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第36編 目には目を、歯に歯を

目は口ほどにものを言う

今日、また右目が変なのだと訴える患者がやってきた

「先生、最近右目の裏側あたりがゴロゴロして、違和感を覚えるのです。
なんとかなりませんか」

「はぁ、どうしたらいいのかわからないのですが、とりあえず見させていただいてもいいですか?」

医者は、目にペンライトで光を当て瞳孔の収縮具合などを確認した
患者の右目の具合は、どうということはなく正常に動いているようにみえる

「白目のあたり少し赤みが見えますが、おそらく寝不足によるものだと
思います。まぁ、大丈夫じゃないでしょうか」

「大丈夫じゃないでしょうかってね、あんた。それでも医者なんですか?
もうちょっと患者のことを親身になって考えてもいいんじゃないんですか」

「はぁ・・」

この患者は、毎回この調子で何かとクレームをつけてくる
追っ払ってしまえばいいのかもしれないが、この不況の最中、
患者獲得も中々に大変なことなので、貴重なお客様の一人を
逃してしまうことはあまり得策とはいえない

「まったく、どうかしているよ、ここの先生は。だいたいね・・・」

あーだこーだと、とりあえず一通り言い終えて患者は満足したようだ
好きなように思いきり喋らせておけば、いずれは喋らなくなる
ようは、何か小言を誰かに言いたいだけなのだ、このての患者は

どうにか黙らせることが出来れば、ここからは私の仕事だ

「はい、それでは口を大きく開けてください」

一応、医者という職務についている私であるが、
この患者の目はどうすることもできない
医者は医者でも、私は歯医者なのだから

しかし、目については、どうしようもないが
歯に関していえば、親身になって徹底して治療を行なう

治療中に、多少歯がしみようが死にはしない
口がきけなくて目で訴えてこようとも
医者が手を抜いてしまえば患者の為にはならない
虫歯を放っておけば万病のもと、
これ以上悪化しないようにと、私は親身になって治療をする

ギュィィィーン
キーーーン
キュイィーン

診察台の患者の目は大きく見開き、

ギュィィィーン
キーーーン
キュイィーン

涙がにじんでいる

よかった

どうやら私の親身な治療態度が患者にきちんと伝わったようだ
目に涙を浮かべるほどに、喜んでくれているなんて

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小林かびる
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