見出し画像

聞いた話は、つぎからつぎへと、人に聞かせなければなりません。

#岩波少年文庫70冊チャレンジ #4日目

金素雲編『ネギをうえた人 朝鮮民話選』(岩波少年文庫、1953)

韓国の作品を読んだことが、実はありません。
昨年大ヒットになった『82年生まれ、キム・ジヨン』も読んでいませんし、韓国ドラマも見ないし、K-Popにも韓流アイドルにも興味がないのです。
かろうじて、韓国料理が好きなくらい。
なので、わたしは韓国という国の、そして朝鮮半島の文化に、まったく馴染みがありません。

金素雲について

1907年韓国釜山生まれ。
素雲は長く日本に滞在し、韓国・朝鮮の文化を日本に紹介し続けました。
北原白秋や、岩波書店の創設者である岩波茂雄とも親交が厚く、朝鮮民話の本も岩波書店から多く出版されています。
20世紀初頭の日本は、韓国文化についてまったく無知だったそうで、素雲の著作によって韓国や朝鮮の歴史文化が、一般にも知られるきっかけが生まれました。
いつの時代も、ある国の文化歴史が浸透するには、娯楽や芸術の力が必要です。
第一次大戦後、第二次大戦後も日本に滞在したようで、それはものすごいことだと思いますが、そのせいで韓国では、よくない評判も出たようです。
岩波少年文庫に収録されているこの民話集も、訳者の名前がないところを見ると、素雲が日本語でまとめたのでしょうか。
韓国の方は日本語に堪能な人が多いですが、外国語で自国の文化を表現できるというのは、すばらしいことですね。


昔話の型と文化性

世界中の昔話にある程度の共通性があることは、ウラジミール・プロップの『昔話の形態学』(1928)でも指摘されていることです。
地域間の交流がほとんどなかった時代に、各地で似たような物語が形作られていったというのは、人間というものが普遍的な価値観を共有しているという、ある種のロマンです。

この本に収録されている物語も、わたしの知っているあの話やこの話に似ているなあ、というものがたくさんありました。

わらしべ長者
浦島太郎
鶴の恩返し
天女の羽衣
7匹の子ヤギ

物語の筋が似ているものもあれば、

三人兄弟の末っ子
魔法にかけられた若者

など、民話の要素として共通項が多いものもありました。

世界の民話を知ることは、世界中で人間が共通に持っている「物語の枠」を知る、便利な方法です。


一方で、その文化ならではの要素も数多くあります。
わたしが読んでいて気がついたのは、「トラ」の出番がやたらと多いことです。
悪役としてのトラ、恩返しをするトラ、まぬけなトラ。
日本だと、狐などがそのポジションにいそう…… かな?
あとはクマ? クマが出てくる民話を知らないですが、凶暴性でいうとそのあたりでしょうか。

それから、ノミとか南京虫とか、虫が結構出てくるなと思いました。


タイトルに引用したのは、「物語のふくろ」というお話からです。
これ、ほかではあまり見ない感じのお話だなと思いました。

金持ちの男の子がお話を聞くのが好きで、お話を聞くたびにそれを袋にしまっていた。
男の子が大きくなって結婚をするときに、召使の一人が袋の中の物語が、男に復讐をする相談をするのを聞きつける。
結婚式の当日、召使は男の付き人となって、物語が仕掛ける罠から男を助ける。
そうして、最後には全ての罠から逃れることができた。

だから、物語はしまっておかずに、人に聞かせてあげましょう。

という話なのです。

はじめ、わたしはこの男の子が、しまっておいた物語を使って危機を乗り越えるとか、そういう話なのだと思いました。
ところが、しまわれていた物語が仕返しをする、というまさかの展開。
物語は悪者として退治されてしまうわけですが、型としては、他人に親切にしなかったから(正しいことをしなかったから)しっぺ返しをくらう、という教訓型なのです。

なんだろう、聞いた物語を人に話さないって、仕返しされるほど悪いことなんでしょうか。

思うに、“もの語り”が娯楽と交流手段のひとつであったころ、人から受けた恩を次へ回さないことは、悪いことだったのでしょう。

それにしても、日本やほかの地域でこういう話を聞いたことがなかったので、おもしろいなあと思いました。


ところで、プロップの本はもう日本では出ていないんですね……。
文化学とか文学とかを学ぶには、必読だと思っていたのですが。



いいなと思ったら応援しよう!

本棚本と桐箪笥のちょこ📚クラファン実施中
放っておいても好きなものを紹介しますが、サポートしていただけるともっと喜んで好きなものを推させていただきます。 ぜひわたしのことも推してください!

この記事が参加している募集