フランスでショコラトリー店員になる#5 白紙に戻る
フランスに到着して、間もなく―。
朝、起きてマダムと話していると、
「そうそう、ちょっと来てくれる?」
とシャワールームへ連れていかれた。
「上を見て」
こちらのシャワールームは、バスタブもあり綺麗だったが、窓がない。それなのに、備え付けの換気扇がとても小さかった。マダムが言うには、この換気扇に水滴が付いて壊れてしまっても、業者はすぐには来てくれない上に、費用が高いという。
つまり、何が言いたいかというと、シャワーを長時間使わないで欲しいとのことだった。
噂には聞いていたので、自分なりには急いで入っているつもりでいたが、それでも遅いというので、具体的に何分くらいで入るものなのか聞いてみた。
「5分ね。」
な、なんと…!
当時の私は衝撃を受け、これ以上早く入る為には、分割洗いしかないのではないか?と真剣に考えた。(例:今日は、頭だけ。明日は、体だけ。)そして、より早くシャワーを浴びる方法を編み出した。
①先ず、頭からシャワーを全身に浴びる。
②頭を洗い、すすぐ前に体も洗う。
③最後に一気に頭からお湯を掛けて、終わり。
…書いてみると、番号まで書くほどの大層なことはしていないと今になって気付いてしまったが、折角なのでこのままにしておこうと思う。そして、それがまるで仕事かのように、真剣に取り組んだ。
ちなみに、このことをクラスメイトに打ち明けると、彼女の所では、7分でシャワーが止まってしまう、とのことだった。
私は、待ちゆく人を眺め、
「あなたのお宅ではどうですか?」
と街頭インタビューをしたい気分になった。
こんなに頑張ってスピードをあげたのに、その後の人生の中で、全てのフランス人が5分で入るとは限らない、と知るのだった。それに、そもそも、多くのフランス人は、毎日頭を洗うわけではない。これは、フランスの美容師さん推奨で「週に一度くらいが望ましい」とのことだった。フランスのおしゃれガールもそうだった。それならもう少しタイムを縮めることが出来そうだ。
おそらくだが、フランスの水質が関係しているのではないかと思う。
硬水のフランスでは、日本から持参したシャンプーが日本ほど泡立たなかったように感じたが、これは気のせいだろうか?
* *
フランスに到着してからというもの、最初は自分の部屋にインターネットの環境がなく、メールチェック等は近所のベルクール広場を横切り、マックへパソコンを持って行き(しかも当時のパソコンは分厚く重かった)
Wi-Fiに繋げてチェックをしていた。
ある日、私は朝マックしていた。
焼きたてのパンにバターをたっぷり塗って、カフェオレを一口。
心地よい朝だった。
呑気にメールBoxを開くと、17件も溜まっていた。
1人ずつに返信をしていたら、突然、携帯に電話が掛かってきた。
大体、日本人にしか番号を教えていなかったので、
「もしもーし!」と普通に出たら
「Bonjour!!(ボンジュール‼)」
「Vous êtes qui?(どちら様ですか?)」
「C'est 〇〇」
なんと、電話の相手は、日本にいる時から話が出ていた地方のパティスリーのシェフだった。
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