「修論本」出版の道すじ・番外編②「印税暮らし」はできる?本の人気をチェックするには?
「修論本」の印税で暮らせるの?
気になる金額は・・・
「印税たくさんもらった?」。「売れるほど、印税も増えるんでしょ?」。「夢の『印税暮らし』ですか」。出版後、たまにそんなことを言われます。
印税暮らしーー。本当にそんなことができるのか。私もそうだったように、自分の本を出版したことがない人にとっては、なかなか見当のつかない世界だと思います。
私は2020年2月に「修論本」を出版し、印税もきっちりもらいました。ですが、実は2019年1月末に出版社の編集者と初めて会ったときには、編集者から「印税は生じない契約方式を考えています」と伝えられていました。
「学術書」は研究費として出版助成金をもらって出版費用を捻出することが多いので、当然、印税は発生しません。冊数は、よほど多くて1000部程度。私の「修論本」は「学術書」ではなく「一般書」として刊行する計画でしたが、研究論文をもとにした本だったため、「印税がない」と言われても、まったく不思議でも不満でもありませんでした。
担当編集者によると、当初は「印税本渡し」という、印税にあたる金額分の「修論本」を現物で著者にプレゼントする契約方式を予定していたようです。
印税をお金でもらえるとわかったのは、「修論本」ができあがり、出版社から「見本」として10冊、自宅に送ってもらったときです。初めて手にする自著とともに契約書が入っていて、書面には印税について記されていました。
「定価2200円×初版3000部×〇%」。これが私の印税です。3000部という、すでに刷った冊数に応じて印税がもらえるので、「売れた分だけ印税が増える」わけではありません。
「〇%」の具体的な数値は明かせませんが、Googleで「印税 相場」と調べて出てくる数字とほぼ同じです。2月28日の発売から約3か月後の6月5日、契約書にあった金額から源泉徴収されたあとの金額が、私の口座に振り込まれていました。だいたい、「初任給よりは多いけれど、夏のボーナスよりは少ない」くらいの金額でした。
このほか、印税以外の「特典」として、著者である私が「修論本」を購入する場合には、定価から割り引いた金額で出版社から直接送ってもらうことができます。私は献本用に10冊単位で買うので、毎回、数千円ほど値引いてもらっています。
この「特典」でうまれる金額を足したとしても、「修論本」の印税で暮らすことは、まず不可能です。「臨時収入が入った」くらいにしかならないので、「お金目当て」で「修論本」の出版を目指すという場合には、注意してください。
私は編集者に会ってから「修論本」が発売するまでに13か月間かけてしまったので、月割りにすると数万円にしかなりません。原稿を仕上げるために使ったプライベートの時間に「残業代」がついた、という程度です。第2回の記事で書いたように、「お金」以外の「出版したい理由」がなければ、本が完成するまでモチベーションを保つのは難しいと思います。
たしかに「修論本」の印税は「暮らせる」ほどではありませんが、それでも、私にとって印税をもらえたことはとてもうれしく、ありがたいものでした。
担当編集者からは、「『一般書』として出版するために大幅な修正をお願いしたので、『印税あり』という契約方式にしました」と説明されました。たった1人、孤独に原稿と向き合っていた日々が、出版社や編集者からねぎらわれたような気がして、うれしかったのです。
もらった印税は、「修論本」の英訳を翻訳家に依頼するための謝金に回すことにしました。英訳にかかる費用は印税よりも多いですが、それでも「次の夢」を印税に後押ししてもらい、若い会社員としてはとても助かりました。
20万円超の印税、
これすなわち確定申告
「修論本」の印税が「20万円」を超えていたため、出版から1年後の2021年2〜4月の間に、2020年分の確定申告をする必要がありました。勤務する会社からの給与以外の収入が「20万円」を超える場合、「雑収入」として申告しなくてはなりません。
印税や講演料などの、会社からの給与以外の収入をすべて合わせて「雑収入」として計算します。同時に、出版や講演の準備などにかかった経費や、ふるさと納税などの「寄附控除」なども算出しておきます。「寄附控除」を受けるには寄附先からもらった領収書の提出が必要ですが、経費の領収書は提出せずに手元で保管しておくだけで大丈夫です。
申告書の作成には、国税庁が提供する「e-Tax」という無料のシステムを使うと便利です。申告書の作成ができる有料のアプリもありますが、印税の申告程度なら、課金のいらない「e-Tax」で十分だと思います。
会社や出版社から配布される源泉徴収票などを手元に準備し、「e-Tax」が聞いてくる質問にひとつひとつ回答すれば、間違いのない申告書を自動でつくってくれます。初めての確定申告で不安でしたが、この機能のおかげで、すんなりと申告書を用意できました。
マイナンバーカードを持っていれば「e-Tax」上で申請までできますが、持っていなくても、作成した申告書をプリントアウトすることができるので、紙媒体で税務署に提出すればOKです。この場合、マイナンバーを記載した住民票を申告書と一緒に提出する必要があります。
2020年分の確定申告は、新型コロナウイルスの感染対策のため、例年なら2021年3月15日までの期日となるところ、1ヶ月延びて4月15日までとなっていました。締め切りにならないと手続きの類いには手をつけられないタイプの私は、4月15日早朝に、申告書を税務署の時間外受付ポストに投函しました。
ちなみに、2021年分は一律での期日延長がなかったため、締め切りの2022年3月15日当日に慌てて税務署に申告書を持って行きました。税務署の営業時間中に行ったので、10分程度、並んで窓口に出しました。窓口で申告書をチェックしてもらうのも5分程度で終わったので、申告書をきちんと用意さえしていれば、意外と待たされません。
2020年分の確定申告を終えて約1か月後の2021年5月17日、提出した「本郷税務署」の名義で、数万円の還付金が振り込まれていました。確定申告は少し面倒くさいですが、ちゃんとお金は戻ってくるので、20万円以上の印税をもらったら必ず行いましょう。
「印税が増える」ことも⁈
カギはやっぱり「売れ行き」
「修論本」を出しても、夢の「印税暮らし」はできない。これは事実です。
しかし、「売れれば売れるほど印税が増えるわけではない」と言い切っては間違いになります。契約書には、「重版した場合」の印税についても記されており、「定価2200円×重版した冊数×◎%」となっていました。「◎%」は、初版の「〇%」よりも多い数字でした。
もし、私の「修論本」の「初版3000部」が全て誰かの手に渡り、新たに本を印刷する必要が出たら、私にはもう一度、印税が支払われることになります。「めっちゃ売れたら、印税も増える」ということです。
契約書では、「修論本」の電子書籍版が売れた場合の印税も、「初版3000部」とは別に設定されていました。電子書籍が多く売れれば、印税も増えることになります。
人気はどうやって把握する?
