日本フィル配信レーベルが充実中

ようやく本格始動したオーケストラ所蔵音源の現金化

2021年に創立65周年を迎えた日本フィルハーモニー交響楽団が3月に配信の自主レーベルを設立。既に30点以上のライヴ音源がリリースされている。

日本フィルは長年ライヴ録音の自主制作CDを販売してきたが、今回の配信事業は楽団草創期の1960年代の音源を中心に据えた点が特筆される。

日本のオーケストラ史を考えると鑑賞に堪える音質のソースがある範囲に限っても過去60年強のコンサートや放送の音源が残っている。感染症禍で大量開催、大量動員、大量消費のコンサートビジネスが停滞気味のなか、オーケストラファンのニーズが大きいこれらの音源の現金化は必須の状況だが、東京都交響楽団が楽団のYouTubeチャンネルで歴代常任指揮者の音源を期間限定配信したくらいで各オーケストラの動きは鈍かった。
そのなかで日本フィルが国内外の定額配信サイトで所蔵音源を継続的にリリースすることは遅ればせながら一歩踏み出した点で称賛したい。配信の場合、CDと異なり在庫を抱えるリスクがなく、短い時間の音源でも許諾を得られたものから世に出せるので多彩なものを柔軟にリリースできる。聴く側にとっては品切や「音質や内容が買ってみるまで分からず不安」という心配がないので軽い気持ちで歴史的遺産の門をくぐれる。

既にいくつか聴いてみた中でとりわけ心ひかれたのは以下の2点。

1965年9月15日(第104回東京定期演奏会;渡邉暁雄指揮)のライヴ録音。他の指揮者の同曲演奏よりハーモニーの美しさが前に出ており、透明でモダンな感触のサウンドなのが面白い。

シベリウスを得意にした指揮者らしい清涼感のある音楽で作品の魅力をきれいに伝える。

さらにドヴォルザークの交響曲第7番の日本初演とされる音源(1962年3月29日;渡邉暁雄指揮)、邦人委嘱作品「日本フィル・シリーズ」、ミュンシュとの共演、江藤俊哉や和波孝禧をソリストに迎えたヴァイオリン協奏曲など聴き応えあるラインナップが並ぶ。

今後の更なる展開に期待大。

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