【公演回顧】2024年(令和6年)七月大歌舞伎 夜の部 「裏表太閤記」

「スーパー歌舞伎」のパイロット的作品を43年ぶりに再構成上演

2024年(令和6年)7月22日(月)
千成瓢薫風聚光 裏表太閤記

~主な配役~
豊臣秀吉/鈴木喜多頭重成/孫悟空: 松本幸四郎
明智光秀/前田利家: 尾上松也
織田信忠/加藤清正: 坂東巳之助
光秀妹お通/毛利輝元: 尾上右近
鈴木孫市/宇喜多秀家: 市川染五郎
松永弾正/徳川家康: 市川中車
北政所: 中村雀右衛門
大綿津見神: 松本白鸚

本作は1981年に二代目市川猿翁(三代目市川猿之助)が、奈河彰輔の脚本と二代目藤間勘祖(二代目藤間勘十郎)の演出・振付により創作し、明治座で初演した。
宙乗り、本水を使った立ち廻りなどを盛り込んだ、後のスーパー歌舞伎の萌芽ともいえる作品。当時は昼夜通し公演だったが、今回の上演にあたり夜の部に収まるようカット・アレンジしている。

二代目猿翁は歌舞伎に関して以下のような問題意識を持っていた。
①古典歌舞伎の美意識、発想、演出法、演技術は素晴らしいが、その物語は当時の世界観・道徳観で書かれているため、義理人情や忠君愛国中心で現代人の心を打ちにくい。
②他方、明治末期以降に生まれたいわゆる「新歌舞伎」は物語の筋は通っているが、新劇の影響から演劇性を重んじたリアリズム中心となり、歌舞伎の「歌」「舞」の要素が抜け落ち、観ていて面白くない。
(『スーパー歌舞伎-ものづくりノート』集英社新書より)

「裏表太閤記」には、こうした考えがにじんでいた。
前記の通り、宙乗りや本水立ち廻り、さらに早替りといった江戸歌舞伎の華麗な演出が展開する一方、大胆にフィクションや幻想性を取り込みつつ、ドラマとしての説得力もある程度備えた内容。
この種の舞台は登場人物が多いため、筋が追いずらくなる、逆に説明過剰のセリフが流れてダレるといった難しさがあるが、本作は背景を義太夫語りに委ねてその両方をある程度解決していた。

「裏表太閤記」初演から5年後、二代目猿翁はスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を生み出す。この時、梅原猛によるスケールの大きい台本を具現化するため昼夜通し公演も検討されたが、興行面を考慮し 昼夜2回公演できる長さに収めた。様々な面で本作上演で得た知見をスーパー歌舞伎に反映したと推測できる。

最後になったが、43年ぶりの再構成上演に集った現代の中堅、ベテラン歌舞伎俳優陣は総じて好演だった。二代目猿翁の破格の才能に想いを馳せながら、いまを楽しむ充実の時間を過ごせた。

【参考文献】
市川猿之助(二代目市川猿翁)『スーパー歌舞伎-ものづくりノート』(集英社新書)

※文中敬称略

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