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モーリーのもぐらたたき(創作)

「言葉であそぼ」では、五十音を使って物語を描いていきます。今回は「も」から始まる言葉がたくさん入っています。

森の奥深くに子どもたちだけで暮らしている村がありました。大きなもみの木が村のシンボルでした。
美味しい水が湧き出る泉と、美味しい果物や野菜が採れる畑があって、子どもたちはすべての自然に感謝しながら生活していました。少し大きくなった子どもは狩りに出かけて必要な肉や魚を獲りました。
狩りに行く前の年齢の子どもは、火を燃やす係になります。それより小さい子どもは卵をとりに行く係です。ニワトリが警戒しないように近づく重要な役目なのです。

大人になるとこの村を旅立つ日がやってきて、他の町や村に住みますが、年に一度のお祭りにはみんな戻ってきて、大いに盛り上がります。
不思議なことに、この村の水や果物で儲けようと考えるようになった人は、この村の場所が分からなくなり、もう二度と帰ってこられなくなるのです。
ですから、大人がたくさん戻ってくるこのお祭りでも、子どもたちは安心して過ごすことができました。

子どもたちもいろいろと準備をしてもてなしますが、大人たちもお土産をかかえてやってきます。食べもの飲みものはもちろん、村では作れない文房具や本なんかもプレゼントされます。たくさん過ぎて手では持ち運べないので、この日だけは木材とモーターを利用した貨物車が作られるほどです。
お祭りの日に届く布や毛糸は、子どもたちが縫い物や編み物をして、自分たちの着る服や毛布に仕上げます。去年は光沢のあるモスグリーンの生地でたくさんのドレスやシャツが作られました。
最年長のモグロ長老は、子どもたちの装いを見るとホホオと感心した顔をして自慢のヒゲをゆっくりと撫でおろします。そして口をモゴモゴさせながら「申し分ない!」と言って子どもたちに笑いかけます。子どもたちはモグロ長老にほめてもらえると「ありがとうございます」と元気よく喜びます。

子どもたちは、めずらしい食べものや甘いスイーツをもりもり食べるのも大好きです。人気なのは自分で餡を挟んで食べる最中で、一度に口に入れて良いのは2個まで、と注意書きが貼られるほどです。
お話を聞かせてもらうのも大好きで、物知りでいろいろなことを教えてくれる人のまわりに自然と集まってきます。
むずかしい質問をしても、ものの見事に答えてもらえるので、子どもたちは大満足。
そして、自分たちも求められた回答を答えられるような素敵な大人になろうと思うのです。

年に一度のお祭りで、子どもも大人も心から楽しく過ごしますが、一番モテモテなのは遊び上手のモーリーさんです。
楽しい遊びを教えてくれたり、大きなゲームを持ってきてくれます。

今年モーリーさんが持ってきてくれたゲームは、もぐら叩きです。初めて見た子どもたちの目はキラキラ。やってみたくてワクワクがとまりません。
モーリーさんは、もったいぶるようにエヘンと咳払いをして、遊び方を説明しました。
「スイッチを入れると、あちこちの穴からモグラが飛び出てくるから、このハンマーで叩いてね。終わりの時間がくると自分が叩いた数がわかるよ」

早く遊びたい子どもがパパパと並んだあと、みんながゾロゾロと列になります。口の中でモグモグしていた子もあわててゴクンと飲みこんで並びます。
順番を待っていれば遊べると知っているので、揉めたりはしないのです。並んでいる子はみんなニコニコしています。大人たちはそんな子どもたちの姿を見てしあわせを感じます。「萌え〜」なんてつぶやく人もいます。

最後に叩いた数は表示されるものの、みんなはあまり数は気にしないで、叩けても外しても大はしゃぎしています。楽し過ぎてもんどりうって倒れている子もいます。

そんななか、モーリーさんが物陰に隠れているモンちゃんを見つけたので、そばに行って「どうしたの?」と話しかけました。
モンちゃんはモジモジしながら「叩かれるモグラがかわいそうなの」とヒソヒソ声で言いました。楽しんでいるみんなの邪魔をしたくはないのです。

モーリーさんは
「モンちゃんは優しいんだね。モグラを心配してくれてありがとう」と言うと、自分のポケットから、もぐら叩きに使っているハンマーと同じものを取り出しました。
「このハンマーは痛くないようにできてるんだよ。お手手を貸してごらん」と、モンちゃんのもみじのような小さな手を取りました。
そして、その手をハンマーでチョコンと叩いてみました。

モンちゃんは大きく目を見開いて「痛くない!」と言いました。

モーリーさんは「そうだよ。だから安心して遊んでおいで」と言った後、「痛くないからといって、モグラが嫌がっていたら叩いたらダメなんだ。今日持ってきたもぐら叩きゲームのもぐらたちは叩かれるのを楽しみにしてるから大丈夫だよ」と付け加えました。
この村に戻ってくる大人たちは、いつでも子どもたちの行動のモデルになれるように気をつけているのです。

たくさん食べてたくさん遊んでたくさん話していたら、いつのまにか空が深いオレンジと桃色に染まっていました。
もうそろそろお祭りのフィナーレです。

この時間になると行われる餅つきを、子どもも大人もとても楽しみにしています。
あんなに食べたのにまだ入るの?と言われそうですが、つきたてのお餅は文句なしの美味しさですもの。威勢のよい餅つきの音を聞くだけで猛烈におなかが空いてきます。

みんなは自分の分のお餅を受け取ると、先を尖らせた竹の先端に刺して、燃えさかる焚き火の炎であぶるのです。

この村の子どもたちは、火の偉大さを知っているので、火のそばでは決してふざけたりしません。感謝の念をもってお餅を見つめています。

焼けたお餅をお汁粉のなかに入れるころ、お椀のなかと同じように、村もモノクロの世界に変わってゆきます。
あかりの灯ったランタンのように、木蓮の白い花びらが明るく浮かび上がっています。

みんなは「おいしいね」「おいしいね」と言い合いながら、ゆっくりとお汁粉を味わいます。
木々の合間からのぞいているお月さまも、お餅をお供えしてもらって嬉しそうです。


年上の子どもたちが小さな子どもたちを連れて家に帰り、大人たちが焚き火の火が完全に消えたことを見届けると、今年のお祭りもおしまいです。

生きていれば、いろいろ諸々ありますが、大人たちは、来年もこのお祭りに来ることを目標にして、それぞれの居場所に帰っていきます。


もしも来年、あなたがこの村のお祭りに参加したかったら、モーリーのモグラ叩きより面白いゲームをもってきてくださいね。

入れてくれるのかって?

大事なことを忘れていないなら、
もちのろんです。


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