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【映画】ルックバック【感想】

作品情報

  • タイトル:劇場アニメ「ルックバック」

  • 監督 ‏ : ‎ 押山清高

  • 原作:藤本タツキ

  • 時間 ‏ : ‎58分

  • 公開日:2024年6月28日

  • 出演 ‏ : ‎ 河合優実、吉田美月喜ほか

しばらくプロフィールとして表示します

 しばらくの間、この記事をプロフィールとして表示します。
 なんか自分なりに自分を深掘りできて、そして世界と繋がりが持てるように戻ってきた感覚があるからです。
 私を知ってもらうためによいかな〜と思って。
 そういう役割を終えたな〜と思ったら、また別な記事をプロフィールにします。

 別ルートから読んでくださっている方、すみません、この項はスルーして記事本文をご堪能くださいませ😀

2024/08/22 虹雲猫


神さまを見出す物語

夢中になれるものがある幸せと苦悩

 ふたりの少女が小学校の学年新聞の4コマ漫画を軸に、絡み合い、すれ違うところから物語が始まっていく。そう、それが序章なの。序章なのに、すでに起承転結があって、すでにここで、泣ける。

 才能があって、努力があって、友情があって、幸せな結果がともなう。世界が広がり、もっともっと努力があり、もっともっと幸せがあり…そうして別れがある。二人は別の道を行くことになる。これはまだ、物語の半分。

 それから絶望があって…救いがある。

 そんなお話。

 漫画の世界で認められるって、特別なこと。若くして認められる。一人でなく、二人で。喜びも2倍、だ。勘違いヤローになる可能性はいつでも、ある。でもね、才能なくたって、勘違いヤローになるんだよ。
 そういうテーマが、底の方でゆっくりとうずを巻いている。

 ここから先は、ネタバレになるので、避けたい方は離脱をどうぞ〜。
 ご興味があれば、映画館へGO! それから原作も面白いかも(私は読んでいないのですが💦)。





がっつりネタバレ

神様からの手紙

 不登校児 京本の部屋の前で、藤野が見つける4コマ漫画のペラ紙。あるときは枠のみ。あるときは以前自分が書いたもの。絶望した藤野がそれを破くと、断片が京本の部屋に入っていき、そして最後に、まったく違う原稿が、まるで京本からの返事のように、返ってくる。

あなたは死んだのに私はなぜ生きているんだろう?

 そんな普遍的な問いを大股おおまたまたいで、答えのないまま、人は生きていかねばならない。

 藤野には返ってきた。答えが。少なくとも答えのヒントが。

 それは幸せなことだ。すべてが癒やされたわけではないとしても。

 藤野はまた前を向いて歩いていく。

神さまからの手紙が何通も!:小学生時代〜高校卒業まで

 不登校児の京本の4コマ漫画。ちょっとばかり勘違いヤローになりかかっていた小学校4年生の藤野に届いた神さまからの一撃(=手紙)だ。いやいや、小4なら、勘違いヤローになるんだよ、なっていいんだよ。
 でも、藤野は真正面から受け止めた。「こいつには敵わない」「どうしたら絵が上手くなるんだろう?」
 本も何冊も買って、スケッチブック何冊分もデッサンを描いて、努力を重ねる。だけど…友だちには理解されない。家族は見守ってはくれているけど、理解までは、いかない。2年頑張ったけど、隣の席の男子の評価は「京本の絵と比べると、なんか藤野のはフツー」。これもまた、神さまからの一撃(=手紙)。
 そうして藤野は漫画を止める。漫画をやめても、リア充の藤野にはやることが山ほどある。友だち付き合い、習い事、家族での団欒…。そして、卒業式を迎える。
 担任が「京本のところに卒業証書を届けてやってくれ」という。担任は多分京本が藤野に憧れている気持ちを知っているのだろう。でも大人はそんなこと伝えやしない。いき過ぎたおせっかいは焼かないのが大人だ。

 藤野は不登校児 京本の部屋の前で、4コマ漫画の白紙の原稿用紙を見つける。思わず京本を主題にした漫画を描く藤野。それはね、京本からしたら、神さまからの一撃(=手紙)なんだよ。

 だから、藤野と京本はお互いに神さまからの一撃(=手紙)を送り合う関係なんだ。

 部屋から出れなかった京本は藤野の原稿を見て、思わず叫ぶ。「藤野先生」と。そして急いで部屋から出て、藤野を追いかけ、自分がどれほど漫画家としての藤野を尊敬しているか、藤野の影響下で漫画を描き始めたか、無我夢中で伝える。それから…「なんで漫画をやめたのか?」と問う。
 勘違いヤロー気質、ジャイアン気質を持つ、逆にいえば京本に負けず劣らずシャイな藤野は「大作の構想を練っているから。頭の中でだけど」と強がる。「あなたに負けたから漫画をやめた」なんて、いえないんだ。

 それから二人で漫画を作っていく幸せな時間が続くのだけど、京本は自分の中に『やりたいこと』を見つける。それはね、京本が自分の運命=神を見つけた瞬間。ううん。自分の運命に沿って生きること=自分の神を見出したことを、それまで神さまだと思っていた藤野に告げる瞬間だ。

