見出し画像

『弁論』/PSYCHOSIS with Dowser 音像空間劇「JINMENSO -人面疽-」(1/17週のよかったもの)

「毎週noteを書きます」「来週は短くします」と先週お伝えしていましたが、先週より長いです。冷や汗をかいています。


●こたけ正義感 『弁論』

弁護士芸人こたけ正義感さんの60分間スタンダップ・コメディ。12月にやっていたのを1月15日まで無料公開してくださっていた……!
弁護士とはなんぞや、という内容をさまざまな視点からおもしろおかしくわかりやすくお話したかと思えば、後半それがすべて、袴田事件につながっていく……!
冤罪という、対岸の火事だとおもってしまいがちなものを、自分が当事者になる、また「冤罪を生み出す側」になる可能性を秘めている、という点を、疑わしきは被告人の利益にという言葉の意味を、みているひとに実感させるつくり。こたけ正義感といえばのあの疲れそうなツッコミも交えながらの1時間ノンストップで話し続けて、おもしろいのって、すご。

ちゆちゃんは某大学の法学部をでているのですが、法学部に入った理由が、それこそ「今後法律に触れる機会があるかわからないから」でした。
実際触れる機会がまったくないとはいわないけど、自分が仕事やら生活やらで関わる範疇に限ることが多いとおもう。法律・判例に対する考え方だったり、ディベートだったりは、法学部に入らない限り、やらずにさくっとしぬだろうな……というのが発端。(さくっとなわりに、やりたいことをやろうとしており、矛盾しているね)

『弁論』で説明されている、法解釈だったりなんだったりって、ピンポイントに「法律の勉強をしよう、と思わない限り、あまりやる機会がないこと」だと思うので、
それを法学部に入学せずとも体験できること、また法学部志望だったり、法学部に入ってすぐなどの人があらためて基本を再確認できること、ってすごく大切なことだと思います。
法学部って何やってんの?六法読むの?というように思ってる人にも伝わりやすい。
いまの法学部生には、こたけ正義感さんがいるって、いいことだな……とおもったのでした。
(ちなみに、先輩には『逆転裁判が好きで法学部に入った』という方がいました。あなたの法学部にもいると思います。法学部と逆転裁判とこたけ正義感のトライアングル)

● PSYCHOSIS with Dowser 音像空間劇「JINMENSO -人面疽-」

週末のおたのしみでした。
オルタナ系演劇部(オルタナ系!)PSYCHOSISと、
東京芸術大学大学院映像研究科の教授であり、ちょーかっこいい音楽をつくるDowser・長嶌寛幸さんのタッグ。そして最強立体音響システムでおなじみのRITTOR BASE。
PSYCHOSIS自体は高取英・寺山修司の戯曲を中心に演劇公演を行っていて、
PSYCHOSIS with Dowserでは夢野久作『あやかしの鼓』、阿部定調書の朗読など、PSYCHOSISよりも湿度高めに艶やかに朗読をおこなっている、気がする。

『音像空間劇』という、演劇でもなければ普通の朗読劇でもない、ここでしかできない経験

「言葉を発する人たち」は、必ずステージの3ヶ所に配置されたマイクの前に向かい、基本的には(※)台本を手にその中に書いていることを読む。読んでいるときは、その場から一歩も動かない。(マイクから離れない)
それでは、全く動きがないのか?というと、まったくそんなことはない。
いま言葉を発している登場人物の行動を、うごきだけで表現していく人(身体と精神が別個で存在しているようでふしぎなきもちになる)、
マイクに入るまでの動き、はけるまでの動き、
乞食の青年・貞の、菖蒲太夫への懸想、
『刺青』のシーン(いわゆる御茶ノ水プロレスとそこへ向かう道のり)と、
言葉以外のところで伝えるためのツールとしての「動き」がたくさん入ってきます。
また、それらを支え、導き、恐ろしさや愛憎を圧倒的に体感させていく長嶌さんの音楽と、それをどこまでも立体的に表現していくRITTOR BASEの環境。
言葉だけで細かく伝えていくのが一般的な朗読劇だとして、これはまったくそうではない。でも、マイクの前にいることを前提としているから、演劇でもない。
PSYCHOSIS with Dowser が提示する『音像空間劇』が、既存の表現にとらわれないものだということがわかります。

