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「あえて飲まない」「しらふこそクール」なソバーキュリアス。飲み方の多様性に若者共感
「ソバーキュリアス(ソバキュリ)」って聞いたことがありますか。飲めるのにあえてお酒を口にしない生活スタイルのこと。欧米の若者発のトレンドで、Sober(しらふ)とCurious(好奇心が強い)を組み合わせた造語です。健康志向の高まりなどから注目され、広島でも「しらふこそクール」と前向きに捉える若者たちがいます。(栾暁雨)
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「男なら飲むべし」。そんな同調圧力を感じる職場の飲み会が苦手だった。広島市の男性会社員(29)は、気乗りしない酒席で上司や取引先の勧めを断れずに飲み過ぎてしまうことが度々あった。「グラス空いてるぞ」「次何飲む?」。相手のペースに合わせてビールや日本酒を注文し、翌日は二日酔い。頭が重くて体もだるい。仕事の効率は落ちるし、せっかくの休日も寝て過ごす羽目になった。
ソフトドリンクを頼めば「ノリが悪い」と思われてしまう。学生時代から父親や先輩に「仕事では飲めた方が得」とも言われた。就職活動でも「お酒が好きか」と問われ、「はい」と答えると50代の男性社員は「分かってるねー」という表情をしたという。
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体質的にアルコールに弱いわけではない。でも無理に飲むのは嫌だ。飲酒を強要するアルハラ(アルコールハラスメント)に遭ったり、酔った上司にセクハラされたりした友人もいる。コロナ禍で飲み会がなくなってからはストレスが減った。睡眠の質が上がり、仕事の生産性も向上。オフの時間も有意義に過ごせる。
お酒を飲める人が「あえて飲まない」「少量しか飲まない」ソバキュリを知ったのは最近。欧米のZ世代(1990年代半ば以降生まれの世代)がSNS上で「#Sober」のタグを付けて健康的な日常の様子をシェアして注目された。「飲むのを我慢する」禁酒のようなネガティブな感情ではなく、「飲まない方がクール」というポジティブな考え方がいいなあと思う。「どんな時に何を飲むか自分で選べる。お酒に頼らない人間関係が築けたらいいですね」
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アサヒ飲料(東京)が昨年、20~59歳の男女1万人に飲酒習慣を尋ねた調査でも「飲まない派」が45%に達した。若い世代ほど割合が高く、20代では過半数を占めた。ソバキュリの認知度はまだ3・6%と低いが、その考え方に賛同する割合は8割を超える。
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ニーズの変容に合わせて、売る側も、飲み方の選択肢を広げることに躍起だ。大手ビール各社はノンアル飲料やアルコール度数が低いお酒を相次いで投入。キャッチフレーズとして、アサヒビールは「スマートドリンキング」、キリンビールは「スロードリンク」、サントリーは「ドリンク・スマート」を提唱している。
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アサヒ飲料はパッケージに「#Sober」とデザインした炭酸水を今年3月に発売した。マーケティング本部の内田晴久さん(46)は、健康志向や無糖ニーズの高まりに加え、「モノではなく経験を消費する時代、酔っている時間がもったいないと感じる合理的な若い世代が増えた」と指摘する。「酒に飲まれるのは格好悪い」という意識もあるのだという。
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ノンアルの飲み物を充実させたバーも増えている。今年4月に広島市中区立町でオープンした「ザ・スミスラボ」は、アルコール特有の複雑な味をノンアルで再現したカクテル風の「モクテル」の種類を多彩に取りそろえる。バーテンダーの山崎一輝さん(33)は、果物だけなくパプリカや大根などの野菜も使い、30種類以上を作る。
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開店は午後3時。カフェ代わりに立ち寄ってモクテルを味わいながら、パソコンを広げて仕事をする会社員や、親子連れもいる。同僚と訪れた広島市の男性(31)は「見た目も華やかだし、運転する日や二日酔いしたくない時にぴったり」と気に入っている。
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バーテンダーの山崎さんも実は下戸。酒を飲まない方が味覚は鋭くなるそうで、少量で味を確かめながらバリエーション豊かな味をつくりだす。それに、飲みたくない気持ちを理解できるからソバキュリの価値観にも共感する。「飲める飲めないにかかわらず楽しめる場にしたい」と話す。
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一方で、職場の仲間と親交を深める「飲みニケーション」の衰退を嘆く人も。広島市の男性管理職(50)は、ここ数年、若い部下を誘っても「飲み会スルー」されることが増えたと実感する。「コロナ禍で親睦の在り方を見直す人が増えたのでしょう」と理解を示しつつ、少々寂しそう。
職場ではなかなか腹を割って話せない部下との交流に酒席が役立ってきたからだ。「お酒は適切に飲めば最高のコミュニケーションツール。でも今後はノンアルでも参加しやすい空気作りが必要になるのでしょうね」。飲み方にも多様性が求められる時代。同僚との接し方をどうアップデートしたらいいのか、考え中なのだそうだ。