「印税が増える」という域に達するかどうかはさておいても、自分の本がどれくらい売れているかは、著者としてはやっぱり気になるところです。でも、売れ行きを確認するすべは、なかなかありません。
出版業界で働く人なら、大手書店や出版取次会社が運営しているウェブ上のサービスで、本の売れ行きを知ることができるそうです。ただ、こうしたサービスを一個人が利用することは難しいです。法人契約しかできなかったり、契約料が高かったりするためです。
では、どうするか。私は、Amazonのランキングを1つの目安にしています。「修論本」が本全体や特定のカテゴリの中で何位かといった「ランキング」を見れば、何冊売れたかという実数はわからないまでも、だいたいの人気を知ることができます。全体で1万位を切っていたら、「まあまあ売れたんだな~」と思うことにしています。ランキングはだいたい1時間おきに更新されます。
Amazonの商品ページからいちいち順位を確認することもできますが、本を執筆した人だけが会員になれる「Amazon 著者セントラル」というサービスを使うと便利です。発売した日から今日までのランキングを全て記録してくれているので、商品ページを毎日のように見なくても売れ行きの増減がわかります。紙の本だけでなく、Kindle版のランキングも確認できます。
新聞や週刊誌で書評が載ったり、自分で講演や学会発表をしたり、SNSなどで影響力のある人が紹介してくれたりすると、順位が跳ね上がることが多いです。逆に、「なんで順位がこんなに上がっているんだろう」と思って「エゴサーチ」をすると、意外な理由(メディアやインフルエンサーに取り上げられていたなど)が見つかったりします。
「Amazon 著者セントラル」を使うには、出版社とやりとりしていたメールアドレスを使って会員登録をする必要があります。出版社が事前に私のメールアドレスをAmazonに登録してくれていたのか、私の場合は「著者セントラル」への会員登録は「一瞬で」できました。(著者のメールアドレスが事前に登録されていなかった場合などでは、会員登録に数日以上かかる場合もあるようです)
会員になったら、「著者のプロフィール」も設定できるようになります。顔写真や自己紹介文を自分で決められます。設定したプロフィールは、Amazonの商品ページなどに反映されます。
「著者セントラル」でできるのはランキングを把握したり、プロフィールを設定したり、レビューを確認したりするくらいです。ですが、本を出版したことのある人だけが登録できるので、少し「特別感」があってうれしいものです。
ほかにも、論文や学術書を検索するサービスの「cinii」を使って、人気を調べることがあります。私の「修論本」を「cinii」で調べると、タイトルや著者名などの書誌情報だけでなく、大学図書館に何冊所蔵されているかどうかを知ることができます。
出版から2年ほど経った2022年3月末時点では、全国の国公私立大学の図書館、約230館に所蔵されているとわかります。1冊につき「1館」と表示されています。所蔵館数は、毎週月曜日(祝日の場合は火曜日など)の朝に更新されます。
「230冊」は、「社会学」の本の中では、多いほうだと思います。読む人が限られそうな専門性の高すぎる「学術書」ではなく、読みやすい「一般書」として出版できたため、幅広い大学図書館で書架に並べてもらえることになりました。「社会学」の専攻がありそうな大学だけでなく、医療系の大学や、短大、高専などでも置いてもらっています。
大学図書館で貸し出されている230冊は、「初版3000部」のごく一部でしかありません。ですが、大学図書館に置いてもらえば、何人もの学生や研究者の卵が読んでくれる可能性があります。それだけ「修論本」が誰かの「発見」や「助け」になる可能性を秘めているのです。なので、「修論本」を所蔵する大学図書館数が「伸びていく」のも、うれしく感じます。
この記事では、どれくらい本が売れたかという「量」の把握の仕方だけに注目しましたが、読者から直接メールが届いたり、レビューが増えたり、さまざまな依頼をもらうようになるなど、「量」だけでは測れない反響も体感しています。苦労して本を出版した者だけが味わえる喜びだと思います。
「お金」だけでなく、たくさんの「特別」が、著者には与えられます。出版を夢見る人には、ぜひモチベーションの1つにしてもらえたらうれしいです。
次回の「番外編」は○○
次回の「番外編」のテーマは、なんと。
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未定です。
もしも「こんなことを知りたい」という疑問があれば、このページの下部のコメント欄や、メールで、ご意見をください。お待ちしています。
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