心を研ぎ澄ます塩。
塩が素材に綺麗にあたっているか、全神経を目と指先に集中して塩をふる。鮨にとって塩は一番重要で一番微妙な調味料だ。ふり方とスピードで旨みの出方に大きな差が生まれる。「クリスマス島の塩」の角のない塩味は、いつも最高の答えを出してくれる。
文・撮影/長尾謙一
クリスマス島の塩(素材のちから第44号より)
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素材を見抜き、手間をかけて素材をいかす
素材に向き合い、どう仕事をしていくかを決める瞬間はいつも緊張する。魚の状態によって塩のあて方も寝かせ方も変え、さらに切り方や飾りの入れ方も変える。鮨はシンプル極まりない料理なだけに塩ができを大きく左右する。「クリスマス島の塩」はこうした仕事の深さに力を発揮する。
「クリスマス島の塩」はシンプルにおいしい、それだけですね。
店主 佐藤 準一 さん
佐藤氏が「クリスマス島の塩」を使いはじめてから10年になる。使えば使うほど違いが分かるという。「クリスマス島の塩」には通常の「粉末」タイプの他に、さらさらの「乾燥粉末」タイプがあるが、佐藤氏はこの二つのタイプを素材に合わせて巧みに使い分けている。さまざまな効果を使いながら見つけ、ひと手間を極める。
「クリスマス島の塩」とは運命共同体ですね
「クリスマス島の塩」は通常の〝粉末〟タイプと、さらさらの〝乾燥粉末〟を使い分けています。
お出汁や白身には〝乾燥粉末〟を使っています。白身に〝乾燥粉末〟を使うととても浸透率がよくてなじみ感が凄くあり本当に繊細です。とても細かいので、まんべんなくふれるようにしっかりと見て塩をしますし、ふり方もかなり難しいです。
コハダやサバなどの光り物には〝粉末〟を使っています。
光り物は中途半端に塩をするとくさみが上がるので、しっかりと塩をあてたいところですが、どうしても塩の角が立つのが怖くて慎重になります。その点「クリスマス島の塩」なら、塩味のギリギリをどんどん攻めることができます。
「クリスマス島の塩」の塩味は丸くて優しく、素材の旨みをぐんぐん引き出してくれますから、とても使いやすいです。
試行錯誤を繰り返しながら〝粉末〟と〝乾燥粉末〟を使い分ける今の仕事のやり方にたどり着きました。こうなるとこの塩とは運命共同体ですね。
「クリスマス島の塩」を使うと旨みの出方がまったく違います
コハダには「クリスマス島の塩」の〝粉末〟を使ってしっかりと塩をあてて酢で締めて、そこから5日間寝かせました。塩は寝かせるとどんどん丸みが出てくるので、ちょうど塩と酢の塩梅がよく慣れた頃に使います。
コハダを漬ける酢は仕込んでおきます。普通の穀物酢と赤酢を混ぜて、昆布と砂糖。酢はやはり酸味に角があるので、その角とりに砂糖を入れ一度沸かします。
それにしても塩と酢の組み合わせは難しいですね。一番職人の腕が出るし、こだわりが出るところ。これがすべての味の決め手ですからね。
味の厚みというか凝縮感というか「クリスマス島の塩」を使うと旨みの出方がまったく違います。
お客様からは「このコハダはさっぱりしているけど、旨みが凄いね!」というお声をいただきます。
タコは水と「クリスマス島の塩」だけ、余計なことはしない
タコを煮るのは水と「クリスマス島の塩」だけ。オープンからずっと継ぎ足してきた煮汁で炊いています。タコの旨みが凝縮していますね。
色出しやくさみをとるために小豆やほうじ茶で炊いたりしますが、タコはそのままがいいのです。タコが持っている本来の色と風味を大切にしたいので、うちは余計なことはしません。「クリスマス島の塩」の〝粉末〟で揉んで、〝乾燥粉末〟で炊きます。
タコも人間と一緒で、その日によってコンディションが違います。産地や漁獲された時期、そして大きさなどでタコの力強さは全然変わりますから、それによって炊き方も変わります。
タコはシンプルなだけに、旨み、食感、色、香りがどれだけ引き出せているかが分かりやすいのです。旨みや味が薄くて食感のないタコってたくさんあると思います。
そのまま何もつけずに食べてみてください。噛めば噛むほど味が甘く濃くなります。「こんなタコは食べたことがない。」とよくお褒めいただきますので凄く嬉しいですね。そのためにはこの塩が必要です。
シャリは使う塩で違いが出る
サバには「クリスマス島の塩」の〝粉末〟を使います。たっぷりとのった甘いサバの脂をフレッシュに召し上がっていただきたいので、サバは締めた後一日しか寝かせません。噛むごとに身から旨みが溢れてくるようです。
シャリは砂糖を入れずに赤酢と「クリスマス島の塩」だけでつくりますが、シャリの酢角はまろやかで旨みがあります。山形の米を使っていますが米の持っている甘みもよく出ていて、これは「クリスマス島の塩」の持っているミネラル分の効果ですね。〝サバの昆布巻き〟に一体感が生まれます。シャリは使う塩で違いが出るのですね。
実はシャリには 〝粉末〟と〝乾燥粉末〟をブレンドして使っています。毎回つくりながら勉強している感じなのですが、そのうちベストの比率を探し当てたいと思います。もう「クリスマス島の塩」は、私の大切な仕事のパートナーになっています。
(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)