【動画】変容する国際関係-アメリカ合衆国外交とイスラエル【公開討論会】若い世代のマインド、技術立国はムリ??
見出し画像の説明
まず、見出し画像の説明をしよう。これは2000年から2020年までの米大学の日本人留学生の推移である。驚いたことに、この20年間で、5万人に近かった留学生は1万人にまで減っている!しかも、現状で他国と比べると中国とは95倍、韓国とは4倍と開きがある!!つまり、中国は米国に95万人、韓国は4万人の留学生を送り出しているのである。
このことを知り得た経緯を述べるとともに、きっかけとなった公開討論会の内容と、さらにそこから学んだことについて書いていくこととする。
伊藤貫氏が公開討論会に参加
伊藤貫氏が公開討論会に出席している動画をYouTube上に見つけた。
早速視聴すると、もちろん、伊藤氏ほか討論参加者の濃い議論もさることながら、ついていたコメントがすごかった。コメントをつけた方の経歴もすごければ、内容も、すごい!!
本記事は、そのコメントをみなさんに知っていただきたく、書いている次第である。討論会を視聴しなくても、本コメントのみを読んでも十分に凄さをご理解いただけると思う。そしてこのコメントをきっかけに、米大学に留学する日本人留学生の推移を調べてみた。
とはいえ、討論会本編も充実している。伊藤貫氏の意見が聞ける貴重な機会だし、私にとっては村主先生の意見も新しいことだった。なので、最後まで読んでいただければうれしく思います。
U野研二教授(ペンシルバニア州立大学)による分析
下記は内容の見出しである。内容は長くないのでご自身でご確認ください。
自己紹介とアメリカの強さ
現在米国州立大電気工学科 教授
日本の将来の技術は?
日本が周回遅れの技術はやめる(技術立国はムリ)
日本の技術はなぜ進まない?
「若い世代のパッションがない」から
なぜ「日本の若いZ世代のパッションがない」?
日本で満足してしまっている。団塊世代のハングリー精神はない。
というわけで、表題の討論会から少しテーマが外れるが、米国内日本人留学生の人数の推移などを、少しばかり見てみよう。U野教授によると、日本人の留学生は激減しているとのことだったので。その後、討論会の内容に戻ります。
米国内日本人留学生の人数の推移
U野教授は日本人留学生がそもそも少ないことを嘆いておられる。そこで、米国内日本人留学生の人数の推移のグラフを掲載する。
上記グラフは2000年からの統計だ。うわー、目も当てられないほどの急落だ。このグラフの筆者は2006年から2010年の大幅減少をTOEFLにスピーキングが導入されたからでは?と言っているが、2000年から2005年までの急落、そして2011年から2019年あたりまで減少が小休止していることを説明できていない。
米国国際教育研究所(IIE)「Open Door」の統計は2010年から2022年までが簡単に取得できるようになっていたので、それを少しばかりのぞいてみると…2010年のトップ3は1. 中国、2. インド、3. 韓国、2022年のトップ3も変わらず。日本の順位と人数も並記してみよう(米国国際教育研究所(IIE)「Open Door」の統計pdf版)。
1位中国 2010年約13万人→2022年約95万人 7.3倍
2位インド 2010年約10万人→2022年約20万人 2倍
3位韓国 2010年約 7万人→2022年約 4万人 0.57倍
日本 2010年 6位約 2万人→2022年 11位約 1万人 0.5倍
日本と韓国はコロナ騒ぎから人数が回復していないこともあるかもしれない。が、中国との差は現状95倍、韓国との差も4倍あるのである!!
U野教授が言われるように、若い世代のマインドは他国に比べてすっかり内向きなのだ。私はこれは『自虐史観』が蔓延したからだと思う。毎日モラハラされているようなものなのだ。自信喪失と意欲喪失。
それからこれは、逆説的ではあるが、「日本の住みやすさ」「日本の居心地の良さ」も関係があるのかもしれない。察し合う文化の中で傷つかずに生活できる。そういう居心地の良さの中に安住したいのかもしれない。若い世代は。
これをいいとか、悪いとか、今の私には判断できない。ただ、世界のトレンドからはかなり外れていて、工学系の第一人者の教授が「日本はもう技術立国はできない」と言っているという事実がある。
いや、公開討論会の中で、今後、国際情勢は激変すると述べられている。日本は「米国依存から脱却し各国との新たな関係構築が必要」である、と。そういう国際情勢が変わっていく中にあって、若い人々が内向きのマインドで、いいのだろうか?若い人が積極的に海外にも目を向けていく。特に若いうちに学ぶ機会を大人たち、国や企業などが積極的に提供していくことをしなくていいのだろうか?
