違和を感じる叱責
高3、学校での休み時間。
教室は特別にうるさい。
後ろの方で、男子がふざけて、かたまりになっている。
そんな中、すさまじい睡眠力で机に突っ伏して眠っている者もいれば、
次の授業の準備をしている者もいた。
私は、この不真面目すぎる学校が嫌いだった。
だから、いつものように席に座って授業が始まるのを待ち、ただ一人分の生徒の役を埋めていた。
ガラガラと扉を開けて、その厳しい男の先生が入ってきた。
先生というものの力が絶対ではない自由すぎる校風のおかげで、
その人の出した授業がはじまるぞの声はほとんどの生徒が聞いていなかった。
ただし本当は、その存在に気がつけばおそらくみんな黙るだろう、というくらいの厳しい性格の先生だった。
気が付かれなかった先生は、うるさすぎる生徒たちを前に、
おもむろに私の斜め後ろで突っ伏して寝ている1人の男子の机に近づいて、
その机をガタンという音と共に手で思い切り跳ね上げたので、
生徒は飛び起きてその鬼のような顔を見上げた。
「起きろーーー!!!!」
先生がその生徒に怒鳴ると、教室中の全ての音が一瞬にして消えた。
それは大きな大きな雷だった。
教室の後ろで騒いでいた大勢の男子もただ目を丸くした。
恐怖につつまれながら授業は始まったがそれ以外はいつもと何も変わらなかった。
しかし私の心は、その落雷を境に大嵐となっていた。
私にはわかっていた。どうして先生はうるさくしていた生徒ではなく寝ている生徒を先に叱ったのかが。
いわば、寝ていた彼は無抵抗だから見せしめに都合がよく、生徒全員の注目を一瞬で集めて黙らせるために先に怒られたのだ。
とんでもなく卑怯で、ダサいやり方だと思えた。許せないと思った。
私はいまかいまかとその授業の終わりのチャイムを聞いて、
堂々と教室をあとにする先生の背中をつけて音もなく廊下を歩いた。
そして先生が職員室に入る手前、後ろから呼び止めた。
男はこちらを振り向き、私のような影のうすい娘に声をかけられることが
これまでの人生で一度もなかったかのようなおや、という顔をした。
私は先生のさっきの怒り方はおかしいと強い口調で言うと一転、当然にその表情は厳しいものに変わった。
それでも職員室に無理やり入っていったので、私もずかずか続いた。
他の先生が、怒り狂った見慣れぬ生徒に何事かと驚き、動きをとめてじっと私たちの様子をみている。
「眠っている生徒にあんな乱暴な注意するくらいなら、どうして先に、授業が始まっても後ろで騒いでる男子にそれをしないんですか!!」
「この受験期において、寝不足かもしれない生徒より、騒いでいる生徒を怒らないなんておかしいです!!」
まさか怒りで涙がでようとは思いもしなかった。
わなわなと震えて、おさまらない気持ちは、思春期に抱える不条理な社会への叫びかのように、必要限度を超えて膨らんでいった。
先生は私の話も聞こうともしないで、すでに逆ギレをはじめていた。
「何がだ!どこがおかしい!なんなんだ!」と。
私はもう何を言えたのかわからないほどの興奮したまま、怒り狂って教室に戻った。そして席に座ってしくしくと泣いていると次の授業の鐘がそれを打ち消すように無機質に鳴った。
授業中、異変に気づいた隣のAさんが、そっと私の机にメモを置いた。
「どうした?大丈夫?」そう書かれていた。
優しかった。でも、あなたこそ大丈夫なのか、と返事したくなっていた。
私以外の生徒が同じ状況をみても何も思わないことに、声をあげないことに、とても理解できない。
私はおかしいのだろうか。
私の違和感は、ただ私だけのものなのか。
正しさとは、常に先生や大人だけにあるものなのか。
思春期の心はうずく。
。。。。
卒業も間近になったある日、
学校で唯一好きだった別の先生が授業で言った。
「これから社会に出ていく中で、正しいことが何かわかることよりも、
間違っているものが何かを見分けられるようになってください」
その言葉がただ一つ、都合よく、
私のささくれ立った心を優しく撫でてくれた気がした。
間違っててもいい、
これからも自分の感じたことは大切にしたい、と前を向いた。
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