何が「うらみ」を生み出したのか(以降ネタバレぎみなので、配信を観てください)

まだの人は「配信視聴券」を買ってください。
2,200円で、1/30(木)まで視聴可能。
配信ならではの演出が散りばめられています(文字のとこかっこいい!!)し、4カメ(うち一つはライヴ感のあるハンディカメラ!)、でめっちゃいろんな場面をおさえている。バイノーラルなので、臨場感たっぷり。

PSYCHOSIS with Dowser 音像空間劇「JINMENSO -人面疽-」は、こんなお話。

アメリカで成功し帰国した女優・歌川百合枝は、自分が主演したとされる『執念』という作品が各地の映画館で上映され、その周囲で奇妙な噂が広まっていると映画監督・中田潤一郎から聞かされる。『執念』に出演した記憶のない百合枝は真相を確かめるために中田と共にフィルムを見始めるが……。

PSYCHOSIS with Dowser 音像空間劇「JINMENSO-人面疽-」チケットページよりhttps://jinmenso.peatix.com/

この『執念』という映画に出てくるのが、乞食の青年・貞ですね。
ろくに面識のない人に惚れ、男として生まれたからには情を受けたいと思い、
そのために自己満足的な尺八を吹き、(鳥さんの求愛行動っぽい)、
「あの方のためなら命を捨てても良い」と無償の愛を見せるかと思いきや、「私のことを少しでも可哀想だと思うのであれば、一夜、あの人をじぶんの好きなようにさせてほしい」と、対象となる人の権利も相手の出した条件もガン無視して物事を進めようとする。
これを身勝手と言わずして何と言おうか。

のませたい条件のために、それ以外のことは「いやです」で通し、すぐに自死を匂わせる。
(なんかでも、これ書いてたら、「あの人はもう他の人のものになってしまった」というあきらめ・ヤケクソがありそうな気もしてきました。その人は元からあなたのものではないし、人はそもそもひとの所有物にはならないが……。おそれかれ早かれ、彼は身投げしていたのかもしれません。)

なんやかんやあり、
貞の出した条件は、「当初の予定と変更になってしまったこと」「そもそも、取引相手にその気がなかったこと」の2点により、なかったことにされてしまいます。
このことにより、貞は激おこ。意中の相手・菖蒲太夫にも手厳しいことを言われてしまい、なんやかんやあって海に身を……。

民法415条、債務不履行ですね。
できると思っていたことができなかったのは、ちょっとかわいそうです。
でも、元から「できる」と思っていた理由は、あなたが散々ごねて、相手が渋々のんだからではないですか。
それ、元から厳しかったんじゃないですか。

さて、貞さんはこれのどこで激おこし、人面疽になってしまったのでしょう。
彼の「うらみ」の理由はどこにあったのでしょう。
とりあえず、「うらむ」を調べます。

うら・む【恨む/▽怨む/▽憾む】
読み方:うらむ
[動マ五(四)]
1 ひどい仕打ちをした相手を憎く思う気持ちをもちつづける。「冷たい態度を—・む」
2 自分の思うようにならない状況に不満や悲しみを持ちつづける。「世の中を—・む」
3 (憾む)望みどおりにならず、残念に思う。「機会を逸したことが—・まれる」

Weblio辞書ーデジタル大辞泉 うら・むhttps://www.weblio.jp/content/%E3%81%86%E3%82%89%E3%82%80


多分3ではないですね。「相手のせいで」恨む・「自分の思うようにいかなかった」怨む。
彼は、自分がごねて相手に条件を飲ませた、ということにも思い当たらずに「あの人を一夜好きにできるはずだったのに、できなかった」と怨み、
そうさせてくれなかったトーマス青塚と、また(貞にとって)ひどい言葉を投げかけてきた「あの方」のふたりを、ひどい仕打ちをした人だと恨む。
じぶんの思った通りにならなかった、と人のせいにする。
ビジネス的な話をするときに、「褒めるときはヒトを主語に、注意をするときはモノを主語にする」というような話がたまーに出てきますが、これの真逆ですね。上司や同僚にいると、困りますね。