ここまでで、本記事でお伝えしたいことの半分はお伝えした。後の半分は、小項目「姉川:外交、戦争、イスラエル、米国。こういう話が総裁選では出てこない。なぜか?」以降にある。もちろんその他の部分も充実している。ショートカットご希望の方は目次をご活用ください。
【公開討論会】変容する国際関係-アメリカ合衆国外交とイスラエル
せっかくなので、動画本編についても少し。討論会の最後の方での村主先生の発言が私にとっては新しいことだった。これは個人間での深い理解と洞察を国家間での関係に応用しようという取り組みに見えた。
姉川知史氏による基調講演
この討論会に参加するにあたって、伊藤貫氏は主催者の姉川知史名商大教授にテーマを投げかけていた。
今後の国際関係、国際経済の変化を検討せよ
それに対する姉川氏の回答は(命題という形をとっている)、下記のスクショの通り。
要約すれば、米国主導のグローバリゼーションは終焉を迎え、インド、中国などの影響力が大きくなり、日本は役割低下が続く。今後は米国依存から脱却し各国との新たな関係構築が必要、ということだ。
ま、ちょっと凡庸だよね。ご自身で言っておられる通り。私ですら、そう思う(姉川先生ゴメンなさい💦)。
この伊藤貫氏の「今後の国際関係、国際経済の変化を検討せよ」というテーマについて、本動画のコメント欄に、大阪大学の先生も回答を寄せていた。素人でも納得できる回答がコンパクトにまとめてあって読みやすかった。ご興味のある方は直接動画に当たって欲しい。
討論会 姉川知史+村主道美+伊藤貫
姉川知史氏は現在名古屋商科大学教授,慶應義塾大学非常勤講師。1998-2020年は慶應大学教授だった。
村主道美氏は学習院大学法学部教授。
伊藤貫氏は評論家、国際政治・米国金融アナリスト。ワシントン在住。
以下、討論の要約をさらに編纂して記述する。正確なところは動画を見てください。言い回しなども変更しているのでご了承ください。
伊藤:日本は次の30年間で経済規模で世界第4位を維持できるか?
姉川:人口減少のためムリだろう。インド、中国、アメリカには叶わない。インドネシアが来るかもしれない。
伊藤:日本は技術リーダーシップで4〜5位を維持できるか?
姉川:長期的な維持はムリだろう。日本の工学系、生命科学系関係者は概ねそう予測しているようだ。
村主:17〜18年前は、日米はGDP1位と2位だから一番大事な同盟関係と言ってきた。今は1位と4位。今後も同じであり得るのか?それは将来の政治家が考えればいい。
村主:GDPが4位でも技術がズバ抜けることはあり得るのか?
姉川:生命科学、医療機器、医薬品の研究で遅れつつある。AI、ITも遅れている。
伊藤:遅れは人口的な要素が大きいのか、日本人の質が変わってきたのか?
姉川:人口的な要素が大きい。人口が増えないので、GDPも減るだろう。倫理・道徳や意欲に関して、今の日本人は勤労意識を強調していない。教育に対するモチベーションが弱くなっている。
伊藤:今後ドル基軸通貨体制はどのように推移するか?
伊藤:…というのもBRICSは執念のようにドル基軸体制を壊したいと挑み、対する米は絶対に守りたい。
姉川:日米はドル基軸通貨体制を続けたい。EUはユーロ経済圏を作り脱ドルを図るかと思いきや、例えばドイツは必ずしもそうではないようだ。中国は脱ドル傾向。ウ露戦争での露への経済制裁で露の財産を没収した。今後深刻な影響が出るだろう。
伊藤:中国は2040〜2050年までに経済だけでなく、科学技術と軍事力でNO1になろうとしている。そのためにドル基軸通貨体制を壊したい。アジア経済圏は半分は人民元決済になるだろう。他地域ではどうだろうか?わからない。
姉川:米国人はドル基軸通貨体制の今後についてどう考えているか?