 振り返れルックバックば、神さま=京本がいる。そういう幸せな時間は終わった(藤野)。手を引っ張ってくれた神さま=藤野の手を離す。自分の中に自身の希望を見出したから(京本)。

 藤野からしたら、この告白もまた、神さまからの一撃(=手紙)だ。だけど、今度は、真正面から受け止めることはできない。そんな度量は、その時の藤野には、ない。だから…

 藤野は藤野でね、酷いことを言うのだけど、もう、ただ言っているだけ、強がっているだけ、なのは観客はわかるし、強い決意を持った京本には届かないし、響かない。神さまからの手紙に、人間レベルの嫉妬や人間レベルの強がりや言葉で応えたって、そんなものはどこにもかすりやしない。人生を賭けて、人生を懸けて返事をしないと、神さまからは何も返ってこない。

(しかしながら、ここでもまた果てしなく勘違いするヤローがいることをのちに思い知らされる)…。

絶望から希望へ

 そうしてそれぞれが大人になって、別々の道を進む。いろいろあって、藤野はまた、今度は主人のいない京本の部屋の前に戻ってくる。

 藤野を絶望に突き落としたのは、どうしようもない勘違いヤローだ。そんなふうに才能と勘違いヤローというテーマがこの物語の奥には、ある。

 絶望した藤野はそこで、あの原稿を見つける。小学校の卒業式の日に描いたあの4コマ漫画。「私がこんなもの描いたせいだ!」藤野は自分を責め、原稿を破く。すると断片が京本の部屋に入っていき…時空を飛び越え、小学校の卒業式の日の京本へと、届く。時空が分岐し、違う現実が始まる。そうして…今度は大人になった京本の手によって描かれる4コマ漫画へと結実し…まるで京本からの返事のように、絶望している藤野の元へと返ってくる。それを神さまからの手紙と言わずして、なんと呼ぼう?その4コマ漫画のテイストは藤野のものそっくりだ。

 藤野はお守りとしてその漫画を持ち帰り、自分の現実を歩んでいく。

追記:2024/08/07
 お守りの4コマ漫画の最終コマ。背中にツルハシが刺さっていても意に介さずクールに立ち去る藤野。強がっているのか、本当に気がついていないのか。でも、その背中を見ている京本は気づいている。藤野の痛みを。誰が気づかなくても、藤野自身が気づかなくても京本は理解している。

 「あなたが世の中の不条理に傷ついていること、誰がわからなくても私はわかってる

 でも、あくまでクールで強がりでおとぼけ藤野がなんだかユーモラス。笑える。だから救いがある。救いになる。

 藤野の背中、ツルハシが刺さった背中を見つめる京本の視線は優しく、温かい。そしてなんとも心強い。

 不条理に苦しみ、死した京本が、死してなお、藤野を応援している。気持ちは藤野にあったことを4コマ漫画が伝える。この不条理。不条理そのもの。

 だが…同時に温かさも見出してしまうんだ。「私の分も生きて」。突き刺さる温かさ。不条理だよね…。

 こうした全体が、藤野のお守り。こうした全体が神さまからの手紙メッセージ。前に進むための。藤野の名前『歩』の通りに歩んでいく。京本の眼差しを胸に抱く藤野の歩みは力強い。不条理を抱え、吹っ飛ばし、乗り越える力強さ。淡々と漫画を描き続ける藤野。自分のすべきことをし続ける。

 最終シーン。漫画家 藤野の部屋は京本の部屋のオマージュか、はたまた対照形コントラストか。でも、多分、そんなちゃちい「考え」なんか超えている。パソコンの向こうに見える景色は藤野の生きる世界そのものだ。京本の部屋の向こうには見渡す限りの田んぼを含む豊かな自然だったのだが。そして…藤野は世界と自分とを隔てている巨大な窓に京本の4コマ漫画を貼る。
 それはいましめのようにも護符のようにも結界のようにも、あるいは見果てぬ道標のようにも見える。うん。藤野は生きるんだ。選んだ運命とともに。今はね、漫画家として。

 こうした全体を見て、観客である私たちも、何がしかの力をもらう。

私たちの背中にも不条理のツルハシがガッツリ刺さっているのではないか?そして自分にとっての誰か、京本に当たるような人が、それをひっくるめて「わかっているよ」「生きなさい」と言ってくれているのではないか?

 そして深く、深く深く、言葉以前の場所から「うん(ありがとう)」って思うんだ。そして藤野に「よかったね」と。

 カタルシスがたくさんある。素晴らしい映画です。

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 こんな解説めいた感想は、まったくの蛇足で、いらないものだ。だけど、書かずにはいられなかった。もし読んでくださった方がいたとしたら、本当にありがとうございます。感謝します。






引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。


おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

原作

原作者 藤本タツキの漫画

連載の最新刊

セット買もできる

短編集もある

これも面白いらしい



追記:2024/08/07

 相互フォローのnoter popoさんが、この記事を紹介してくださいました。
『クリエイター応援歌』という視点で映画『ルックバック』の解題をされています。私とは、また別の視点ですごく興味深いです〜。
 popoさん、ありがとう〜。


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