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「でも、きみにとっては、星が、ほかの人とはちがったものになるんだ……」

#岩波少年文庫70冊チャレンジ #3日目

サン=テグジュペリ著, 内藤濯訳『星の王子さま』(岩波少年文庫, 1953, 2020)[1946]

生来のひねくれ者なので、あまりにも有名な本には手を出していないことがままあります。
これもそのひとつ。

「かんじんなことは、目に見えないんだよ」(p.127)

これだけで、もう満腹です、という気になっていたもので、ようやく全部通して読む機会を得ました。

サン=テグジュペリについて

どうもフランス語にうといもので、「さん・てぐじゅぺり」なのか「さんく・てじゅぺり」なのか「さんて・じゅべり」なのか、いつもわからなくなります。
フルネームは、
アントワーヌ・マリー・ジャン=バティスト・ロジェ・ド・サン=テグジュペリ
”ド ”がついているなあと思ったら、リヨンの伯爵家の人でした。
貴族じゃないですか。

1900年生まれ、1944年没。
フランス生まれフランス育ちなのでまだしもマシかとは思いますが、2度の戦争を経験し、従軍して亡くなったそうです。
伯爵家の子が、と思ったのですが、どうやら本人が、飛ぶことに強いこだわりを持っているかのような経歴です。
はじめは陸軍で操縦士として、その後民間航空会社のパイロットとなり、フランスベトナム間の最短飛行に挑戦し、第二次世界大戦でも従軍、そのあと除隊されアメリカに亡命するも、そちらで空軍に入り、北アフリカ戦線までやってきます。
最後は、地中海上空で行方不明となったのです。

文学者としても若くから名声を得ていた彼が、どうしてそこまで飛ぶことにこだわったのか、興味深く感じます。
サン=テグジュペリは随筆も出しているようですから、その辺りを読めば理由が分かるかもしれません。


星の王子さまのおもいで

わたしは第二外国語でフランス語をとっていたのですが、そのとき副読本として、ちょっとだけ星の王子さまを読みました。
正直なところね、こんな哲学っぽいものを語学(初心者)の教材に使うものではないと思います。
とはいえ、フランス語は結局身にならず、フランス語で読んだLe Petit Prince もほとんど覚えていないながら、今でもserpent boa だけは覚えています。
サルペン ボア
ボア蛇、とその時は訳していたと思うのですが、邦訳ではウワバミとなっていました。

サルペンボア
サルペンボア

これだけでも、「フランス語は名詞が先で形容詞が後」と覚えられたのですから、まあよかったのでしょうか。


星の王子さまとはなんだったのか

大人になってからこういった本を読む弊害は、いくらでもドライに読めてしまう、ということです。
わたしにとっては、没入感が少々足りませんでした。
これはおそらく相性の問題でもあって、わたしはもうちょっと世界観ががっしりした作品の方が、のめり込みやすいのです。

それでも、子どものときに読んでいれば、王子さまが星々でであった人たちを、おもしろおかしく覚えていられたでしょう。
地理学者とか、王様とか、お金を数えている人とか。

おとなって、なんでそういうよくわからないつまらないことを必死でやっているのでしょう。

そしておとなになって本を読み返したときに、もっといろいろなことに気がつけたのだと思います。

本に年齢制限はありませんが、適した年齢というものはあるなあと、こういう作品を読むと思います。

主人公の”ぼく”は、「象を飲み込んだウワバミの絵」が大人にわかってもらえないことにがっかりして、そのがっかりを抱えたままおとなになりました。
王子さまは”ぼく”にとって、ウワバミの絵を理解してくれる唯一の存在です。
”ぼく”はそれ嬉しくて、やっぱり分かる人にしかわからないよ、と思うのですが、物語を通してみると、”ぼく”は悲しいほど、「大人側の人間」なのです。

”ぼく”には、王子さまの話がなかなか理解できません。
物語として書き留められているのは、どうにかして”ぼく”が理解しえたことを書き連ねた(という体の)もので、それはつまり、王子さまの話がここまで明朗でないことを意味しています。
大人である”ぼく”は、王子さまのエッセンスを残しつつも、筋道のとおった文章に直さないと、王子さまのいうことがわからないし、人にも説明できないのです。
それでも、”ぼく”の子どもの部分と、王子さま子ども性は共感する部分もあって、それで二人の友情は成り立っています。

”ぼく”と王子さまの交流はわずか数日で、王子さまは”ぼく”にとっては死んだかのような消え方をします。
でも”ぼく”の子どもの部分は、王子さまがいったように、空の星のどれかひとつに、王子さまは帰っていったと信じているでしょう。
それによって、空の星は”ぼく”にとって特別なものになります。

なにかが”特別”になるには、そこに自分が心を傾ける何かがあるかどうか。
それがなによりも大切な価値なのです。


たとえば友人のいる国は、ほかの国よりも気にかかります。
好きな本の作家が生まれた国は、それだけで宝箱のように輝いて見えます。


そうやって、世の中のいろんなことに、自分だけの宝物を見出せたら、人生はもっともっと豊に楽しくなるだろうなあと、そう思うのです。



余談:「星の王子さま」は、数年前に原作の著作権が切れてから、数多の邦訳本が世に出ました。たぶん、玉石混合です。ある程度は好みですが、個人的には、昔から児童書を出している出版社のものの方が、訳文にも安定感があって読みやすいと思います。

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