韓国発「モッパン動画」に「ルーティン動画」…ユーチューブにハマる広島の若者は癒やしを求めていました
オンライン生活に欠かせないコンテンツとして、存在感を増している動画共有サービス「ユーチューブ」。映像を投稿して収入を得るユーチューバーも注目され、テレビよりよく見るという若い世代が多くなっています。誰かがご飯を食べる姿や何げない日常生活など、これまでにないジャンルも登場しました。何がそんなに面白いのか―。ユーチューブが生活に溶け込む若者たちに会ってきました。(文・栾暁雨、イラスト・岩清水玲子)
ドーナツ頬張る韓国アイドルが「メシ友」
ある日は唐揚げ、別の日はえびフライ。タルタルソースやマヨネーズをたっぷり付けて、口いっぱいに頰張る。タブレット端末の画面には延々と、食べっぷりのいいユーチューバーの姿が映し出される。カロリーも気にせず、一心不乱にぱくぱく、もぐもぐ。
1人暮らしの部屋で、その画面を楽しそうに眺めるのは、広島県西部の女子学生(20)だ。「人のおいしそうな表情を見ると、幸せな気持ちになるんですよね」。食事風景を配信する「モッパン動画」が最近のお気に入りだ。
自分の食事中に流すと、さながら画面の向こうの相手と食卓を囲んでいるよう。ドーナツを食べる韓国アイドルや、カフェ風ランチを手作りする東京の大学生…。しーんとした部屋に人の気配が加わる。「『メシ友』やルームメートのような存在。孤食の寂しさが紛れます」。手抜きのカップラーメンも宅配弁当も何だかおいしくなる。
モッパンは韓国発祥で「食べる姿を放送する」という意味。親しい人しか知らないはずの「食べる」という行為をのぞくプライベート感がたまらない。数百万回再生されている動画もある人気ジャンルだ。画面の中の出前メニューを見て「このお店のこれが好きなんだ」。箸を持つ手を見て「左利きなのね」。知るたび、会ったこともない相手との距離が縮まる。
コロナ禍の孤独がまぎれる
「みんなコミュニケーションに飢えているのかな」と女子学生は言う。大学に入って2年、授業はほぼオンライン。コロナ禍で入学式も飲み会もなくなり、サークル活動は休止中。部屋に呼ぶほど親しい友達もできない。誰とも話さないまま終わる日もある。
憧れていた学生生活とは程遠い。だから余計に動画に愛着が湧く。登録するチャンネルは40以上。6畳の部屋から外の世界とつながっている気がする。ポテトチップスや肉を食べる「そしゃく音」を聞くのが好きな友達もいる。「好みはそれぞれだけど、アプリを開けば自分に響くものに出合えるから助かる」
仕事で疲れた夜にぴったりの脱力感
ユーチューブが映し出す日常は「食べること」だけじゃない。起きてから寝るまで、家で過ごすいつもの風景を流す「ルーティン動画」もある。広島市の会社員女性(27)は「流しっぱなしでも邪魔にならないBGMみたい」。帰宅すると真っ先にユーチューブのアプリを開く。
届くのは有名人や同世代の働く女性たちの淡々とした日常だ。寝ぼけ眼で起床し、歯を磨いて顔を洗う。すっぴんも隠さない。メークをした後は、クローゼットへ。「彼女、今日はどんな服を着るのかな」と思いながら、会社帰りにスーパーで買った食材を冷蔵庫に詰める間も、目と耳は動画を追う。「パジャマかわいい」「化粧水はこのブランドか」。映像とのたわいない対話を続ける。
見ても気構えず「等身大の自分でいいじゃん」と癒やされる。一日中ハイヒールを履いて接客し、脚も顔の表情筋も疲れた夜は、これくらいの脱力感がいい。
「リア充」投稿よりローカロリーな幸せ
ここ数年は「SNS疲れ」状態だ。多くの友人が使っている写真共有アプリ「インスタグラム」は、非日常を切り取った「リア充」投稿ばかり。テンション高めの映(ば)え写真には、「いいね!」ボタンだけ押して、スマートフォンを裏返す。予定もなく家で過ごす休日には、まぶしくて直視できない。
ルーティン動画が描くのはボサボサ頭で一日中ゲームをする人や、帰宅後に服を放り投げたままごろごろする人。キラキラした日常を見せられるより、よっぽど親近感が湧く。見るためのエネルギーも最小限。「そんなローカロリーな幸せがちょうどいいんです」
(2021年6月17日付中国新聞掲載 連載「オンライン的生活 そばにYouTube <1>」から)