」
私:『え?あ、はい。ありがとうございます。』
唐突な誘いにビックリした。
私:『あ、いや。でも、ちょうど、この前、大川さんのところの会社と契約したばかりで・・・』
林田:「あ、契約したんだね・・・。
契約したばかりで、急に辞めるのは申し訳ないと・・・。
まぁ、そうか。
そういう状況なら仕方ないか。
もし、その会社がうまくいかなくなったら連絡頂戴よ!」
私:『は、はい。ありがとうございます。』
急な話だったが、林田さんの言葉はとても嬉しく、ある意味、この後の一つのモチベーションになったとも言える。ただ、本心ではF社に入って、あっち、こっち、と指示されて、自由がないように思えたのは確かだった。
「たぶん、自分には合わないんだろうな」
と、思いながら、林田さんの言葉を心に刻んだ。
試験の行方
その後、課金サブシステムの修正と再実行は問題なく進んだ。土曜日の午後には後続のサブシステムのメンバーも出社し、処理を実行。帳票出力も含め、問題なく処理を終えることができた。
これで、月曜日と火曜日に、イレギュラー系の処理が問題なければ、納品ができることになる。徹夜明けの土曜日の夕方、ゴールが見えてきた中、眠い目を擦りながら帰宅した。
「ふぅ。久しぶりの徹夜は身体にこたえるな・・・。」
1日の休息を挟んで、週明け、月曜日、火曜日でイレギュラー系の処理も無事に進んだ。経費サブシステム、課金サブシステム、請求サブシステム、支払サブシステムまで問題なく、処理を終えることができた。
最後、連携先へ送信したデータが、実際に処理に使われ、返信されてくる。
このデータを元に、最後の帳票が出力されれば試験は終了だ。
石山:「いま、先方から電話がきて、データを返信したそうです。香川さん、帳票の出力をお願いします!」
香川:「はい。了解です!!!」
川島:「じゃぁ、プリンターのところへ行ってくるよ。」
香川さんが帳票出力のJCLを実行した。あとは、しっかり帳票が出力されているのを確認できれば良いだけだ。
石山:「向こうも処理は問題なかったようだからね。きっと大丈夫だよ。」
このプロジェクトの仕様の要であった石山さんがそう呟いた。
ガチャ!
ドアが開いて、川島さんが戻ってきた。
静寂の中、皆、注目している。
川島:「たぶん、大丈夫だと思うんですが・・・。石山さん、一緒にチェックをお願いします。
石山:「うん。もちろん。確認しよう。」
2ヶ月半前に参画し、色々な壁が立ちはだかってきた。石山さんはプロジェクトの立ち上げ時からいたのだが、この2ヶ月半は相当大変だったと思える。パッと見、イケメンの石山さん。2ヶ月半の間で髪の毛が全て真っ白になっていた。
石山:「確認しました!問題ないです!!!」
どんな大変な時でも笑顔だった石山さんの、いままでで最高の笑顔での終了の合図だった。
全員の拍手とともに、お客様向けの試験を終えた。
「これで、納品ができる。」
つづく
※この物語は経験をベースにしたセミフィクションです。
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