プロ野球賢者の書(特別編)【星野仙一没後5年】
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冷静と情熱の振り子
過去何度か紹介している浜田昭八の名著『監督たちの戦い』(日経ビジネス人文庫)の星野仙一の項にこんな一節がある。
2018年1月5日に70歳で逝去した星野仙一(1947~2018)の輪郭をうまく切り抜いている。
冒頭のインスタ投稿に書いた通り、星野仙一の持ち味はグラウンド外の戦いの強さ。『監督たちの戦い』にはこうある。
『勝利への道』の結びで「FA制度は悪魔の法則」とまで言いながら、タイガース監督に就くやいなや、当時の久万オーナーを算盤の数字に基づいて突き上げ、FA補強した星野。生半可な政治家が裸足で逃げ出すほどの二枚舌、失礼、周旋能力をみせた。
また「ユーモラスで礼儀正しい」と『監督たちの戦い』にあるように星野は俗に言う「爺転がし」の妙があった。
これは野球以外でも、ひとの上に立つもしくは立とうと目指す者にとって必須の才。
例えば指揮者のリッカルド・ムーティ(1941~)や小澤征爾(1935~)の音楽人生をひも解くと若き日に年長の音楽家との関係をうまく築いて、音楽家としての進化や機会獲得に結び付けた。
星野は年かさの球団経営者、球団OBとの渡り合いで「爺転がし」ぶりを発揮している。
タイガース監督時代は、必ずしも評価していなかった岡田彰布を重用することで吉田義男など大物OBを味方につけ、加えて次期監督候補をコーチに加えたがるフロントへの先制攻撃となった。
前任の野村克也はこうしたグラウンド外の根回しがヘタでOBとの関係が修復不能に陥り、余計なことで神経がすり減る状況を招いた。
人事の「情と理」の使い分けによってやりやすい状況を作り、たとえ反発があっても短期間で成果をあげることで屈服させ、内外で長く影響力を保持する。弱肉強食の世界における権力スタイルの1つの形を見せた人物だった。
②に続く
※文中敬称略
【参考文献】
星野仙一『勝利への道』(文春文庫;2002年)
浜田昭八『監督たちの戦い[決定版]・下』(日経ビジネス人文庫;2001年)