塩田千春展 魂がふるえる/ここは誰かの夢の中?
月曜休みの美術館が多い中、森美術館と森アートギャラリーは開いています。しかも夜10時まで。さすが六本木です。
塩田千春展に行ってきました。
ざらりと触れてくるもの
最初の展示は、「不確かな旅」。舟から立ちのぼる赤い糸は、続いてゆく命、母の胎内など、命の明るさを感じさせるものでした。でも、ちょっと怖いところがある。美しい、明るい悪夢とでも言いましょうか。
塩田千春の赤い糸は、血の匂いがします。
特に、初期のものは経血を思わせ、身の置き所のない若さのエネルギーや性欲や、生理のときの湿っぽくて重い鬱陶しい身体の感覚など、そういうものがぐわーっと迫ってくるのでした。
「絵になりたかった」とキャンバスをまとって赤い絵の具をかぶった20代の彼女は壮絶でした。ここまで激しくはなかったけど、なんかこういう狂おしさには覚えがある。自分とは違う、でも知ってる気がする、ざらっとしたものに触れられたような感覚があるのです。
だれかの夢に取り込まれたような不思議な感じで、怖いのに見ずにはいられない……。一見かわいい、ミニチュアのおもちゃや針刺し、子ども服などが並んだ作品にも同様の怖さを覚えました。
黒の世界もまた怖い
「静けさの中で」は、焦げたピアノに焦げた椅子、黒い糸に包まれたインスタレーション。みんな写真は撮っているのですが、赤い糸の「不確かな旅」のように中に入り込む人は少なくて、そーっと外から眺めている人が多いようでした。私もそう。怖くて入れませんでした。絡め取られたらどうしよう、という不安を覚える黒い糸。
他の作品にも椅子は多く使われていましたが、人が座っていない壊れた椅子というのは、結構怖いものなのですね。不在、死、滅びなどを意識してしまうからでしょうか。
旅人たちと
もともと外国人か多い六本木ですが、塩田千春展の来場者は、半数ほどが海外の方たちのように感じられました。アジア系と欧米系が半々くらいの印象です。ラグビーワールドカップが始まってから、大柄な外国人観光客が増えたような気がしますが、美術館でも同様でした(そういえば、私が行ったのはラグビーの試合がなかった日)。
無数のスーツケースが揺れる「集積―目的地を求めて」の前で、高齢中国人カップルの記念撮影をお手伝いしました。
中国の人たちは華僑として世界中に散らばっている、私の祖先もどこからか旅してきて日本にたどり着いたはず。スーツケースは持ってなかったかもしれないけれど。
椅子と同様に、そこにいない人たちのことを考えてしまう、不思議なユラユラでした。
魂はふるえたか
やたら怖い怖いと書いてしまいましたが、これも魂がふるえた証拠かもしれません。あとからじわじわ効いてきそうな展覧会です。もうすぐ終わってしまいますが、まだの方がいたら、お勧めしたいと思います。
基本情報
塩田千春展:魂がふるえる
会場●森美術館
会期●2019年6月20日(木)~10月27日(日)
公式サイト●https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/shiotachiharu/
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