ところでちゆちゃんは妖怪好きですが、特に好きな妖怪として、「手負蛇」というのがあります。

蛇は執念深い生き物なので、生殺しにすると、その報いが自身に返ってくる。でも子供などは無念無想(仏教的に、邪念がなく無我の境地に入ること、をさしますが、この場では「邪気がない」ことがカギなのかと思います)なので特に返ってこない。生殺しにしてしまったことを恐ろしい、と思う人や、悪念がある人に返ってくるのである……というお話です。
わたしは、手負蛇の「人間がよくない」というエピソードがかなり好きなのですが(妖怪の話、というか各地の奇談ってそういうのが多いし、「手負蛇」と同じく竹原春泉『絵本百物語』に載っている「塩の長司」とかも)
同時に、「執念深い生き物である」ことの強さに惹かれます。
「うらみ」を原動力とする人たちの理不尽なまでの強さ、影響力。
最初は「誰か」特定であったはずなのに、関連する人にもしない人にも伝播していく負の感情。勝てんやろ、と感じます。

でも、「人面疽」の中で、貞の「うらみ」は貞だけによるものだったでしょうか。
菖蒲太夫とトーマス青塚は、「無念無想」だったでしょうか。
騙した側であるということ、「騙してしまった」ことを恐れている人、でもあると思います。

ただ、二人にもその片鱗があったとはいえ、毎回世界がこうであるとは限らない。
貞には、もっと「無差別」なものと、手負蛇のようにいかない身勝手さを感じます。話を聞かないところ、そもそも相手のことを慮らないところ。
驚くほど同情の余地がない。けど、随所に健気さや無邪気さをも感じるところに、うっすらと人間らしさを見出してしまいます。ニュースで聞こえる「あんなことをする人だとは思わなかった」みたいな。なんか、このような人がはっぴーにやわらかくなることを、祈ります。

おはなしとおはなしが、溶け合う

貞は、映画「執念」の中で、菖蒲太夫の肉体に食い入る(これを「人面疽宣言」とします)とかぼやぼや言いながら海に身を投げて行ったあと、
会場には赤い包帯のような長細い布が巻かれていき、
また、映画監督・中田潤一郎と女優・歌川百合枝が話すシーンや、「刺青」のシーンに現れ、ときには突っ立っているだけ、ときには朗読をしている人の頭を押し除けてマイクを奪い、言葉を言う、ということを何度もやります。
映画の中の「人面疽」が、貞が、映画を通して様々なひとに影響し始めたことがわかる演出。中田や清吉らの膝に顔があらわれて、言葉を発していっているという状況。いかにもホラーにある光景ですが、映像作品ではなく演劇的な形で見れるとは……!

また、最後に百合枝は「谷崎潤一郎先生」へのスピーチを行います。これは多分もう、「執念」を観たことで「何かが変わって」しまった百合枝です。(中田潤一郎さんは初め「白日夢」の映画を作る予定だったのに、「人面疽」作ることにしちゃってない……?やばいよやばいよ……)
百合枝は、谷崎潤一郎のさまざまな作品の中で、「これから先も、私はヒロインになっていくのですね」と述べます。
谷崎潤一郎のさまざまな作品の中で、フェティシズムの矛先を向けられている人たちである、と。
それとはなんとなく相対的に、百合枝とそっくりな「執念」の登場人物・「菖蒲太夫」は、清吉に刺青を彫られる「菖蒲」とリンクし、さまざまな男性が「肥料になっていく」、狂わせる存在として扱われます。
「肥料」と「ヒロイン」。
男性との向きあいかたや、そのように仕立て上げられている点の近さ、関係性の矢印が真逆っぽいところ。谷崎潤一郎の複数作品を取り込んで俯瞰的に観た作りが、おもしろ〜、と思います。
※先程、『基本的には台本を持っている』と述べましたが、百合枝のスピーチのシーンでは台本は使われていません。我々に語りかけているという印象が色濃く残ります。

ところで映画「執念」って……

この公演では、「白日夢」の話・また中田さんの映画の構想の話をすることで、『執念』の映画は、麻酔の昏睡中に夢遊病的に起きていたことなのかも、と思わせるような作りで(『刺青』の麻酔の描写も取り入れられていたし)余韻があったのがよかったんですけど!
「自分は出たつもりはないが、確かにそっくりな人物がいる」って、AIの技術発達とともに問題になってきた、ディープフェイク問題と重なるよな……と思ってたら見つけたこの評論、めっちゃ面白くないですか?