伊藤:ドル基軸通貨体制が壊れるわけない、と言っている。もし「壊れる」と言ってしまえばそれが自己予言的になってしまう。
姉川:では、ドイツや中国の経済学者はドル基軸通貨体制の今後をどう考えているか?
伊藤:ドイツは面白い立場にある。ウ露戦争でウに加担して大損した。ノルドストリームを破壊されてエネルギー価格が4倍になった。経済が全部悪くなった。東ドイツの連中は「米の味方をするからこうなるんだ」「対米従属はやめろ」と言っている。AFDなどの政党が支持されている。中立国ドイツを標榜している。経済体制も、地政学的な国際政治体制もドイツが中立国になったら全部変わる。今後3年間、ドイツがどう出るか、すごく面白い。(注:伊藤貫氏はこの点についてもう少し突っ込んだ議論を『日独が放棄した重要な役割』YouTube番組で行っている)
姉川:中東はどうか?
伊藤:イスラエル問題に関しては村主先生に100%同意。
姉川:もう明るい展望がない。大規模な戦争になりかねない。
伊藤:米国は不甲斐ない。米国人、国務省、政治家がイスラエルロビーに奴隷のように服従している。道徳的な尊厳を失っている。
村主:私は必ずしもそう思っていない。世界中で今のイスラエルを変えさせる可能性があるのは誰か?米ユダヤ人の歴史は欧州ユダヤ人の歴史と背負ってきたものが相当違う。米ユダヤ人は欧州ユダヤ人ほど迫害を受けてきた経験がない。比較的社会に同化したユダヤ人も多い。彼らが今のイスラエルを訪ねてみたら、「我々が願っていたイスラエルではない」と主張し始めるのではないか?特に若い世代は。そのほか、グローバルな点で考えてみるとアジアは反ユダヤ的と呼ばれるような批判に屈しないのでは?同時にイスラエルがサウジに働きかけたように、実利の面で呼びかければインドや新興国はパレスチナ国家よりイスラエルが仲間として適切であると考える国家が出てくるかも。ヨーロッパでは悲観的。ドイツのように反ユダヤ的と言われたらそれ以上ものの言えない国家も多い。希望は持てない。ただ長い「終わりの始まり」が始まったのではと思う。
姉川:聴衆から事前に「今回の登壇者はみな反米ではないか?」とあるが。
伊藤:米国を批判すると「反米ですね」「親米でなければ日本で生きていけない」と言われる。典型的な保守エリート。視野が狭いし、単純で底が浅い。道徳的誠実さ、知的誠実さともに欠けている。
姉川:外交、戦争、イスラエル、米国。こういう話が総裁選では出てこない。なぜか?
伊藤:過去79年間、まともな政治家は重光葵、石橋湛山、大平さん。後の保守は何も考えていない。今の自民党は。
村主:反米、反イスラエルを考える上では、右のような視点が重要なのでは、と思う。米国人が一番尊重するような米国人の価値観から見ると、今の米国人はどう見えるか?今の日本はどう見えるか?日米同盟はどう見えるか?そういう見方を日本人がすることに意味がある。日本人は日米同盟を強調する中で「我々は価値観を共有する」という。本来であれば、米国の一番いい部分を日本は理解できている、ということだが、その価値観が実利に置き換えられていることが、残念だ。米は奴隷制を、長い間かけて抵抗運動を通して終わらせた。差別が残ったがそれも長い時間をかけて終わらせた。ある意味、人権に対して著しく敏感である。人権に関して革命的に闘争し続けるという政治的な文化を持っていた。そこから見ると日米関係や日米同盟はだいぶ違ったものになっている。一番いい米国の価値観を持った人は今の日米関係に失望する。反日、反米という単純なものの見方ではなく、その国の持っている一番いいもの、それを使うとどう判断できるのか、ということが役立つのでは?
姉川:日本の政治リーダーシップに関しては?
