【ディスクレビュー】髙橋望〔ピアノ〕/J.S.バッハ:パルティータ集(アクースティカ)
分析眼と表現する喜びの幸せな結実
ピアニスト髙橋望は第13回(1997年)園田高弘賞ピアノ・コンクール第3位入賞の後、ドレスデン国立音楽大学に学び、ペーター・レーゼルの薫陶を受けた。2002年に帰国し、以来出身地の埼玉県秩父市を中心に全国で活動。
最も際立つ取り組みは2014年から毎年1月に行うJ.S.バッハのゴルトベルク変奏曲を弾くコンサートで知るひとぞ知る新年の恒例イヴェント。
また、演奏家の視点から作品やクラシック音楽と絡む歴史について語るレクチャーを継続的に催し、地元ローカルFMのレギュラー番組を持つなど着実にファンを増やしている。
録音面では前述のゴルトベルク変奏曲のライヴ録音(2015年収録)や同じくJ.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻(セッション録音)などがあり、後者はレコード芸術特選となった。
今回のアルバムはJ.S.バッハのパルティータから第1番、第2番、第4番。
髙橋望のバッハの長所は理論的分析と感興の豊かさが融合していること。透徹したタッチ、シャープな強弱の切り返しには音楽史や演奏様式学を踏まえたスコアの読みの具現化を感じる。
一方、音と音の繋ぎにある潤い、ふとした瞬間の明暗のコントラストからはピアノで弾く、聴くバッハの喜びがあふれ、学問的配慮にこだわるあまり小さい音楽になる事態からサラッと逃れている。
かつて園田高弘は「J.S.バッハの鍵盤作品の中でパルティータが最も形式として立派な作品」と記した。
その園田高弘の名を冠したコンクールで入賞した髙橋望が、園田高弘ゆかりのレーベルから送り出す本盤はバッハ演奏の第一人者としての一層の深化を聴き手に示すものとなった。全曲録音に期待。