「笛吹きの乞食」役の青年も、おそらく熱狂的な歌川百合枝ファンなのだろう。彼女に対して叶わぬ想いを抱き、その作品を収集できるだけ収集し、細かく切って自分好みのストーリーに編集し、自ら焼き込み技術まで習得して、自分の顔を、百合枝の肉体の中で最も魅力的な部分、足の膝に刻印したのである。

花の絵 谷崎潤一郎 『人面疽』について http://www.hananoe.jp/culture/bouken/bouken195.html

ところでトーマス青塚、お前はなんなんだ

なんだかんだ「うらみ」について述べましたが、諸々の発端はトーマス青塚が貞に「頼み事」をしたことなんですよね。
あきらかな人員配置のミスです。
そんな人がしっかりと会社を経営できているのか?
そして、「足抜け金」の話をしているあの態度からすると、青塚さん、そこまでのお金はなさそうですよね。さらに不安になってきました……。
そんな人がなぜ、町いちばんの美女・菖蒲太夫と駆け落ちできるのでしょう。「あなた」って言われてるから、同意だと思うし。
仮説1)菖蒲太夫のことも騙した?
→渡米した時点でちょっとボロが出そうだから、ないんじゃないかな〜
仮説2)そこまでお金はないが、社会人としてよくできている
→うんうん。話の内容に妙に説得力あるしね
仮説3)めっちゃ顔がいい
→やたら「貞の顔の醜さ」を強調してくるからこれの可能性があるな。
ということで仮説2と3のドッキング説を推します。
そして、この世界は広く、「この町」は小さい。
他に良さげな説があればおしえてください。
追記:『社長夫人になる』がそもそもない可能性がありそう……!!ヒェー
メタ的には、トーマス青塚自体の存在は、「しごできの経営者の外国人っぽいひとの妻になるひとを、醜い乞食の青年が一夜だけ自分のものにする」という構図がきいているのだとおもいますが……。これが、寝取り……。

さいごに、
・フライヤーに、YPAMフリンジの「あやかしの鼓」の際に撮影したお写真を使ってもらえてうれしかったです。(なんもやってへんけど)
※「あやかしの鼓」でお写真を撮ったのは勝手にではないです。撮る係りだったので!PSYCHOSISのサイトでもみれるよ。
そういうのとか、なんやかんやがあり、当日パンフレットにお名前のせていただきました。ありがとうございました。
・一切出演者のみなさまに触れずにかいてしまいましたが、みんなかっこよかった!!!!!!!
・長嶌さんの音楽、劇伴らしさもらしくなさもあり和ぽさと和っぽくなさがありかっこよかった……!トランク開けようとしてるところのピアノとふわふわしたラッパっぽい音のところが夢みがちで好き。あととにかく全てに迫力がある。
終演のタイミングのいつものあのファーーってなってく曲がそしてやっぱりかなり好き。終わった!感があるし、始まりそうでもある。


●朗読ライブ『月面文字朗読一例』チケット発売中


詳細はこちらから。

★2/23-24開催 朗読ライブ『月面文字朗読一例』
「人面疽」と同じ、RITTOR BASEでの開催です。
RITTOR BASE、すごいです。めっちゃ聞こえるか聞こえないかの低音を鳴らせるでっかいスピーカーひとつ、ほんちゃんのスピーカーふたつ、客席を取り囲むように小さいスピーカーがたくさん。そしてチバーブ。
あんなところからも音が聞こえる!とか、なんかすごいふわふわして聞こえる!とか。
「立体音響」ってたまに見る言葉だけど、体感してる!っていう経験、あまりないのではないですか。ぜひ2月のうちに、RITTOR BASEで聴いてみて。
もちろん配信ある!!!
「人面疽」でトーマス青塚役だった嬉野ゆうさんが構成をやっている!!!!!


●あと、ぐれりんちのよてい

★1/26まで『オンディーヌ蚤の市2025』開催中。おようふくなど、お買い求めいただいてます。ありがとうございます。あと1しゅうかん!

★3/23『カワイイクリエイターs in東京』
だいすき!昨年は横浜・東京ともに、どちらが欠けているタイミングがあったのですが、今回はふたりでオープンからラストまでいられます!
ぬいぐるみ用ジャボが……出ます!!!!!!!!!!!!


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集