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「ー白い手ー 女の手ーだろうか?」

はい、いい加減第一部を終わらせようと腹を括ったので、スレイヤーズ8巻をお送りします!

神坂一著『死霊都市の王』(富士見書房、2008)

スレイヤーズ第一部のラストは、7巻と8巻の続き物になっています。
7巻の本棚本はこちらからどうぞ。

7巻ラストの盛り上がりに比べて、8巻は不気味なくらい静かに始まります。

その「手」の場違い感たるや。
そう、「場違い」「違和感」。
これが8巻のベースになっていると思います。

突然現れた冥王フィブリゾに、魔竜王ガーヴはあっさり滅ぼされ、そしてガウリイが人質に取られて、リナはサイラーグへ来るようにと告げられます。
…… いや、この作品の主人公は確かにリナだよ。
リナなんだけどさ、いつも思うけどさ、ガウリイ、ラストで人質というか足枷になりすぎ問題。
仕方ないんだけど。
というか、この時点ですでにガウリイが「リナを極限まで追い詰める駒」だと敵陣にまで認識されているの、すごすぎませんか。
ゼロスの人間観察力がそんなに高かったんだろうか。

何度も言っていることですが、スレイヤーズは本編も短編も、基本的にリナは「巻き込まれ」型の主人公で、なんだかめんどーなことに首を突っ込んでしまった、とか、めんどーなことが向こうから歩いてやってきた、とか、そういうことばかりです。
なのでリナは、基本的に各話の「ラスボス」には容赦しないし、元凶となった人間にも、入れ込むような同情はしません。
どんなに辛い状況であろうとも、そういう選択をしたのはその人の理由があり、その責任を取らされるものだ、と考えているからだと思います。

それがさー、崩されるのがさー、8巻なんですよねーーー。

異界黙示録によって「金色の魔王」の真の正体を知ったリナは、金色の魔王の力を借りた術を使える自分が魔族に狙われている本当の理由を悟ります。
それは、術を暴走させて世界を滅ぼすこと。
それに気付きながら、口ではなんやかや言いながら、ガウリイを助けにサイラーグに向かうわけですが……

アメリアが言うとおり、
「魔族の目的を知ったら、わたしはリナを止めないといけないかもしれない。例えガウリイさんを見捨てても。」
な状況なんですよ。
これがリナが当事者でなければ、「ひとりのために世界が滅びるような選択をする奴は全力で止める」側に回るはずなんです。
だってそれくらいヤバいことだから。
でもアメリアもゼルも、「仲間だから」というだけで、リナの重荷を一緒に担いでやろうとするのです。
この仲間の心強さと、俯瞰で見た時の3人の愚かさは、人間の矛盾そのものだよなあと思います。

さらにそこに、ガウリイに心酔しており、かつ神託によって魔族の目的に気がついているシルフィールが加わります。
内情を知らないでリナの味方をするゼルやアメリアと違って、シルフィールはリナのしていることが「世界規模で見れば悪」であることを知っています。
でもそこは恋する乙女♡なので、シルフィールはリナのやることに自ら巻き込まれに行きます。

この辺が、スレイヤーズキャラの威勢のいいところですごく好きなんですよね。
傍観者になるくらいなら、一緒に世界の悪者になってやろう、という仲間思いなところ。
それは、これまで出てきた敵キャラたちの自暴自棄な、あるいは自己陶酔による手下の使い方とは違って、リナの人徳というか、カリスマ性なんですよ。
……まあシルフィールに至っては、花嫁修行のノリで竜破斬をマスターしているんでほんと意味わからん。
この子、炎の矢さえろくに使いこなせないやん。
神官が黒魔術の最終奥義極めていいんか。

でもやっぱラストですよ。
真正面から戦って、フィブリゾに勝てるわけがないんですよ。
だって魔王の腹心の中でも最強だし、そもそもやつは戦うつもりなんてなくて、精神的に追い詰めてリナに重破斬、一歩間違えれば暴走して世界を滅ぼす、金色の魔王の呪文を使わせるのが目的だから。

結局リナ以外の全員が人質に取られて、それでもリナは重破斬を使うのをずっと堪えているのに、いざガウリイが本当に殺されそうになった瞬間吹っ切れるんですよねぇ。
いいですねぇ、世界よりガウリイを選んだ瞬間。

アニメのほうはこの辺の描写が顕著というか、平成アニメあるあるご都合アニオリ展開が入るので、ある意味で答え()がはっきりしているんですが。
でも原作だとこの時点ではここまで関係性進んでいないんだよ。
でも、リナにとってはガウリイは絶対に失えない大切な人になっていて、1%もない勝てる可能性に賭けて、呪文を唱えるんだな。
この時のリナは、自分のしていることが、これまで見てきた敵とどれくらい似ていると認識していたのだろうか、と思います。
あとから考えて、いろいろ思うところがあったのでしょうか。

んで、まあ、フィブリゾのやらかしのおかげでL様激おこになって両者痛み分け。
リナにとっては運だけで生き残り、なんとか全員無事だった、と。
ここがリナの実力じゃなくて、フィブリゾのうっかりだ、というのもいいですね。
物語の性質常上、1巻で魔王のかけらを1体倒しているので、魔族界隈ではすでに有名人なリナですが、あれは素体となったレゾの意識が強かったから勝てただけ。
フィブリゾにはそういう付けいる隙がないので、絶対に勝てない相手だった、という。

その辺、パワーインフレではなく本当に運だというのが本当によい。
そう、生きるか死ぬかはある意味で運次第なんだよこの世界は。
運があれば生き延びる。
運がなければ死ぬ。
本人の心の持ちようと言うのもあるけれど、どうしよもなくて死んでしまうこともある。

その事実にどう向き合うか、と言うのが、スレイヤーズ長編のベースとなるテーマだよなあ、と改めて思います。
大切な人のために世界を投げ出す覚悟と実行力。
それは、主人公なら美しいけれども、同じことを敵がしたとしても、悪になってしまう。
善悪は本当に表裏一体だよなと思わされます。

ガウリイはここで光の剣を失うわけですが、それを口実に旅を続けられることにホッとするリナがかわいいね。
シルフィールも諦めちゃううよね。
シルフィール本当にいい子だな?
時期にその口実もいらなくなるからなー、お前らーーー!!

はい、これにてスレイヤーズ第一部が終わりました。
第二部はいいぞ!
アニメ勢で原作未履修のひとは、ぜひ第二部を読んでください。

というか、昨今の「昔の作品を原作に忠実にリメイク」の流行りにのっかって、キャストは変えないまま原作に忠実に再アニメ化してくれてもいいんだよ。
せめて第二部だけでもいいから、アニメ化しよ?
第二部だったら、昔のキャスト全員集めなくてもいいからなんとかならない?
閣下が忙しいからむりかなぁ。
でもなあ、見たいよなあ。
現代のクオリティの第二部アニメ。
魔王剣と螺旋閃光(これで漢字あってるか?)のエフェクト見てみたいんだよね。
絶対に映える。

そんな未来のアニメ化に想いを馳せつつ、次は第二部ですね。
ああ、重い重い。
あ、そのまえにすぺしゃるも紹介しなきゃいけませんね。
スレイヤーズだけでも1年かかりそうですよ、本棚本。


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