村主:対米従属が問題視されているが、私の分野で見ると、日本はミャンマーに対して独自外交を開拓したことになっているが、ロヒンギャ問題もクーデターも予見できなかった。独自路線はマイナスに出ている。残念だが、従米外交の方が良かった。そういう場合もある。
上記の要約も今後大幅に簡略化する可能性がある。下記には上記のものをそのまま載せておく予定。
終わりに
さすが学者さんの討論会。刺激が多い。私にとって有意義だったのは、U野教授のコメントもさることながら、村主先生の「相手が自分の中で一番良質だと思っているところから、相手を見る」という言葉もなかなかに刺激的だった。それって本当の友だちが持ち得る視点だよね。少なくともお題目のような「『自由、民主主義、人権』という価値観の共有」よりもずっと実があるのではないか?
少しズレるかもしれないけれど、昔、コミュニケーションの方法として、NVC(非暴力コミュニケーション)というものを学んだことがあった。ざっと説明すると、「比較」や「評価」「決めつけ」をすると、争いに発展しやすい。そこから抜け出してコミュケーションをとる方法だ。アマゾンの『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』という本の概要によると、
評価をまじえず、行動を「観察」する
観察したことに対して抱いている「感情」を突きとめる
そうした感情を生み出している要因、「何を必要としているのか」を明らかにする
それを具体的な行動として「要求」する
ということを基本としている。ちょっと内省的で、なかなか実生活でこれを実践するのは難しい。上級者はさらに、相手の要求を推測し、自分の要求とすり合わせることをする。そのとき、肝心なのは、相手が持っているであろうポジティブで普遍的な『質』に照準を合わせることだ。要求の奥には、ポジティブで普遍的な『質』がある(確かそうだったはず)。例えば、『美しさ』とか『誠実さ』とか。『安らぎ』とか。「相手が自分の中で一番良質だと思っているところ」はポジティブで普遍的な『質』と重なる。上の米国の例で言えば、「公平さ」を求める「粘り強さ」ではないだろうか?うちに抱くポジティブで普遍的な『質』を相手が理解してくれている、と思えば、自ずと胸襟が開きやすくなるのではないだろうか?相手が持っていると思っているポジティブで普遍的な『質』から自分を見ることこそが、相手への理解=他者理解につながる。
この考え方が国同士の関係にも応用できる!その可能性を村主先生が見せてくれたような気がした。村主先生すごいなぁ‼️
「公平さ」を求める「粘り強さ」から日米関係や日本を見ると、全然公平さはないし、日本は「公平さ」を求める「粘り強さ」なんか持っていない。すぐ尻尾を振るポチにすぎない…。
もちろん、この議論には別の視点もある。「奴隷解放?そりゃ北軍のプロパガンダだよ」という南部の視点だ(私はジェイソン・モーガン著『私はなぜ靖国神社で頭を垂れるのか』で知った)。だが、南部の人であっても「『「公平さ」を求める「粘り強さ」』はアメリカ文化の一部ですね」と言われれば「そうだ」と応えるに違いない…。あるいは「かつてはそうだったが今は失われた」と応えるか…。とにかく、ポジティブで普遍的な『質』にはそういうパワーがある。
こうした個人間の関係性構築と国家間の関係構築、若い人たちに積極的に海外にも学ぶ機会を提供していくこと。若い人たち自身に、自信を持ち、学ぶ意欲を持ってもらうこと。…そんなふうな課題が見えてきたような印象を持った。
というわけで、大変興味深い公開討論会でした。あ、主催者はフォーラム(=公開討論会)と呼んでいます。
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
Grand Design by Japan Forum (第2期:2020-現在)
「Grand Design by Japan Forum」の一環として開かれた公開討論会。
下記3つの動画に分かれて記録されている。
「Grand Design by Japan」とは
「慶應義塾大学大学院経営管理研究科・ビジネススクールは,慶應義塾創立150年記念未来先導基金プログラムとして,日本のGrand Design 策定を行う新しいプロジェクト型教育を実施します」。
とのこと。
基調講演1:伊藤貫
基調講演2:村主道美
基調講演3:姉川知史と公開討論会
慶應大学のグランドデザイン研究
米国留学する日本人の推移
米国留学総数
非暴力コミュニケーション
伊藤貫の著作
村主道美の著作
姉川知史の著作
姉川先生は翻訳はなさっているがご自身の著作は多くないようである。