うんていの運試し(創作)
うんていの運試し
三年梅組 上田丑太郎
ぼくは丑年生まれの丑太郎です。裏に住んでいるおじいちゃんが名前をつけてくれました。
生まれたときに小さかったので、どっしりとしたおちついた人になるようにって理由だそうです。ぼくはみんなより少しどっしりしているので、名前がちがったらいいのになと思うことがあります。でも、うなぎやさんのおじいちゃんは、時々売れ残りのおいしいうなぎを家へとどけてくれるので、文句は言えません。
ぼくの夢は宇宙飛行士です。そのことを家で話したら、ウルトラマンが大好きなおとうさんは「丑太郎が宇宙に行くなんて、思い浮かべただけでウキウキするなー」と大喜びしました。うちょうてんになりすぎて、歌まで歌い出しました。裏のおじいちゃんが、ぼくのおとうさんのことを浮かれポンチと呼ぶ理由がわかります。
おかあさんは「勉強も運動もうんとがんばらないとね」と言いました。
ぼくは勉強は得意ですが、運動は苦手です。だからこそ、まじめに打ち込まなくてはいけないと思いました。
ぼくが、どうしたら運動も得意になれるか考えていたら、後ろの席の海子ちゃんがいいことを教えてくれました。
「運動場にあるうんていを、一度も落ちずに渡れたら、運が上向きになって願いがかなうんだって」と、海子ちゃんは腕組みをしながら言いました。おうちに来る植木屋のおじさんから聞いたから間違いないそうです。ぼくは植木屋のおじさんは知りませんが、海子ちゃんが言うなら間違いないと思いました。
人に見られるとはずかしいので、だれもいないときにうんていの練習をはじめました。うさぎ小屋の隣にあるので、飼育委員が帰ってからの練習です。
どっしりしたぼくはからだが重いので、ぶらさがるだけでもやっとです。家に帰ってからはうでたてふせもやるようにして、3日目にようやく腕を前に動かせるようになりました。2週間毎日練習して半分までいけるようになりました。まだ半分だけど、ぼくはうれしかったです。
金曜日、げた箱で上ばきを運動靴にはきかえていると、海子ちゃんから「うんてい、できるようになった?」と聞かれました。ぼくはとっさに「うん! 渡れるよ」と答えてしまいました。海子ちゃんは「わあ、すごい。月曜日に見せてね」とウインクして帰っていきました。
なんでかわからないけど、ぼくはうそをついてしまったのです。どうしよう。ぼくより小さい一年生がじょうずにうんていをやっているのが見えて、ぼくは自分がなさけなくなってウジウジしてうつむきました。
土曜日も学校に来て、一日中うんていの練習をしました。あと少しのところで落ちてしまいます。あたりがうすぐらくなってきたので家に帰りました。
日曜日も練習です。どうしても最後まで渡れずもうあきらめようかとうずくまったとき、「がんばって」と声が聞こえました。上を向くと海子ちゃんが立っています。
夢中になっていて、人がいるのに気がつきませんでした。うっかりしていました。
うそがばれてしまって、海子ちゃんにうんざりされてしまうと、ぼくは泣きそうになりました。ぼくのうるうるした目を見ながら、海子ちゃんは「あと少しね。がんばって」とやさしく言いました。
ぼくはもう一度うんていにチャレンジすることにしました。運を天にまかせて、一本ずつ前に進んでいきます。あと2本のところで腕がビリビリしてきました。もうダメだと思ったとき、「うんとこどっこい」という声が聞こえました。ぼくの右手が自然に前に出ました。もう一度「うんとこどっこい」の声が聞こえました。今度は左手が前に出ました。
ぼくは、うんていを最後まで渡れました。
海子ちゃんはわらいながら、「おうえんしようと思ったら、変な声が出ちゃった」と言いました。
ぼくもわらいました。
うんていの運試しがうまくいったので、宇宙飛行士になれる気がしてきました。
ぼくはお父さんに似て浮かれポンチなんだと気づいたら、もっとおかしくなって、さっきより大きな声でわらいました。
空には美しい夕焼けがひろがっていました。
おしまい。
最後までお読みいただきありがとうございます。