転職2回⇒起業の27歳IT社長・広島【後編】仕事が来ない恐怖を乗り越えたのは「好き」だったから
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帰国後は広島の広告代理店での勤務を経て起業したそうですが、不安はなかったんですか?
めちゃくちゃ不安でしたよ。夢だったけど、いざ起業してみると、お客さんはいないし、会社員と違って誰も守ってくれない。仕事の仕方を教えてくれる人もいません。銀行からの融資を含めた1千万円が元手なのですが、事務所の家賃や税理士代などでとにかくお金がかかる。仕事も来ないのに元手がどんどん減って行く恐怖で眠れないこともありました。
でも乗り越えられたのはやっぱり「好き」だったから。組織に縛られず、自分の判断でやりたいことができるのって刺激的で。元来ポジティブな人間だし、これまでの仕事も自信になっているので、真っ白なキャンパスに設計図を書く感覚でワクワクしていました。
オーストラリアから帰って広告会社で丸2年、営業やテレビのCM制作をしました。誰かを喜ばせる仕事がしたくて脇目も振らず働いて。真面目に働く姿って必ず誰かが見ていてくれて、その後につながるんですよね。当時の知り合いから、徐々に仕事の依頼も来るようになった。「仕事あるのか?」「食えているのか?」と心配してくれる人もいて、仕事が増えていきました。人の縁って大事ですね。
起業して間もないのに、依頼された仕事には対応できるものですか?
僕のスタンスとして、とりあえずどんな仕事でも受けるんです。そんなに詳しくなくても「できます」と言う。分からないことでもネットや本で調べたら大抵誰かが説明してくれてるんですよ。あとはひたすら独学です。案外何とかなるもんですよ。
「自分をどれだけ追い込めるか」って大事で。人は自分の能力ベースの仕事しかしないと永遠に成長できない。現状維持か、それ以下に落ちるだけです。だから、僕はあえてキャパ以上の仕事に挑戦したい。ちょっと精神論になっちゃうけど、「もう無理だ」っていう修羅場を何回重ねたかで、人間の厚みが違ってくると思うんです。
ストイックですね。忙しくても必ず読書は欠かさないそうですが、どうしてですか?
著者が一生かけて得たことを短時間で学べるからです。超お得じゃないですか? こんなにコスパがいいことはありません。それに活字に触れてインプットしないと、精度の高い営業トークはできない。営業って言葉のボキャブラリーがないと、商品やサービスの魅力を上手に伝えられないんですよ。
僕、読書は仕事モードに入るためのルーティンでもあるんです。朝型なので、頭がさえている午前中に会社の運営や顧客のPR案、新しいビジネスについて考えます。毎朝6時に起きて、7時過ぎにはオフィスに到着。本のお供はドリップコーヒーです。週1冊ペースでビジネス書を中心に読みます。仕事のスキルアップになるから、若い人たちにはとにかく本を読むことを勧めたいですね。
そして寝る前の2時間は空想タイムです。頭を休めるために家では絶対仕事はしないので、代わりにぼーっとするんです。想像するのは「5億円稼いだら何に使うか」「1カ月休めたらどこに行くか」とか、ハードルは高いけど頑張れば実現できそうなこと。しかもできるだけ具体的にです。
例えば、5億のうち1億は資産運用、1億は事業費に使う。残りでマイホームを建てたり旅行したり。人って自分で想像できないことは絶対に実現できないと思っていて。それに頭に遊びの部分を作らないといいアイデアも出ない。これもビジネス用の思考訓練のようなものです。ぼーっとしている時に突然、仕事につながるアイデアがぽんとひらめくんです。
多くの人は寝る前に「あした会社に行きたくねー」とか「仕事嫌だな」と感じるけど、僕はあえて「夢」を見る。前向きな気持ちのまま寝て翌日への活力にします。もちろん毎日ではなくて、ネットフリックスで海外ドラマを見ることもありますよ。自分なりの方法でトリップしているんでしょうね。
最後のマイルールは、「人付き合いこそアナログに」ですか。効率性を求めているというお話もあったので、ちょっと意外です。
IT関連の仕事をしているからかもしれません。目まぐるしく新技術が生まれる業界では、逆に人と人とのつながりの大切さに気付かされます。オンライン会議も普及して便利になりましたが、信頼関係や心の距離を縮めるのはやはり直接会うことです。
多い日で6、7件打ち合わせがありますが、僕は必ず顧客のところに足を運びます。フットワークが軽いと、相手も「わざわざ来てくれた」と喜んでくれる。その場の空気感や温度、言葉の抑揚みたいなものをキャッチしやすいので商談もはかどります。相手が遠方にいるなら別ですが、大事なプロジェクトほど直接会うようにしています。
誰かと食事をすることも大切なコミュニケーションツール。コロナ禍で夜の会食が難しくなったので、お昼にシフトしました。食べるのはとんかつが多いかな。炭水化物ばかりだと眠くなって効率が下がるので、タンパク質多めのメニューを選びます。
週3日は仕事相手とランチに行って雑談。互いにリラックスしながらなので、人間味を感じられます。そこで聞いた趣味の話題などを次の商談で振ると、盛り上がってスムーズに進みます。まさに潤滑油です。
アナログ回帰するのはおもしろいですね。津川さんのこれからの目標って何ですか。
広島にいながら、世の中に役立つ小さなイノベーションを起こせる人間でありたいですね。
IT技術が進んで、地方からでも個人でも起こせるムーブメントは、以前と比べて確実に増えていると思います。リモートワークの普及もあり、今は優秀な人材が割と散らばっているし、「大手企業がいい」という価値観も薄れつつある。事業って自分の欲のためだけだと続かない。結局は誰かに喜ばれたいという気持ちがモチベーションになります。
最近取り組んでいるのはAIカメラの事業。廿日市市と一緒に宮島ターミナルでデジタル広告の視聴率を測る実証実験をしています。これまではどれだけの人に見られているかデータ化するのが難しかったのが、この技術があれば広告主に還元できる。駐車場などで車のナンバーも自動で記録できるので、普及すれば浮いた人件費を他の事業に振り分けられます。
それにどんなに世の中が変わっても「衣食住」のニーズって不変なはずです。生活を少しだけ心地よくするようなサービスを考えて、誰かの足元を照らしたい。衣食住にマーケティングやITを掛け合わせるようなイメージです。
小さな化学反応をいくつも起こす努力を続ければ、懐中電灯くらいの小さな光が、いつの間にか大きな光になると信じています。