猫の口元、ヒゲが生えてるふかふかなアレ
「Whisker pad(ウィスカーパッド)」 と言う。
知る人ぞ知る、かもしれないが、私がヒゲ袋を「ウィスカーパッド」と呼ぶことを知ったのは、ごく最近のことだ。
「ウィスカーパッド」……
猫っぽくない響きのように思えるが。
ウィスカーパッドの役割
「Whisker」は頬のヒゲ、「pad」はクッションとか、あて物とか、肉球という意味もある。
そして、「Whisker」と「pad」 を合わせて、『猫やネズミのほほのヒゲが生えている袋』と訳される。
猫のヒゲはご存知のとおり、感覚器官であり、距離を測ったり、場合によっては空気や水中の振動を検出したりする、まさにレーダーとかセンサーといった類いのモノだ。
ヒゲは体毛の2~3倍の太さで、3倍ほど深く体内に埋まっている。
ヒゲの毛根部には、静脈洞と呼ばれる神経が集中した血液の袋があって、これがヒゲが触れるわずかな動きを検知できるのだ。
ヒゲが触れると、「この穴は通れそう」とか、「今日は暑いな」とか、物体の距離、方向、質感、温度まで正確に判断できる。
そして、ヒゲの根元の静脈洞の周りには横紋筋があって、筋肉を収縮させてヒゲの角度を制御している。
驚いたときに毛を逆立たせる立毛筋(平滑筋)は自律神経支配なので、自分の意志で動かすことができないのに対し、横紋筋に囲まれたヒゲは、自分で動かすことができる。
つまり猫は、何かを知るためにヒゲを動かし、また逆に、角度や動きをみることで猫の精神状態がわかるというわけだ。
何かに興味を抱いて興奮状態にあるときは、ヒゲが前を向き、おびえているしているとき、緊張状態にあるときはヒゲが後ろを向く。
飼い主に甘えてリラックスしているときは、自然とヒゲはダラリと垂れている。
ヒゲは、しっぽと同様に、猫の気持ちを推測するバロメータになる。
口もとだけじゃない、猫のヒゲ
猫のヒゲは顔のまわりに5種類、そして前足のうしろにも1種類ある。
①眉上毛:目の上に生えている長い毛。目や頭を傷つけないように危険を察知するセンサーの役割を果たし、この「眉上毛」を触ると反射的に目を閉じる。
②頬骨毛:目の横下に1,2本生えたヒゲ。中にはこのひげが生えていない猫も。
③上唇毛:いわゆる「ウィスカーパッド」。左右合わせておよそ24本ある。
④下唇毛:顎に生えている短い毛。狩りで、態勢を低く構えたときに喉元をケガしないためのセンサーの役割をもつ。
⑤口角毛:上唇毛と同じ役割だが、上唇毛の上の1,2本を呼ぶ。ヒゲの中でも抜けやすい。
⑥足毛:前足の後ろの毛根球(少し離れた肉球)の上にあるヒゲ。獲物を追ったり、高いところに登ったりする際に使われる。
思ってる以上にすごいヒゲ
ヒゲは、夜行性の猫が単に狭いとこを抜けたり、暗闇でも歩けるだけでなく、狩りにとても役立っていた。
例えば、口にくわえた獲物など、近すぎて焦点が合わせられないため、猫はこれらのヒゲを上下に回転させて、獲物の生命の兆候を確認する。そしてさらにどこを攻撃すれば有効なのかも検知することができる。
1:50あたりからのネズミのおもちゃをとらえるスローモーションが興味深い。
猫にとってヒゲは、生きる上での大切な器官であり、ヒゲを抜いたり切ったりする飼い主はいないと思うが、実験ではヒゲをカットされた猫が、暗闇で歩かなくなったことが確認されている。
猫は食べものでヒゲを汚したり、遊んでいて引っ張られることを嫌うため、食事を与える食器はなるべく浅いものにするべきだし、かわいいからと言って、ヒゲを触ったりすることもあまりオススメできない。
「猫のヒゲは優しく扱うべし」
ただ、体毛と同様生え変わるものなので、自然に抜けることは問題なく、自然に抜けたヒゲは、もちろん、財布にいれて持ち歩いている。
金運が上昇するらしいので……
人間は頭を使う代わりに、レーダーとしてのヒゲの役割を失ってしまったが、その機能を備えた口元のふかふかなアレを持つ猫は、やっぱり素晴らしい生き物だと思う。