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フランスでショコラトリー店員になる#4 リヨン到着

パリからTGVに乗り、約2時間―。

遂に、リヨンに辿り着いた。

駅まで迎えに来てくれたステイ先のムッシュは、南仏育ちの元気の良いおじいちゃんだった。日本を発つ直前に決定した、例の新しいステイ先だ。私達は駅から真っすぐに伸びる通りを、ゆっくりと歩き始めた。商店街のような通りだった。右にも左にも小さな商店が並び、賑わっていた。小さなパティスリーを通りかかると、入口付近に小さな赤いテントがあり、その下でアイスクリームを販売していた。看板には"miko"。出会うフランス人が皆、私のことをアイスみたいな名前だと言ったと書いた、あのアイスだ。

暫く歩くと、古いけれど大きくて重厚感のある石造りのアパルトマンに辿り着いた。私達は手で開けるタイプの、アンティーク調のエレベーターにギュっと乗り込んだ。これ動くのか…?とちょっとスリル満点の古さだった。

日本の2階分くらいある高い天井。大きな木のドアを開けると、素敵なアンティーク家具がずらりと並ぶ、映画のワンシーンにも出てきそうなお宅だった。…これがフランスのお宅なのか…と胸が高鳴った。ギリギリで決まったのに、こんなに素敵なお家だとは!立地も中心地にあり、アクセスも良かった。

家の中をあちらこちらと紹介してもらった。白いドアを開けると、赤やオレンジ色のカーペットが敷かれた、こじんまりとした素敵な部屋があり、それが私の部屋となった。縦長の窓を開けると通りを行きかう人々が見えた。

ふと、ムッシュが私に言った。

「このベッドは、私の祖父が使っていたんだよ。」

「あ、そうなんですね。」

おじいちゃんのおじいちゃん…

良くいえば、ヴィンテージ家具なのだが、私はなんだか複雑な気持ちになり、見知らぬご先祖様を思い浮かべ床に入った初日は、なかなか寝付くことができなかった。


―あっという間に、滞在してから1週間が経った。

私はその間、ムッシュに市内を案内してもらったり、近くの湖までサイクリングしたり、日曜日には、ミサにも同席した。教会で、音楽学校(コンセルヴァトワール)のコンサートもあり、良い意味で全てが新鮮で、パリとは違った、また別の顔のフランスを発見したような気持ちだった。

パリでショッキングな話を聞き、不安だらけで始まった滞在だったが、こうして目まぐるしく始まった生活のお陰で、不安は次第に薄れていくのだった。

そして遂に、学校が始まった。

私は、B1N3というクラスになった。DELF/DALFという、国が認定するフランス語検定のレベルに準じたクラス分けだった。日本では上級クラスにいたが、ここでは”中級”という印象を受けた。この後、B2N1、B2N2、B2N3となり、最後はスーパーサイヤ人レベルのC1、C2クラスが待っている。このスーパークラスにはもはやアジア圏の生徒はいなく、スペインやイタリア、ドイツ等ヨーロッパ勢がほとんど。憧れのレベルだった。

学校は友人もでき、和気あいあいとしたクラスで、居心地が良かった。勉強の内容は、今まで日本で習ってきたこととさほど変わらなかったが、毎日3時間授業なので、さすがに次のB2クラスに上がった時は、なかなかハードだと思った。毎日宿題が出ていたので、それを終わらせないことには、のんびりお散歩も出来ないと思っていた。していたけれど。

私より少し後に入居してきたルームメイトは、イタリア人の小柄で可愛い女子高生だった。とても気が合い、私達はなんだか姉妹のようだった。彼女は例の最強レベルのC2クラスに在籍していた。勉強内容を見せてもらったことがあるが、難しい政治の話等でぎっしり書かれたフランス語…さっぱり解らず、私は「うわっ」と口をポカンと開けて、覗き込んだ頭をそのまま戻した。

      *             *

学校が始まって間もなく、ステイ先のムッシュに

親戚の友人に、ショコラティエの協会(サンディカ)でディレクターをやっている人がいるから紹介してあげる!と言われた。そして話の流れで、そのディレクターにも履歴書を出すことになったのだった。

それに加え、近くのショコラトリー(チョコレート屋さん)のムッシュに紹介してあげるから一緒に行ってみよう!というのだ。

2ヶ月のホームステイ契約も、なんならずっといていいよ!とのことで、住まいはアクセスの良い中心地だった為、私は舞い上がっていた。

この業種でしか働いたことがない私ではあるが、履歴書は一度にあちこちに出した経験はなかった。フランスでは、履歴書は一度に何通も書いてあちこちに送るのが普通だという。

私は不安でいっぱいだった。

そんなにあちこちに出して、本当に良いのだろうか?後ろめたくないのか?

もし決まったら、学校は?ブドウ摘みは?クリスマスは?

胸の中がざわめくのを感じたのだった。

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